「なにか食べる? 薄明ちゃん」

 と白兎姫は言った。

「食べる」

 とにっこりと笑って薄明はいう。

 白兎姫は台所に立って、料理をはじめる。

 保存しておいたいろんな野菜を切って、鍋の中に入れていく。

 くつくつと気持ちのいい音がして、やがていい匂いが小屋の中に漂い始める。

 料理は数少ない白兎姫の趣味だった。

 その匂いを嗅いで薄明は嬉しそうな顔をする。

「今度はどんな国に行ってきたの? 薄明ちゃん」

 と料理の味見を小皿でしながら、白兎姫は言った。

「ずっとずっと南にある国だよ」

 と薄明は言った。

「海の見える国さ。ただ海と言っても僕が見たのは穏やかな海じゃなくて、荒れ狂うとても激しい海だったけどね」と薄明は言った。

「荒れ狂う海」

 とそんな海の姿を空想しながら白兎姫は言った。

(ずっと都の自分の家やこの山奥の小屋のような狭い閉じた世界の中でしか暮らしたことがない白兎姫は海を見たことが一度もなかった)

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