6.再会
ガランとした教室。小さな子供用の勉強机が整然と並んでいる。少子化の影響か自分が在籍していた時よりもずいぶん数が少なく思える。教室の前には大きな黒板があり、その前には先生用の教卓が置かれている。
教室の後ろに目を向ければ中型の黒板があり、明日の時間割りや宿題の内容が書かれてあった。黒板の下には鞄を入れておくためのロッカーがずらりと並び大きな口を開けている。黒板の上には習字の時間に生徒達が書いたものであろう墨で『夢』や『希望』といった文字か書かれた紙がところ狭しと貼られている。天井付近に目を向ければ『みんなで力を合わせてがんばろう!』というスローガンも掲げられていた。
そして南側の壁には大きな窓が並び、その向こうには様々な色の明かりを灯した夜の町並みが広がっているのが見える。
窓から差し込む月と街の明かりを受けて、教室の中はぼんやりと青白く染まっていた。
彰人はぐるりと周囲を見回した。
教室の中はしんと静まり返っている。どこにも人の気配は無かった。
そんな筈はない。美月らしき人影がこの教室に逃げ込んだのは確かだ。それ以降、ずっと出入口からは目を離してはいない。逃げ出してはいない筈だ。
おそらくきっと、どこかに隠れたのだろう。
とはいっても、教室の中で隠れられる場所など限られている。
彰人は足音を忍ばせて教室の前に置かれた教卓へと歩み寄った。
下を覗き込む。
誰もいなかった。
ここにはいない……。
彰人は続いて窓の方へと歩みを進めた。
窓の片隅で束ねられまとめられているカーテンの膨らみへと手を伸ばし、そっと押し込んでみる。
何の手応えも無し。
ここにもいないか……。
だとすると、
彰人は教室の後ろへと目を向ける。
あとは、あそこしかない。
彰人は並べられた机の合間を通って教室の後ろへと向かった。
教室の後ろの片隅に置かれた縦長の鉄製の箱。通称、掃除用具入れなどと呼ばれるあの箱だ。彰人はその箱の前に立った。
教室の中で隠れられる場所といえば、残るはここしかない。
彰人は扉の取っ手に指を掛けた。
鼓動が早くなる。ビックリ箱だと分かっているのに肝心の中身はまるで分からない、そんな箱の蓋を開ける気分だ。何が飛び出してくるのか、言葉にできない感情に心が震える。
彰人はごくりと固唾をのみ、心を落ち着かせる。
一息分の間
そして、彰人は意を決して、バゴンッと勢いよく扉を開け放った。
「あ~あ、残念、とうとう捕まっちゃったぁ~」
掃除用具入れの中から明るく弾んだ声が響いた。声の主は軽く両肩をすくめると、唇の合間から少しだけ舌先を出した。悪戯が見付かった時の子供のように。
彰人は愕然とした。
掃除用具入れの中に人がいた。栗色のふわふわとした髪、無邪気な瞳、幼い顔立ち、柔らかそうな頬、そして小柄な体に細い四肢。それは紛れもなく子供だった。
その子供の視線が彰人へと向けられる。
その子供はにこやかな笑みを浮かべて言う、
「久しぶりだね、彰人くん。元気してた?」
頭を何か強い力で殴られたようだった。時間の流れがスローモーションになり、思考が止まってしまったのがはっきりと分かった。驚愕という言葉こそが相応しいかもしれない。信じられない、到底受け入れがたい事実を前にして、目が見開かれ、息が詰まった。心臓さえも止まるかと思った。
口があんぐりと開くが、声は出なかった。
そこに――、深谷美月がいた。
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