暗闇の向こう側
消しゴム
0.あの夜の出来事
それは笠木彰人がまだ小学生だった時のこと。
彰人は友達と一緒になって夜の学校に忍び込んだ。別に何か悪さをしようとかそういう訳ではなく、ただ夜の学校の様子を見てみたいという、ささやかな好奇心と、ちょっとした冒険心からなる、ただの遊び目的からだった。
そしてまんまと学校の中へと忍び込むことに成功した彰人達は、学校の中を見て回り、遊び回った。
しかし夜の学校でできることは限られていた。理科室や音楽室といった特別教室はどこも鍵が掛かっていて入ることはできなかったし、職員室周辺はセキュリティが厳しくて近付くことさえ危ない。近所の人に見付かってはまずいため明かりを点けることもできないし、大声で騒ぐこともできない。そんな夜の学校でできる事といえば、学年の違う他のクラスの教室を見て回ったり、誰にも咎めらることなく思いっきり黒板に落書きができる、そんな程度だった。そんなこと、その気になれば昼間の学校でもできることだ。
そんな窮屈で不自由な状況では不満も溜まるというもので、夜の学校で遊ぶことに飽きてくるのにどれほどの時間も掛からなかった。
やがて誰からともなくそろそろ帰ろうか、という声が出始める。
その時になって彰人達は一緒に忍び込んだ筈の仲間の一人がいなくなっていることに気がついた。
その子の名前は――、深谷美月
彰人達は学校中を探し回った。しかし美月を見付けることはできなかった。どこにもいなかった。
夜とはいえ、毎日のように通っている学校だ、どれほどの危険があるとは思えない。もし何かあったなら悲鳴のひとつも聞こえそうなものだし、大きな物音だってする筈だろう。しかしそれらも一切無かった。
おそらく早々に遊ぶのに飽きて、みんなに黙って先に一人で帰ってしまったのかもしれない。もしくは、みんなを驚かそうと今もなおどこかに隠れているのかもしれない。どちらにしても、問題は無い筈だ。
彰人達はそう思い、その時はそれ以上深く考えることなく、みんなして校舎から抜け出ると校門前で解散して、各々自分の家へと帰った。
しかし……、
翌日の学校に、深谷美月の姿は無かった。
その翌日も、翌々日も、美月が学校に来ることはもう二度と無かった。
あの夜を最後に、美月は行方不明になってしまったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます