ベリショーズ12雑感 ―痺れた一文

新出既出

はじめに「ベリショーズ」と「ショートショートガーデン」

 「ベリショーズ」というショートショートアンソロジーがある。アマゾンkindleストアで検索していただければ、ショートケーキをモチーフとしたかわいらしい「ベリちゃん」の表紙がずらりと並ぶ。執筆陣は、今をときめくショートショートの旗手、田丸雅智さんの「ショートショートガーデン」に作品を投稿している方々で、昨今では、「坊ちゃん文学賞」をはじめとする多種多様なコンテストの受賞者を続々と輩出する実力者集団である。


 この度、2024年1月に最新号「ベリショーズ12」が刊行された。毎回設定されるテーマ、今回は「スター」だった。XのDM欄や、ベリショーズのあとがきなどを読むと「スター」というテーマはかなり難しいものだったことがうかがえる。編集部があえてカタカナの「スター」を選択した理由は、なるべく広義にとらえられるようにとの配慮だったのだろうが、「推しの子」のブームによる「スター=アイドル」の図式にのるか、あえて外すかの選択がまずあり、それから「星」「星型」「ポ『スター』などの単語組み込みタイプ」などへと着想が分かれていったようだ。


 田丸雅智さんのメソッドとして「異質な言葉の組み合わせ」から発想する。というものがある。さまざまな言葉が記されたカードをランダムにめくって新たな組み合わせの言葉(=物質、概念)に徹底的にこだわって話を膨らますのだ(異論は認めます)。ショートショートガーデンの猛者たちは、この手の無茶ぶりの手練れである。※ その一例として、たらはかに (田原にか)@tarahakani さんの「毎週ショートショートnoteを挙げる。


 ショートショートガーデンは400文字以内のショートショート作品を投稿するスペースだ。ショートショートといえば、星新一さん、阿刀田高さんなどを思いうかべる。「奇妙な発端。意外な展開。切れ味のよいオチ。」を備える「ごく短いもの」で、「ショートコント」「小噺」よりも少し長いというのが私の認識である(異論は認めます)。


 ベリショーズの投稿条件は「テーマ」または「自由テーマ」で3,000文字以内の作品だ。400文字上限のショートショートガーデン換算で、7話から8話分の分量である。普段、『54字の物語(PHP研究所)』や、Xの文字数上限の140文字小説などにも取り組む作者達にとって、3,000文字は決して短くない。だから、普段よりも描写や展開を広げられる分だけ悩ましくなる。その一方で、初稿が5,000~8,000文字程となり、そこから削りに削るという方法で作品を研ぎ澄ます方もいて、このあたりのアプローチの違いもとても興味深い。

 何を膨らませ、何を削るのか。どこから初めて、どこで終わるのか。3,000文字となると、一目で全てを見渡すことがぎりぎりできるかできないか、という文字数ではないだろうか。とはいえ、やはり性質としては、瞬発力系であろうと私は思う(異論は認めます)。


 私が作品を鑑賞する上での興味は、「どこへ連れて行ってくれたか」の一点に尽きる。それは「未知」を示してくれる冒険でなければならない。「今、ここ」からどれだけ隔たることができたか。それは、自分自身をどれだけ破壊してくれたか。という風に言い換えることもできる。

 全ての体験は自己破壊である限りで意味を持つと、わたしは考えている(異論は認めない)。

 だから、わたしは、短編だろうが長編だろうが、詩だろうが、絵画だろうが、彫刻だろうが、ニュースだろうが、ドラマだろうが、音楽は、これはまたちょっと違って音楽で自己破壊できるほどの素地が備わっていないので保留するが、とにかく、そういう価値観で接触、摂食、しているのである。


 さて、前書きが長くなりすぎたが、次の章ではいよいよ「ベリショーズ12」の作品を読んで、「痺れた一文」を紹介していく。いわゆるレビューや感想文ではないことはあらかじめお断りしておくが、ネタバレ要素が含まれるので、まずは、ベリショーズをご一読していただきたい。

それでは。

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