明晰夢の少女
刈谷つむぐ
一 それは、久方ぶりに寝られた時のことであった。
私は、落ちた。語るに落ちたのだ。夢に
森林の中は妙に薄暗かった。望月が
あゝ、
見よ。この端正で小さな顔を、背まで伸びたる
しばらくの間、私も彼女も、互いに凝り固まり、ただ目線をぢっと合わせていた。夢中であるから、時間がどれ程経ったのかは解らぬ。長いと思いながら
——私の視線は彼女の瞳孔へ一直線になった。私も彼女も同じことを仕合わせたからであろうか。その深い孔に私は嵌ってしまった。どんどん奥底へ、奥底へと惹き込まれていく。その行為により得られるものは何もなかった。彼女の心理が見える訳でもない。しかし、視線は永遠に瞳の奥へ沈んでいき、そのまま私は囚われの身になってしまった。解放されるまで、幾年も時が経ったと思われる程である。
こうして自ら文章で描けば、自らの文才の欠如がひたすらに憎たらしく思えてくる。憂鬱になる。これだから小説風の文章は思い起こしたくないのだ。ましてや原稿用紙に書くとなれば、もっと
そんな文学的感傷に浸っていると、彼女は「ふむ、おもしろいね」とまるで哲学者気取りのことを云った。何を以ておもしろいと感じたのか全く検討もつかなかったが、彼女は口角を上げてにやけ、続けて「ボクはね、心を読めるんだ」などと
「なァに、少しからかってみたくてだな」彼女は白い歯をにっと見せてきて、私の熱の集まる顔を見て勝ち誇った様子であった。夢であるはずなのに、何故か顔の熱を体感したのは、何故であろうか。
「何でだろうな? ——まあ良い、今日はこれでお別れのようだ。君は寝る頻度をもう少し増やしたほうが好い。また会おう。いつかは君の考えるところの現実に行きたいのだがね」
彼女がそう云うと、視界がぼやけているような気がした。遠くから、けたたましく鳴る時計の音が聞こえる。惚けた視界が戻ることなく自宅寝室の天井を映したように、惚けた思考も感情も、一度落ちたものから戻ることはなかった。
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