おまけSS:アレクの目覚め①
こちらは転スパシリーズが終了する記念のSS。転スパシリーズに載せようかと思いましたが、ラセル視点なのでこちらで掲載することにしました!
親子愛溢れるSS第一弾です。
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次男のアレクが15歳の誕生日を迎えた。と同時に魔力が強い暴走と共に生まれた。あらかじめわかっていたことなので、ラセルは周囲とアレク自身も守る結界を用意していた。
「
あまりに強い魔力は、自分自身も傷つける。それは自身の体験でわかっていた。アレクの前世は類まれなる魔術師である。その魔力もまた強大だ。
しばらくすると、アレクの魔力暴走も収まった。
「大丈夫か、アレク」
蹲って暴走に耐えたアレクの肩を抱く。アレクはビクっと震えて、怯えたような瞳でラセルを見上げた。
「……思い出した。全部思い出した」
アレクは震える声でそう呟いた。
思い出すことは想定通り。これでアレクは何の教育をせずとも大魔術師として活躍できる。サイラン・アークレイ――アレクの前世が生きていた時代と比べ、現在の技術は大幅に進歩している。
それでもなお、サイランほどの知識と独創性に満ちた魔術師は存在しない。アレクが魔術師としてキャッツランドの魔術師界に加わることで、世界の魔術師界をキャッツランドがリードすることができる。
しかしそれは、我が子を駒として見ているも同然だった。
アレクが生まれる前はプラスのことばかり思い描いていた。しかし、いざ子供として転生したアレクを見ていると、これが本当に正しかったのか、誤っていたのではないかと思い始めた。
アレクは愛らしい子供だった。
美しい銀髪とサファイヤの瞳を持って生まれた心優しい美少年で、誰からも愛される。ラセルもカナも、王宮の家臣団も、惜しみない愛情を込めてアレクを育てた。
アレクに期待することはただ一つ――健康で元気に育ってもらうこと。それ以外を期待するのは間違いだと気付いた。
「ごめんアレク、俺さ――」
言いかけた時、アレクはものすごい勢いでラセルから離れた。
「ま、まだ足りないんですか? 一回ギロチンにかけて……また俺を痛めつけるんですか? ク、クソガキの父上に逆らったから」
ガタガタと震えている。完全に怯えている。
「アレク、誤解だ。俺はお前をギロチンにしたりしないってば」
「じゃ、じゃあ死ぬ前に聞いたヒカルゲンジ大作戦で俺を手篭めにしようと」
「しないしない! 俺はおむつを替えてあげた息子にそんな劣情は抱かないって」
アレクは美しいサファイヤの瞳に涙を浮かべている。
「……あ、あの時、クソガキ――父上は、『お前の才と知識をキャッツランドのために活かしたい』と言った。俺を国のために利用しようとして……」
「えーっと……それは……」
これは誤解ではない。真実だ。アレクは咎めるような目でラセルを見た。
「今まで育ててくれたのは、そのためだったんですね。俺を愛していたからじゃなく、利用するため」
「そ、それは違う。誤解だよアレク!」
アレクは逃げるように窓を開けて飛び降りてしまう。ここは三階だ。慌ててラセルは駆け寄り、アレクを飛行魔術で包もうとした。
しかしそれより早く、アレクは自分でふわりと風をまとい、庭に華麗に降り立っていた。号泣しながら庭を駆けて行く。
ラセルも慌てて庭に降りて追いかけたが、ラセルより早く、従兄弟でアレクの親友でもあるケネトと、遊びにきていたカグヤ王国のルナキシア王太子の娘、ルナサファリがアレクに駆け寄った。
ルナキシアは銀髪というカグヤ王家の特徴を持つアレクを可愛がっていて、娘の婿にしたいと言っていた。その関係でなのか、よくこのルナサファリはキャッツランドへ遊びにやってくる。
「アレク~、なに泣いてんの? 話してみなよ」
ルナサファリがアレクの背中を優しく撫でている。
「俺は……ッ……三流のテロリストだったんだ……ッ!……お前の父上も殺そうとしたんだ! 慰めないでくれッ!」
アレクはそう叫んで激しく泣いた。
ケネトが困ったように近づいてきたラセルを見上げた。
「叔父上、アレクはどうしちゃったんですか?」
「えぇーっと……ごめんな。この子は俺が回収するね」
ラセルは左手に刻印を出した。神力を解放した状態なら、サイランの魔力を受け継いだアレクよりもレベルは上位になる。
「
催眠魔術は自分よりレベルが下の者にしか通用しない。全力の催眠魔術をかけてアレクを無理やり寝かせてから抱き上げた。
「二人ともごめんな。お騒がせしました」
そのまま飛行魔術で窓から部屋に入り、アレクをベッドへと寝かせた。
◇◆◇
「本当に俺は罪深いことをしてしまった。アレクがグレたら俺のせいだ」
中庭のベンチで、カナとシリルを相手に懺悔をする。サイラン転生についてはこの二人は共犯者だ。シリルはノリノリで賛成し、カナはちょっと嫌そうながらも助力してくれた。
「でも人格はアレクのままなんでしょ? アレクの人格にアークレイ先輩の知識が乗るだけだって言ってたじゃないの」
カナは少し責めるような目でラセルを睨む。
「まぁ、アークレイの性格のままでも、アークレイにはなりようがないでしょ。今のアレクは彼が憎んでいた『クソガキ王子』そのものですからね」
シリルはクールにそう分析をする。
サイラン・アークレイは、王子でありながら優れた魔術師としての力量を持つラセルを妬み、憎んでいた。恵まれて金に苦労することもない。見た目もいい気楽な第七王子。
まさに今のアレクそのものだ。それに加え、アレクはラセルよりも女友達も多く、よくモテる。苦労人魔術師からは嫉妬と羨望の眼差しで見られるキャラである。
「ていうかさ、俺があいつにかけた愛情、全部打算だって思われたんだ。俺とアレクの信頼関係が大きく崩れてしまった」
ラセルはアレクが生まれてからのあれこれを思い返す。初めてハイハイをした日、パパと呼んでくれた時。
まだ幼いアレクを連れて、サイラン・アークレイの墓参りに行ったことがある。罪人達が眠る墓石に花を添えた。
ここには「一度しか遊んでくれなかった友達」が寝ていると説明すると、アレクはにっこりと笑って「じゃあ僕はたくさん遊ぶ友達になってあげる」と言ってくれた。
「うぅ……ッ……アレク……ッ」
庭で号泣をしていたら、庭にいた猫達がにゃーにゃーと寄ってくる。
「ちょっと、泣かないでよ。あんたが泣くとロクなことが起きないんだから!」
カナは嫌そうな顔でラセルを泣きやませようとする。
ラセルが国王になってから目覚めた能力がある。
それが、【
要は、究極の泣き落としである。ラセルが魂を揺さぶられるほど感情が高ぶり大号泣をすると、ラセルの望んだ結果が返ってくるというもの。
庭で可愛がっていた猫達が危篤になる度にラセルが号泣した。そのせいで庭の猫達の寿命が大幅に伸びてしまった。庭に猫又が大量発生してしまうのでは、というくらい
「いっそのこと、アレクの前で泣けばいいんじゃないですか? 『グレないでくれ~』って泣けば、アレクはその命令でグレません」
シリルが冷徹なことを言う。
「も、もう、あいつのことを魔術で支配するのはやめにしたい。それはぜーったいにやりたくない!」
ラセルは激しく頭を振った。しかしそうもいかなくなった。
翌朝、アレクは部屋から出てこなかった。探さないでください、と書き置きをして行方不明になってしまったのだ。
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