魅了と祝福

「あの、男嫌いって言うのは、男全体が嫌いというか苦手って意味で、あなた単体について嫌いって意味では全然ないんだけど……」


 ん? 自分で言っててよくわかんなくなってきた。


 ラセルも首をかしげている。


「俺は正真正銘の男で、お前は男が嫌いなんだろ? つまり俺も嫌いってことじゃね?」


「なんかそういう意味に聞こえるけど、そうじゃないっていうか。大枠で考えたら嫌いなんだけど、個別でみたらそうでもない……的な」


 あぁ~~~うまく説明できない! 誰か男嫌いを巧い具合に説明できる人はいないのかな。


「あ、じゃあさ。俺個人を見て好きと嫌い、どっちの比率が高い?」


「なにその答えづらい質問……」


 改めて考えると、どっちの比率が高いだろう。


 多分、ラセルについては恋愛感情的な好き、に傾いているんだけど、それをぐいっと違う方向にもっていきたいから理性で嫌いなところを探している……的な。


 なんだか自分でもよくわかんない。


「そ、そんなことより早くにゃんこになってよ」


 そう言うと一瞬で猫になった。やっぱりこの黒猫ちゃんは可愛い。


 今は特に魅了とかは使ってなさそうだけど、愛おしさすら感じてしまう。


 首輪を丁寧につけてあげる。黒に映えるように赤とピンクの派手な首輪。可愛い鈴付き。


 抱き上げると、ますます可愛さが増しているような気がするよ。


「ちょっとお披露目しよっと」


 そのまま黒猫を抱っこして船を移動した。


「実はその首輪ね、ひと編みひと編み、もっともっと可愛くなりますようにって祈りを込めたのよ。なんちゃって祝福の首輪ね」


「へぇ……鏡見てないからわかんないけど、可愛くなった?」


「とーっても可愛い!」


 歩いているとレイナとビスが通路で話しているのを見かける。さっそくブレスレッドを渡したのかな。その効果も気になるところだけど、まずは黒猫ちゃんだよね。


「ねぇ、魅了使ってみてよ。いつもとどう変わるのか見たいの」


「基本的に仲間内には魅了って使わないんだけど……」


 普段使わないなら比較しようがないけど。とりあえず魅了を使ってもらうことにした。


「レイナ、ビス」


 呼びかけると、二人が振り向く。そこでラセルが渾身のにゃーんを発動させた。


 先日夫人に使った時よりも魔力の波動が大きく見えるような……。


 二人が恍惚とした表情を浮かべる。


「可愛らしい首輪してますね、ラセルちゃ~ん」


「ほんと~。きゃわいい~」


 ビスが「ラセルちゃん」って言うの破壊力があるな。二人はもふもふと夢中になってラセルを撫でまくる。


「つ……疲れた。こんなもんでいいか?」


「うん。バッチリ」


 黒猫を抱っこしたまま甲板に移動してみる。辺りは暗くなってきて、三日月が空を照らしている。


「祝福のやり方自体はわからないけど、作ってる工程で祈りをささげているってことかぁ」


 首輪の作成についてラセルに説明してみた。ついでに剣に祈りを捧げて、一瞬だけ効果が大きく現れたけど、すぐに消えてしまったことも。


「じゃあさ、剣自体を作る工程で祈りを捧げてみたらどうなるかな」


「剣自体?」


「うん、次のダビステア王国で、俺の剣を新調することにしたんだ。本国からも許可もらってるし」


「また22,222,222キュウかけるの?」


「それくらいかな」


 さすがは王子。大金をかけることになんのためらいもない。


「贅沢してるって言いたいんだろ? けど剣は大事なんだ。中途半端な相手だったら安物の剣でも全然間に合うけど、それなりの強い相手と対峙するときにはそれじゃだめなんだよ。俺には自分と仲間を守る責任ってのがあるからな」


「へぇ……。あなたもいろいろと考えてるんだね」


 やから風わがまま男子のようにも見えて、でも、仲間思いの責任感みたいなものもあって。あまり自覚したくないんだけど、ラセルのこともっと……知りたい。


 やっぱりこれって喪女の禁忌、恋ってやつなのかな。


 黒猫をなでなでして、ずっと黒猫のままだったら何も悩まなくて済むのに……なんて考えてしまう。


「できれば、俺の剣をカナに作ってほしいんだ」


「私に!?」


「ダビステアでいつも剣を作ってもらう鍛冶師がいるんだ。その人に話を通しておくよ」


 なんか大がかりなことになってきた。私が失敗したら22,222,222キュウが水の泡に……。


「俺がもっと強くなれるように祈りを捧げてくれないかな」


「あなた元々強いんでしょ? それ以上強くなってどうするの?」


 黒猫相手になんだかドキドキしてしまう。鼓動が伝わっていなければいいんだけど……。


「どんな時でもカナを守れる騎士ナイトでありたいんだ。俺のことは嫌いでも、騎士として傍にいられれば……ウギャッ! なにすんだ!」


 あまりに恥ずかしい言葉に思わず黒猫を甲板に放り投げちゃったよ。


「あんたそのセリフどんな気持ちで言ってんの!? もう恥ずかしいぃぃぃ~」


 やっぱりこの人は私が好きになっちゃいけないタイプだ。もうムリ……!!

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