軽蔑
私はあなたに貢いでいた。
あなたに奉仕をしていた。
私はあなたを褒め称した。容姿でも人格でも。
あなたのやるべきことを、全てやろうとした。あらゆる面倒な作業を、汚いそれを。
いつもやさしかった、温かったあなたが変わったのは、丁度その頃からだった。
私があなたにおべっかを使うとき、あなたはどこか怒っているように見えた。
あなたは何も言わなかったが、私にいつも不満を示すようになった。
とてもわかりやすく、そしてハッキリと。
どこか軽蔑しているようにすら見えた。
私は、何が何だかわからなくなった。
そしてあなたに怒りと不満を覚え始めた。
あなたと私はいつもシンクロしていた。
私が立ち上がるときは、あなたも立ち上がり (寸分違わずに) 、私とあなたのする作業は、阿吽の呼吸だった。
私は意識していなかったし、あなただってしていなかっただろう。
その頃から私たちのあいだで、齟齬が生じ始めた。
そして私はヤケになった。
私はあなたの元から立ち去った。ほとんど衝動的に。何の考えもなく……
今ならわかるのだけど、あなたは私を愛してくれていたのだろう。
私が私だから、私を愛してくれていたのだ。
あなたは私が、あなたの奴隷になることを望まなかったのだろう。
あなたは私と、対等の関係でいたかったのだろう。
私に対して、一人の人間として接してくれていたのだ。
だからあなたは私が貢ぎ出すと、奉仕し出すと、私に不満を示すようになったのだろう。手のひらを返したように。
それは多分、サインだった。
そしてきっと、愛だった。
私には、そんな愛が信じられなかった。
そんなものが、本当にこの世にあるとは思えなかったのだ。
あったとしても、それが私に向けられるとは……
だからその頃の私には、それらの発想が湧く筈がなかった。
あなたのサインにも、愛にも気づくことができなかった。
「あなたから見捨てられないためには、何かをしなくてはならない」といつも考えていたのだ。
きっと私は、あなたの側にいて、笑っているだけでよかった。
そんなこと、信じられるわけがなかった。
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