第59話 メテオストライク

 堀際で先に進めずに滞留していたゾンビたちが一斉に動き出す。

 かなりのゾンビを撃破したはずだったが、まだ最初の4分の1ほどの数が残っていた。

 続々と凍った堀を渡って城壁へと進んでくる。


 これはマズいな。

 そう思っていたら襟首を掴んで思いっきり後ろに引っ張られた。

 今まで俺の頭があった場所を雷撃の魔法が数発通り過ぎる。

「コーイチ!」

「すいません」


 背中を支えられて体勢を立て直した。

 魔人から目を離すなとくどいほど注意されたのによそ見をしてしまうとは情けない。

 あれを食らっていたら顔に永久的な損傷が残っただろう。

 まあ、俺の顔に傷がつこうが大きな問題ではないが、視力を失ったらかなり困る。

 それに、この戦いが継続できなくなって、皆に大迷惑となったかもしれない。


 残り2体なのでギサール様1人でもディスインテグレートできるかもしれないが、その間無防備になってしまう。

 ギサール様が俺の腕を励ますように軽く叩いた。

「1番はまだ動いていない。こっちから仕掛けて、先に4番をやるよ」


 俺が浮遊の魔法を使うのももどかしそうに、ギサール様は俺の手を取ると城壁から躍り出る。

 魔人4番は大地を蹴ったところだった。

 俺たちが守りを固めて出てこないと予想していたのだろう。

 慌てて雷撃の魔法の準備に入ったようだが、ギサール様が飛行の魔法で距離を詰める方が早かった。


 みるみるうちに彼我の距離が縮まり、魔人4番の顔が近づいてくる。

 俺は空を飛び始めると同時に準備を始めていたので余裕だった。

 すれ違いざまに4番の整った顔にディスインテグレートをぶち込む。

 みるみるうちに迫る地面から3メートルほどのところで急減速し、俺たちは静かに降り立った。

 これでラスト1体になる。


 チラと振り返ると防御塔のいくつかにゾンビたちが群がっていた。

 城壁と塔を繋ぐ渡り廊下が落ちているところがある。

 防御塔を放棄して城壁に逃げたということで、これは想定行動なので問題はなかった。


 事情が分からず登っていくゾンビと降りようとするゾンビで混乱が生じて時間稼ぎをするとこができる。

 ただ、城壁にかなりの数が張り付いていた。

 壁に取りつかれると見えないので迎撃がしにくい。

 それをカバーするのが防御塔なのだが、肝心の防御塔はほとんどが放棄されている。


 城壁の向こうからでかいツタが数本伸びてきてゾンビを叩き落とした。

 ツタはうねうねとくねり、根性で城壁にへばりついているゾンビを貫き、首を締め上げる。

「姉が本気を出したみたいだね。あっちは任せよう」

 ギサール様の声に振り返った。


 前方で強力な魔法の発動を感知する。

 強力だというのは分かるけどこんな魔法は知らないぞ。

「町ごと吹き飛ばすつもりか……」

 ギサール様の嘆息にふと見上げると燃えさかる隕石が3つ炎の尾を引きながらカヘナ・ヌオヴァに落ちてくるところだった。

 町の攻略に手間取ることに業を煮やしてとりあえず破壊することにしたらしい。


 空中に半球状の防御魔法が広がり始める。しかし、あまりに薄い。

 隕石を無視して魔人1番に向かうのが論理的には正しいはずだ。

 でも、そんなことは倫理的に許されないだろう。

「防御魔法を!」


 俺の叫びに両手を掲げたギサール様が口早に詠唱を始める。

 もう一重の魔法の壁が形成され始めるのを目にすると俺は魔人1番に向かって走り始めた。

 俺の切り札のディスインテグレートには欠点がある。

 正確には俺の能力不足なのだが、対象物に触れないと構成する術式が解析できず分解することができなかった。


 走りながらこれからの行動を決め、ラシスから譲られた最後の魔法を行使する。

 魂の複製ダブルソウル

 これにより俺は同時に2つの魔法を行使できるようになった。

 魔法が発動後にそれを維持しつつ別の魔法を唱えるのは、簡単ではないが珍しいことではない。


 ダブル・ソウルは根本的にそれとは異なる。

 本体と複製がそれぞれ別に魔法を使うことで同時に2つの魔法を発動することができた。

 魔人1番に対して火力を増幅したファイアストームが放たれる。

 これは複製した魂の放つ魔法だ。


 俺自身は魔人1番からの純粋攻撃魔法を防御魔法で弾き続ける。

 入射角に対して常に45度で展開する防御魔法魔法は本来の力以上に効果を発揮していた。

 それでも弾けなくなりそうになると、別の防御魔法が張られ透過してきた魔法を受け止める。


 ナイスだぜ俺の複製。

 複製は声を発せずに魔法を使えるので、まるで俺が高速詠唱しているようだ。

 まあ、魔人の放つ魔法を防ぎきれているのは、隕石を落とすなどという派手で強力な魔法を使った直後だからなのだろう。

 俺の実力からすれば、防御魔法を貫通されてもおかしくない。

 というか、むしろその方が自然だ。


 一か八かに賭けたが博打は上手くいったように思える。

 魔人1番までの3分の2ほどの距離を消化した。

 これなら押し切れるのではという期待が胸に湧き上がった。

 その瞬間に、背後から強烈な光が放たれる。

 つい振り返った俺の目にギサール様が爆炎に包まれるのが見えた。


 爆風で吹き飛びながら、俺の中で大きな怒りが膨れ上がる。

 首を無理やり前に向け戻した。

 うまい具合に魔人1番に向かって俺は飛んでいく。

 ディステイングレートの呪文を唱えながら俺は右手を魔人1番に向けた。


 その俺の手首を魔人1番はやすやすと握り、目標を失ったディスティングレートの魔法が右手で霧散する。

「いい気になるなよ。劣等種」

「なんだと、この野郎」

 歯ぎしりする俺に向かって魔人1番はせせら笑った。

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