八日目
今日は締め日だった。
いつの間にか、ヘアセットにも慣れてきて、生活のルーティンが決まって来た。
先輩方はこれの間に毎日女の子との予定を入れているんだから、すごいと思う。
そうでもしないと売れないのだからホストも甘くはないのだろう。
実質稼働時間を考えたら、本当に売れなければ意味がない世界なのだと痛感する。
僕は大学生ということもあり、逃げ場があるだけましだ。
これで本当に人生をかけてくるようなやつは、やっぱり博打をやっているようなものだ。
いつものように、営業時間が始まると各々がLINEをして、お客に営業をかける。
ここにいる人間は向上心が高くて疲れる。
僕は手持ちぶさたでなんとなくスマホで営業マニュアルを読んでみる。
お客が入りはじめると、アイスを用意したり、ヘルプに着いたりと忙しくなる。
仕事にも慣れてきたのかもしれない。
しかし、今日着いた卓の姫は19で水商売をしているという。
当たり前のように月に30万をホストに貢いでいるのは、この世界の異常性を象徴していると思う。
それにしても人間とは適応していくものなのだろう。
だんだんたばこの匂いにも慣れて、喉の痛みも無くなってきて、居心地の悪さも無くなってきた。
いつか僕はカクヨムに酒の街という小話を上げたが、ここはまさに現実のドブネズミの楽園だ。
ここでしか生きていけない奴らが大勢いる。
なぜ、30代でやめるホストが多いのかは、やはり酒が大きく関わっていると思う。
翌日まで酒が抜けないと、アフターや同伴に影響が出てしまうので、だんだん飲めなくなってくる。
しかし、卓が盛り上がっているならば飲まなければいけない雰囲気があるため、自分のペースなど二の次になるのだ。
卓の空気を壊さないこと、これなヘルプのホストも担当のホストも営業中は神経を注いでいる。
まったく接客業の最たるものと言われる由縁がわかる。
若い女性なんて、山の天気のように情緒が変わりやすいのだから、それをコントロールするなんてまさに神業と言えるだろう。
プロはプロ足る由縁があるものだ。
そんな生ものを相手にしているのだから、うん千万の稼ぎがあっても何ら不思議なことではない。
この街に来てわかったことがある。
それは若い女性とモテない男性は消耗品だということだ。
ホストの金も元を辿れば、冴えないおっさんが歌舞伎町に落とした金にたどり着くはずだ。
世間は負けた奴らにとことん厳しいらしい。
それは大きな声では語られないが確かな事実として、この街が体現している。
男は勝たなきゃ絞られるし、それが嫌ならそれなりに稼がなければいけないのだ。
顔が良いというのは金を生む。
せめて自分の子供は顔を良く生んでやるのが、良いと思った。
それだけで、未来の選択肢が広がるからだ。
水商売に限らず、昼の仕事でもだ。
結局、世の中は金なのだ、顔が良いというのは金を生む。
それが事実だし、揺るぎ無い夜の街が語っていることだ。
その日は営業が終わりに近づくと、液晶に今月のナンバーが発表されていった。
今月のNo.1はシャンパンタワーをした人だった。
まったくいかにもな世界だなと思った。
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