六日目
昨日は家に帰ってきてから、そのまま眠った。
気絶したというほうが近いかもしれない。
今日はワイシャツを買いに行こうと思った。
鉛のように重い体と、モヤのかかった頭を持ち上げて、自転車を走らせる。
深いことを考えようとすると、足が止まりそうになるため、ブルーハーツの歌を適当に口ずさみ今を乗り切る。
大きな坂道を上り、信号待ちをしている時に、なにか違和感を覚えた。
財布がない。
最悪だ。家に忘れてしまったのか、と思い家に引き返す。
せっかく早く出たのに、ともうため息すら出ない。
家に帰り、財布を探すが見当たらない。
いくら探しても見つからない。
デットラインが迫ってきて、仕方がないので、小銭を持って家を飛び出した。
なんだかもう嫌だ。
自分が嫌いだ。いつも関係のないところで追い込まれていく。
全部自分が悪いのだから、やり場のないストレスが溜まっていく。
なんとか電車には間に合ったが、座った瞬間に気を失うように眠った。
目が覚めると、新宿についており、ヘアメの時間に間に合うように小走りで人混みを掻き分ける。
セットを終えて、出勤すると雰囲気がいつもよりも重いと感じた。
空気がピリついていて、キャストや内勤の顔もどことなく険しく、いつもの華やかさとは違った非日常があった。
先輩ホストに挨拶をして、店内を回っていると、三つの卓のエリアの内、一つの内装が変わり、シャンパンタワーがあった。
金色の趣味の悪いワイングラスと薄ピンクのワイングラスが、僕の伸長よりも高く積みあがっていた。
仰々しいグラスの山を前にして、自分が本当にホストで働いているのだと、自分が自分でないような気がして、意識が遠のいた。
いつもよりもぎらついて僕の知っている世界とは違う生き方をしてきた人間しかいないのだと思った。
世界は広くて、知らない世界は僕の知らない人間で成り立っていて、今まで知り合った人と同じ生物とは思えない。
考え方、見た目、価値観、全部違う。
僕の人生にシャンパンタワーはいらない。
その日は僕はカカシだった。
同業のかたぎではないような見た目の人がVIPルームに来ていて、俺はそれの相手をしており、話の内容に圧倒されて、ずっと笑っていただけだった。
疲れた。
明日は久しぶりの休みだ。
風邪もひいているから、しっかりと眠って英気を養おう。
営業終わり、今日は先輩とは食事に行かず、一人でうどんを食べに行った。
店内を見ても、水に携わってそうな見た目の人間しかおらず、眠らない街の住民もうどんを食べるのかとぼんやりと考えた。
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