伝説の幕開け

初めての対バンライブは大成功を収め、僕達の知名度は飛躍。

そして仲良くなったAnotherと空彩の協力の元、3バンドで共同主催ライブ

初の主催をさせて頂ける事になったのだ。

思ってもいない大チャンスに僕達は揃って興奮した。

ベテランバンド達が味方についてくれて素晴らしい経験をさせてくれるのだ。


まどかちゃんもちえさんもステージ上でのAnotherとのやりとりをしっかりと観ていて大喜びをしてくれたので僕達の選択は間違っていなかったと確信する。

2回目のライブでいきなり主催は前代未聞の偉業とさえ言われた。


もちろん会場となるライブハウスは吉沢さんのお店。

僕達はライブ後にすぐ吉沢さんに申し込みをしに行った。

吉沢さんはこの界隈で8月に開催される予定があるライブをいろいろ調べてくれて集客に差し支えがなさそうな日をピックアップしてくれた。


『No Nameが主催するんだろ?それなら箱代は安くしておこう!』

いきなり好条件の提案だ。

こんなに贔屓にしてもらってもいいのだろうか?

集客出来なかったら吉沢さんに損をさせてしまう事になる。

責任は重大だ。


『吉沢さん!!ありがとうっ♪

そのかわり入場規制がかかるくらいお客さんでいっぱいにするねっ!!』

僕の不安な気持ちを察してだろうかあきちゃんが自信満々に吉沢さんに宣言した。

そうだ、不安な気持ちを持つ必要はないんだ。

僕達は確実にやれる!出来ることを全力でやるまでだ!!


通常一般で吉沢さんが経営するこのライブハウスを借りると、8時間貸りれて当日は運営スタッフが5人ついて50万円らしい。

開演時間5時間、開場は1時間前、リハ時間2時間で丁度8時間になる。

僕達No Nameが主催なら30万円で良いとの事で特別価格で貸してくれた。

さらに入金もライブ当日で良いとの事だ。


入金が当日で良いと言う事は、チケットを先に売れるのでお金がなくてもライブを開催する事が出来るのだ。

僕達が中学生なので、今後の事を考えて先にお金を作る必要がないように考慮してくれた。



この料金の中に、チケット2000枚印刷とフライヤー10000枚印刷が込みとなる。

吉沢さんが別で経営する印刷会社が印刷するのだ。

デザインを決めてから3営業日で仕上がる。


第1回のミーティングまでに各バンドでやる事の役割分担を決めた。

毎週土曜日に会議室をレンタルしてNo Name5名、Another4名、空彩5名でミーティングをする事になっている。


チケットとフライヤーのデザインをして提出、完成したチケットとフライヤーを取りに行くのが僕達の担当。

参加バンド募集の担当はベテランでバンドの繋がりも多い空彩が担当。

Anotherはライブ当日までのスケジュールと経過目標を作成担当。

最初のミーティングの日にそれぞれの発表を行う。



ネームバリューのあるAnotherと空彩、衝撃デビューでインパクトの強いNo Name

3バンドとも注目のバンドの為、たった1週間の募集で参加希望のバンドが多く集まった。

時間配分的に10組が限界なのだが僕達3バンドを含めて16バンドになってしまう。

僕達3バンドは主催の為参加確実なので6バンドを落とさないといけない。

どう選考するかが最初のミーティングの議題だった。


参加バンドが溢れてしまうのは、僕達3バンドの実力が認められていて一緒にライブをしたい人が多いという最高の称賛で嬉しかった。

参加バンドの選考については、今後のライブ開催に影響しないように落としたバンドから憎まれないように抽選にしたいとあきちゃんが提案した。


その提案は素晴らしく即可決。

2週目のミーティングで全バンドの代表者を集めて抽選する事になった。

好き嫌いや早い者勝ちで選んでしまうと落とされたバンドが不満を溜めてしまう為、次回以降の参加希望が減ってしまう事を恐れた。

敵は作らないに越したことはない。



ライブまでのスケジュールは第1土曜と第3土曜が全体ミーティングで各バンドの人達も来てもらい全体の状況やチケットの売れ行きなどの報告会。

第2土曜と第4土曜が僕達主催3バンドだけのミーティングを行い、ライブの内容が充実するように企画していく。

全体ミーティングは人数が多くなるので僕達3バンド以外は各バンド最低1名以上の参加必須の条件にした。



参加バンドが10組決まり、当日のテーブルを考えた。

参加バンド全てを出来る限り目立たせたい。

タイトなスケジュールになるが、リハ時間を1時間に短縮して1バンド5分を効率よく回す事にして各バンドの入り時間を11時

開場を12時にして13時開演19時閉演の6時間ライブにしようと決まった。

演奏時間は各バンド30分ずつで合計5時間。

残りの1時間は機材やバンドの入れ替え時間やちょっとした企画などを挟み消費される。


この街のライブのスタイルはひたすら効率よくバンドが入れ替わり演奏だけが次々と繰り返されていくようなスタイルが多い。

もちろんそれでも良いんだが、少し他と違った事を取り入れたかったのだ。


15分ずつの持ち時間で合計3回、主催の3バンドが余興を仕掛けようと決まった。

ただのライブではなく、イベント形式で盛り上げれたら他のライブとは違う特別な雰囲気も出来るし来場客は目当てのバンドの出番以外の時間も楽しめる。

ライブまでは4ヶ月くらいしかない。

僕達は学校を休みがちになりバンドの活動に明け暮れるようになった。

特に僕は中学生になってから平日もあまり地元に帰らなくなった。

あきちゃんの地元に入り浸っている時間が長くなり、学校へ行く日が半分くらいになった。



このライブをきっかけにAnotherと空彩の人達と、まるで家族のように仲良くなった事とチケットが飛ぶように売れた事で僕達は調子に乗った。

この3バンドで主催するライブを定期的に行いシリーズライブにする事になったのだ。


4ヶ月に1度、4月、8月、12月と年3回開催する事にした。

来場者へ記念に僕達主催3バンドが各自オリジナル楽曲を5曲ずつ入れて、合計15曲の限定CDを毎回先着300枚だけライブ当日に販売する事にした。

まだパソコンなどが広く普及する前の時代なのでCDを制作する為に業者へ依頼する必要があったが、scrambleのゆうやさんとけんいちさんが働いている会社がCD制作を請け負っていたので比較的安価で製作してもらえる事となった。



僕達は各バンド、制作会社のレコーディング施設で録音した。

一通りのレコーディングが終わると印刷するジャケットのデザインを考え量産依頼をする。

1枚単価500円で良いとの事で15万円支払う為に5万円ずつ3バンドから出し合う。

僕達は前回のライブでの収益から5万円を出した。

1枚1000円で販売するので150枚売れたら元を取れるのだ。

本来であれば300枚という低ロットでの生産は出来ないそうだが僕達のCDは特別に制作される。

ゆうやさんとけんいちさんが仕事場の設備を利用させてもらい、業務時間外にやってくれるからこそ許された低ロット低価格制作なのだ。

感謝でいっぱいだ。



初めての主催であり、曲数が少ない僕達は作曲にも時間を費やさないといけない、もちろん集客の活動にも専念しないといけないので忙しすぎる時間を目まぐるしく過ごした。


経験や実績の少ない僕達には仕方のない試練なのだ。

8月のライブまでに曲数は6曲から9曲にしか増やせなかった。

若さを武器にやれる事を限界を越えながらやり尽くした気がした。


僕以外のメンバーはまどかちゃんの顔を潰さないためにも学校にはある程度ちゃんと通わなければならない。

夏休みになるまでは本当に時間が足りなかったが、学校のみんなやファンの人達、ちえさん達scrambleのメンバーの協力によりなんとか時間を捻出して頑張る事が出来た。



1995年8月27日(日)

【No Name】、【Another】、【空彩】の3バンド合同主催


シリーズライブ第一弾

天使のような悪魔のGigs Vol,1

〜名前のないもう一つの空の色〜


見た目は天使のような優しそうな見た目の主催3バンドが悪魔的なやみつきライブを開催するという意味が込められた僕達のライブ。

サブタイトルには3バンドのバンド名をもじったタイトルがついた。


音楽が盛んなこの街で、この時代の代名詞とも言えるシリーズライブの第一弾が開催された。

僕達はまだそんな伝説の幕を開けたとはこの時は知らなかった。

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