伝説のバンドの後継
『あき〜』『あきちゃ〜〜ん』
『No Nameがんばれー!』
『期待してるぞー』『ライブ楽しみにしてたよー』
声援が聞こえてくる。
僕達がチケットを売った人も沢山来てくれているみたいだ。
あきちゃんは手を振りながらいつもの「ニヤリ」に表情に変わる。
『よっ!半年ぶりのステージだ。アドレナリンが大暴れだよ。
待ちに待ったNo Nameのステージだよ。今日は楽しんでくれたまえ!』
『初めましての人達!今日はよろしくねっ。
あき達のすげぇカッコイイ演奏が始まるから「惚れちゃう準備」しっかりしといてね。』
あきちゃんは相変わらず場の空気を掌握するのが好きみたいだ。
フロアにいる多くの人達が歓声を上げながら中学生の演奏はどのくらいのレベルなんだろうと期待しながらこちらを見ている。
『かわい〜』『頑張ってね〜』など、子供扱いをするような声もちらほら聞こえだす。
実力を見せつけて夢中にさせてやる。
全員が同じ気持ちだっただろう。強気で自信に満ち溢れていた。
ゆいちゃんのドラムが鳴り響き、僕達は演奏を始める。
ついに僕達のオリジナル楽曲を初めて披露する時が来たのだ。
曲が始まると同時に会場内は騒然とした。
中学生のレベルなんて知れているだろうと舐めていた人達が驚き、夢中になって曲を聴いている。
オリジナル楽曲を初披露しているのでこの曲を知っている人はいない。
知らない曲なので誰も口ずさめないから行き場のないハイテンションは歓声と縦ノリに変換せざるを得ないのだ。
フロアの意識は一丸となり僕達の演奏に向けられる。
大きな渦のような歓声を浴びながら無数の上げられた手を眺めつつ演奏を続ける。
圧巻の景色だ。
初めてキミと見たライブの景色はこれから先の人生で忘れる事は出来ないだろう。
魂に大きく刻まれたような感動を大切に噛み締めながら1曲目の演奏を終えた。
全体を掴んだ手応えを胸に、お客さんの反応を楽しみに待つ。
圧倒的な大歓声が沸き上がり、毛穴から全ての毛が逆立ちそうな感覚が身体中を走った。
子供扱いする声は消えて、対バンで集客した僕達の事を知らない人が大半のフロア内は僕達を肯定しながら応援する大歓声で包まれている。
『ありがと〜♪みんな最高だよー!』
『最高の気分のまま、次の曲行ってみよ〜』
あきちゃんのMCで次の曲を始める。
2曲目も同じく最高に盛り上がった。
知らない曲にこれだけ夢中になってくれるのだ。
今後は曲を知って貰うための活動も視野に入れていかなければいけないと感じた。
最高にテンションが上がった僕達は最高の演奏を届けられていたと思う。
2曲目が終わってすぐにバックヤードからオーナーがステージに上がってきた。
フロアが静まり返る。
『少しお時間頂きます。この店のオーナーをしている吉沢です。
今から15年前くらいの事です。この店が出来てまだそんなに時間がたっていない頃にこの街で大人気だった「scramble」という今は伝説になっているバンドがありました。』
『そのscrambleでギターボーカルをしていた「ちえさん」という女性の娘さんが中学生となり、メンバーを集めたバンドがこの「No Name」というバンドです。』
『私はこのバンドの録音音源を聴いて可能性を感じていましたが、今の演奏を聴いて確信に変わりました。「scramble」すら超えてしまうような素晴らしいバンドだと思います。
今後も当店ではNo Nameの活動を支援していこうと思っています。歴史に残るような伝説のバンドの誕生を今日は大いに楽しみましょう♪』
オーナーの大袈裟なアプローチはフロアの人達全員を沸かせた。
ちえさんから頼まれて言ったのだろうか?
期待値が高まり僕達の曲に集中する体制が出来上がったお客さん達。
楽しんで演奏出来る空間を作り出してくれた吉沢さんに感謝しつつ残り時間を最高の時間にするために全力で演奏を楽しんだ。
あっという間に持ち時間が終わり僕達のステージは終わる。
楽しい時間は本当に儚い。
楽しくて楽しくて興奮が全く醒めない。
ライブの醍醐味を感じ、夢中になりそうだ。
多くの人がファンになってくれたと確信する。
バックヤードから出ると沢山の人から話しかけられた。
『次のライブも絶対行くから!』と言ってくれる人も沢山いた。
Anotherと空彩の人達も駆け寄ってくれて大絶賛してくれた。
こんなに多くの人に認められた事はもちろん初めてだ。
あまりにも大きな感動で僕達は落ち着かなく、身体の興奮も醒めないのでVIPルームで終わりまで待機する事にした。
VIPルームではちえさん達もまどかちゃんも大絶賛してくれた。
オーナーも来たので途中の紹介のお礼をする。
VIPルームはフロアもステージも一望できる場所にある。
『立ち位置が少しバラついていて安定していなかった事だけ少し減点かな?
リハでちゃんと立ち位置をマスキングしなよ。ライブは見栄えも大事だから!』
ちえさんからのアドバイスも頂き後は他のバンドの観戦で時間を過ごした。
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