2.可愛いって///

ゴホゴホ。

喉も痛いし、今日はさっさと帰って、ゆっくりしようと思いながらコピーを取っていると、真後ろの近い距離から呼ばれた。

振り返ると目の前に前野君が立っていた。

「ど、どうしたの?」

昨日ツリーの前で泣いたことを思い出し、動揺してしまう。


「風邪ひいたんですか?」

前野君は普通みたいだね。

「そうみたい。前野君は風邪ひいてない?」

「はい。いつもと全く変わりません」

「よかった。私のせいで熱でも出してたらどうしようかと思ったの」

「もし熱出してたらどうしました?」

「え?そりゃ、まあ…『お大事に』ってスタンプを送るかな」

「スタンプだけ?冷たい!おかゆ作って欲しいです」

「やだよ」

「ええー」

「あははは」

「ね、倖さん。手、出して」

?と思いつつ手を出すと、スティックタイプののど飴をくれた。

あ、好きな飴だ!

まだ開封されてないし、わざわざ買ってきてくれたとか?


「ありがとう!嬉しい」

と笑顔を見せると、

「倖さんはマスク越しでも笑ったのがわかりますね」

と笑われた。


「どうして?」

「目がクシャってなるから」

「クシャって…失礼ね」

少し睨むと、

「褒めてますよ、笑った顔が可愛いって」

と言って、ポンポンっと頭に軽く手をあてられた。

「え?」

私は驚いて、聞こえるかどうか位の小さい声をあげてしまった。

前野君はそんな私を嬉しそうに見下ろすと、デスクに戻って行った。


取り残された私は、不意の誉め言葉と頭に置かれた手にドキドキしてしまう。


この歳で可愛いとか言われないし。

なかなかのたらしっぷりにあてられて、年甲斐もなく照れてしまった。

ドキドキした言い訳を作って、貰ったのど飴を一個口に含んだ。

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