商人
「さて!これからどうする?」
ミロが元気一杯で叫ぶ。さっきまで死にかけていたというのに。凄い奴だな。
「どうするって言われてもな...」
No name Deathの謎もあるが、そもそもここがどこか分からない。どこに行けばも分からない。
「私はもう一度チームを組み直したい。また皆で冒険して、笑って過ごしたい。」
ハハハと自嘲し、くだらないよね、と呟く。
そんな事はない。なら、俺が言うべき事は何か。
「探しに行こう。ミロ。」
ミロの顔がさっきの暗い顔からパァーと明るくなる。
分かりやすいな。
「うん!」
あ、でもね...とミロが申し訳なさそうに声を小さくて言う。
嫌な予感がする。さっきみたいに。
「私お尋ね者なの。だから、人頼れないのと魔術使えません〜!」
にこっとはにかんだ顔に文句を言うことは出来なかった。
後で教えて貰うからな。
——————
「それで?仲間はどこにいるんだ?」
「うーん...日本かなぁ。チームを組んだのが日本だったから多分そのはず...」
俺たちは木が沢山生い茂った森の中をトコトコと歩いている。
「それで?ここはどこだ?」
「うーん...スマホないし魔法も使えないからなぁ。分かんない!」
はぁ。ダメだこれ。
トコトコと歩く。
すると、草むらでゴソゴソと音がする。人影がするので、人間である。
「なあ、あの人...」
「分かってる。尽、
「え?!正気か?」
流石に見知らずの人にそれをするのはダメだろ。
「この森に1人でいるのがおかしいよ!それに攻撃じゃなくて、簡単なのでいいからっ!」
「わ、分かった。」
ミロの気迫に圧され、ひとまず言う通りにする。
「
白黒の
すると、草むらにいる男性がこちらに気付き、驚きの声を上げた。
「わわ!君たちなぜこの森にいるんだ?」
フードを被り重そうなリュックを背負った男性が驚いたように声を荒げる。
「あなたこそ、誰よ。」
ミロが相手の警戒をしつつ訝しげに聞く。
「僕は...ただの商人さ。」
ほんのりとしたグレー色の髪の毛の男は、そう呟いた。
「それより、君たちこそなんでこんな所にいるんだ?!ここは迷いの森と言われた遭難者が続出している場所だぞ?!」
それは商人がいてもおかしいと思うのだが。
「あなたこそ、なんでここにいるんですか?」
自分の疑問にまず答えてもらいたい。でないと警戒を解く事は出来ない。
「...僕には1人の娘がいるんだ。今日、不治の病に侵されていると診断されてね。僕は治療薬の1つである、薬草を探しに来たんだ。」
商人は怪しげな風貌だったが、ここにいる理由はとてもとても優しい理由だった。
「その薬草を買う事が出来ないの?」
ミロはまだ警戒している。
「ええ。かなり高額でして。僕に買うことは出来なかった。しかも、あるダンジョン内にしかありません。仕方がないので今はダンジョンの近くの薬草を手当たり次第に探しているんです。」
「他の冒険者を雇わなかったの?」
「それが...最近あるボス討伐で出払っているらしく、C級以下の方しかいなくてですね...」
あの事ね...とミロが顎に手を添えて呟くが次の瞬間、ミロが叫んだ。
「えっ!もしかして、そのダンジョンB級以上?」
コクっと商人が頷く。B級というのはかなり高いランクなのだろう。小説ではS級とかSS級とかが最高ランクが多かったがここもそうなのだろうか。
俺が考えを巡らせていると、ミロが諦めたような、仕方がないというような、溜息をはぁと吐く。
「...どんな名前?」
「......コク草です...」
少しの間が空いて返事が来る。商人は俯きつつ消え入りそうな声で呟いた。
「...尽。ダンジョンに行きましょう。」
凜としたミロの声から覚悟を決めた、という想いが痛いほど伝わる。
俺だって助けてやりたい。
だが。今の俺とミロでは圧倒的に力不足なのだ。俺は
何も出来ない。それしか頭に浮かばない。
「...俺たちでは戦力不足だ...それはミロが一番分かっている事だろ...」
「ええ。でも一刻も早く助けてあげたいのよ。」
悔しそうに、俺の声に応えた。
だがミロの声とは別に男の――商人の声がした。
「ダンジョンに行ってくれるのですか...?」
多くの疑問を抱えつつ少しの希望を孕んだその声にどんな言葉を掛ければいいのだろう。
絞り出した勇気を踏みにじる言葉しか――俺は知らない。
長い沈黙の後、再び商人が口を開く。
「......行ってくれるなら、僕が持っている販売用のアイテム、お渡しします。」
「行こう。」
「行きましょう。」
ひとまず、やる事が決まった。
商人の娘を助ける。探しに行くのはその後だ。
――――
作者から
時間がかかって申し訳ないです。考えていた2話分を合体、推敲の時間の増加により大幅に時間が掛かりました。
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