第51話 嫌な予感しかしません
「一度きりではなく、継続して同じ個体を呼び出せるように改良したのです」
呪文を独自に組み合わせ、いつでも呼び出せる契約をドラゴンと結ぶ事にも成功したと包み隠さず話す。
最初は呆気に取られていた二人だが、次第に真剣な表情に変わっていく。
「呪文は幾つ組み合わせた?」
「十五です。保険として組み合わせたものもあるので、詠唱する魔術師の適性によっては数を減らせるかと思います」
「正式な契約までに、二度の召喚をするとの事ですが媒体ははどうしたのですか? ドラゴンなどの高位魔獣は媒体に宝石を使用しますよね?」
「母の形見を使いました。大きなオパールでしたので、二つに割っても十分な量が使えました」
「きっとレアーナも喜んでいるわ。けど契約を行うには、それだけでは足りないわよね」
「確かにアリシアの理屈なら、同一個体の呼び出しをする場合、同じ媒体が必要になるな。二回目以降の媒体は?」
王と王妃の指摘に、アリシアは頷く。
「はい。媒体ではなく契約を結んだんです。十日に一度、手作りのクッキーを捧げると約束してます」
答えると二人は顔を見合わせて、笑い出す。
「本当に君は思いもよらない事をするね。ロビス王の再来かもしれないな」
「ラサ皇国の皇女として、相応しい魔術だわ」
「皇女とは、どういう事ですか?」
「私達は、ラサ皇国の使者と会ってきたのだよ」
ラサは遠いので中間地点で待ち合わせたのだとラゲル王が続ける。
「皇帝は国から出られないしきたりでね。国外での会談には、使者が相手の国に派遣されるんだ」
しかしあまりにラサとロワイエは離れているので、中間地点の国で会議を行うことが急遽取り決められた。
二人はその中間地点で魔術を施された鏡をつかい、ラサ皇国の皇帝と会議をした。
「陛下に貴女の立場をお伝えしたの。そうしたら、正式にラサ皇国の皇女として位を与えたいと仰られてね」
「実家の公爵家と縁が切れているのなら、皇女の位を与えるのが適切だろうと皇帝は仰った」
(まさかそれだけのために、国際会議が開かれるなんて……真相は別にあるのだろうけど……)
考え込むアリシアに、空気を読まないエリアスが口を開く。
「という訳だから、身分の事は気にせずともよくなったよ。アリシア」
「どういうことですか」
「兄達には、アリシアに結婚を申し込むと伝えてはいたんだ。いざとなれば、俺が王家から離れればいいだけだし」
笑顔のエリアスに、アリシアは内心頭を抱えた。
エリアスの性格的を考えれば、有言実行であっさり国を捨ててしまうだろう。
色々と緩やかなロワイエ国でも、流石に第二王子が身分を返上したとなれば貴族達は動揺する。
アリシアはそっとエリアスの腕をつつき、小声で文句を言う。
「聞いてませんけど」
「話したら君、拒否するだろ?」
「だまし討ちなんて卑怯です」
ぽそぽそと言い争う二人を余所に、ローゼ妃が侍女から差し出された羊皮紙を広げた。
それは古代文字で書かれており、見ても内容はさっぱり分からない。
「こちらはは皇女として認めるという証の書類です。同じものが、ラサにもあります。皇位継承権は三十位ですが、貴女は正式に皇女として登録されました。いまの魔術で、成人の儀も滞りなく終わりましたから貴女は立派な皇族です」
「おめでとう、アリシア」
「あの、成人の儀って?」
「ラサでは独自の魔術を編み出して成人と認められるの。アリシアは皇女に相応しい魔術を作り上げたわ」
「ロワイエの王として、君の魔術は素晴らしいものだと証言するよ」
公爵令嬢から平民、そして皇女になるという激しい乱高下に正直ついて行けない。
ただ一つ分かるのは、王がエリアスの身分をそのままにアリシアと結婚させたいという厚意だけで動いたのではないという予感。
「皇女アリシア、貴女に頼みがある」
「はい」
やっぱり、とアリシアは身構えた。
「貴女はラサ皇国の皇女であると同時に、バイガル国との関わりも持つ非常に重要な人物だ。
(どうしてバイガルの名が? レンホルム公爵がラサから追われる身だけれど。まさか私に捕らえるように要請が来たんじゃ……)
しかしアリシアの予想は、更に悪い方向で的中した。
「残念なことに、バイガル国王は戦争の準備を始めている。大戦を終結させた全ての国家は、バイガル国が誓約を破棄したものとみなした。和平を結んだ国々は、これを見逃すことはできない」
「戦争ですか?」
事態の重大さに、アリシアは青ざめた。
そして自分の立ち位置を考えれば、これからラゲル王が告げることから逃げられないと悟る。
「それで私は何をすればよろしいのでしょうか」
覚悟を決めたアリシアは、真っ直ぐにラゲル王を見上げた。
「ラサ皇国の代表として、バイガル国へおもむき、戦争を止めてほしい。我が国からは、弟エリアスを同行させる」
予想してた言葉だが、いざ突きつけられると足が震え出す。
隣に立つエリアスがさりげなく手を握ってくれなければ、情けなくしゃがみ込んでいただろう。
「皇女アリシア。これは皇帝からの命でもあります。強き心で務めを果たしてください」
「そしてもう一つ――」
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