第10話 熊埜御堂乃愛の現状①
粒子を自由自在に操る。それがシリウス・ガールの能力。
粒子は極めて微細だが、そのひとつひとつが高いエネルギーを有する。分散させれば攻撃手段になるし、凝集させれば身を護る盾となる。あるいは、こうして翼のように展開して滑空することだってできる。これはついさっき葬り去った黒ずくめの敵――もはや名前も忘れてしまった――に対する、最大限のリスペクトを込めた〝オマージュ〟のつもり。
といっても羽ばたく技術はないから、実は今のシリウス・ガールは、跳んで、ゆっくり落下する、というのを繰り返してるだけ。そんなふうにして夜の街を眺めながら、スプレンディドマンのことを考えた。
※ ※ ※
塾の先生から何度か名前を聞いたことがあって、存在自体は認識していたけれど、実際に会うのは初めてだった。
でも、なぜか初対面とは思えなかった。
お隣グルームアイズ・シティの所属だから、過去に近所のイベントの警備業務か何かで見かけたのかもしれない。でもこの感じは、単なる既視感じゃない。みっともなく敵に命乞いをする姿を発見したときも、その後二人だけで会話をしたときも――不思議とシリウス・ガールはスプレンディドマンに対して、安堵にも近い親近感を抱いた。
そのうちに、彼の姿にかつての自分を重ね合わせていた。
両親ともに元スーパーヒーローという、恵まれた環境で生まれ育った。ゆえにシリウス・ガールが受けてきたのは、まさに英才教育と呼ぶべきものだった。空手道、柔術、剣道、弓道、護身術――あらゆる武術の類には、物心つく前に一通り触れた。そしてそのすべてを、物心つく頃には一通り習得していた。
ヒーローの子という要素を抜きにしても、彼女のポテンシャルははっきり言って異常だった。突然変異とも言うべき彼女に、大人たちは大いに期待した。
しかしその才能は同時に、孤独をもたらした。同年代の少年少女たちは、みんな徹底して彼女を避けた。嫉妬か、恐怖か、そこにあったものが何なのかは、今となってはわからない。ただ、抑えようのない大きな力が、周囲の子どもたちを支配していた。
まだ、足りないんだ。
悪意に満ちた言葉や態度に触れるたび、そう自分に言い聞かせた。確かに私には多少の才能があるのかもしれない。でも多少の才能じゃ何も意味がない。誰もが文句なしに認める、圧倒的なスーパーヒーロー。そういう存在にならなきゃ。
十三歳を迎え法的にヒーロー活動が認められるようになった直後、シリウス・ガールは生まれ育ったエンシェントロブスター・シティの採用選考を受けた。それは自分の住む学区の公立学校に進学するのと同じように、彼女にとって至極当然の選択だった。
「あなたは、なんのために戦う?」
最終面接の時、ヒーロー課の長を務めるテンペスト・レディにそう尋ねられ、シリウス・ガールは即答した。
「強くなりたいです。誰よりも、圧倒的に」
昔のことを思い返していたら(昔と言ってもほんの一年半前のことだけれど)、ふと自宅の陸屋根が目に飛び込んだ。シリウス・ガールは着地の体勢に入る。家は三階建ての豪邸。でも周辺を高層ビルに囲まれているので、随分小さく見える。いずれにしても、母娘二人だけで暮らすには虚しいほどに広すぎる家。
三階の、自室のバルコニーから入ろうとする。が、窓の鍵が閉まっている。仕方なく庭に降り、玄関扉をそっと開く。暗い玄関を見渡しながら、定められた手順で瞬きをした。
「
白いスーツが光の粒となって消え、シリウス・ガールは
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