消しゴム

加賀 魅月

本編

僕には大切なm○noがいる。そいつの名は川島という。川島はm○noである。正直安直に物部とかでいいかなとも思ったが、これは譲れない。僕のパートナーは川島だ。


川島は寡黙だ。寡黙なm○noなのだ。昨夜であれば、


「なあ、川島。夏休みが始まるぞ。僕は君と共に死線を越えねばならない。辛く厳しい道のりなのだ。できればやりたくない」

川島はなにも言わなかった。なにも言わずに、そこに佇んでいた。

僕の苦悩を煩いと一喝するように。静かに、ただ存在感だけを周囲に知らしめていた。

川島はすごいやつなのだ。立派なm○noである。僕は川島を尊敬していたし、川島もまた僕を信頼し、その身を委ねてくれていた。

僕たちは何度も右往左往し、迷いながら、頭を使って進んでいった。

川島はそれでもなにも言わなかった。たとえその身がすり切れようとも。黒く拙い汚れを被ろうとも。

なにも言わずに、すべてを僕に委ねてくれていた。


あいつは、本当にいいやつだった。


しかし、目の前にいる川島は。川島は――切断されていた。

あいつは自分の傷を隠していた。致命傷とも言えるほどの大怪我を、あいつは僕に打ち明けてくれなかったのだ。過酷なまでに、そいつは自らを苛んだ。

酷使しすぎたその身体は、意思とは無関係のところで無理が生じ――亀裂を走らせた。


無惨な最期だった。むごたらしい、その凄惨な結末に至ろうと、川島はなにも言わなかった。

今思えば、川島は昨日の時点でこの終わり方を知っていたのだろう。

それでも、川島は。僕の力になろうと尽力し続けてくれたのだ。

僕を支え、力強く壮行し、見守り続けてくれたのだ。――己が尽きる、その時まで。


僕は泣いた。悲しくて泣いた。川島はもういない。寂しさを埋めてくれたあいつは、もういない。

悔しくて泣いた。なにも言わずに一人で先立った川島が。容態に気づかず無理を強いてしまった僕が。

苦しくて、息苦しくて、もがくように喘いだ。


そいつが着ていた服が、霞んだ視界の端で歪む。

青と、白と、黒。胸元にはト○ボのワンポイント。それを着たあいつは誇らしげに立つのだ。丸い頭を指でつつくと、嬉しそうに体を揺らす。あいつは、そういうやつだった。すごいやつなのだ。

僕はあいつがいなければ大変なことになっていた。


黒く覆われた世界に、見えなくなって、消えていく答え。あいつはいつも、僕の側にいて。眩い白で先へと導いてくれた。


「か……かわ、しま……」


えもいわれぬ虚無感に、耐え難い何かを感じた。束の間、静寂が訪れる。


寂寥というべきか、その静けさの中に。


僕は直立する川島を視た。


「川島…?」

それでも、そいつはなにも言わなくて。

「川島っ!」

僕の声を煩わしいと言わんばかりに。その背中を、見せつけていた。

川島は寡黙だ。川島は、寡黙なm○noである。


僕は涙を拭った。濡れた袖に一瞥をくれて、僕は立ち上がる。

自転車に乗って家を出た。風を切ってペダルを踏みしめる。力いっぱい。僕は叫んだ。

「あああああああああ!!!」

「うるせぇ!」

窓から顔を出したおじさんに怒鳴られた。僕は叫ぶのをやめた。全力でペダルを回す。

そして僕は、ある場所に着いた。目当てのm◯noはすぐに目についた。


僕は急いで家に帰って、そいつを机の上に立てた。

そして僕は言うのだ。


「今日からお前は物部だ! よろしく頼むぜ!」

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消しゴム 加賀 魅月 @making_your_night

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