なぜか異世界の管理者になったオレ、前世で愛でていた子たちと世界を旅してみることにした。

Taro

序章

第1話 始まり

とある町のアパートの一室。

一人の男が目を覚ました。



これはダメなやつだな…

体に全く力が入らない…



体調不良のため、男が会社を休んでから3日目の朝を迎えている。

昨晩までは、よろよろとしながらも自力で動いていたが、今朝はどうやら勝手が違うようだ。



自分の死期を悟るというのは、こういう感じなのだろうか…

何の根拠もないけど、次に眠る時が人生の最後かも…

漠然と、そんな気がする…



彼が目覚めてからそこそこの時間が経過しているが、未だ微動だにしていない。

が、その瞳は時折動いていた。

ただ、基本的には天井を見つめ、何かを考えているようだ。



…なんだか眠くなってきた…


…つまらない人生だったな…



男はそれまで天井に向けていた視線を移し、軽く微笑むと、そのまま目を閉じた。






再び男の目が開く。



やっぱり、ただの風邪だったか。

熱のせいでネガティブになってたみたいだな…


「お目覚めになられましたか?ご主人様」


え?!



寝起き早々に飛び込んできた女性の声を耳にし、彼は驚きの表情を見せ、咄嗟に上体を起こした。

それもそのはず。

なぜなら男には友人がいないからである。

いや、正確には「いなくなった」というべきかもしれない。

また、兄弟はおらず、両親も他界しており、親戚も音信不通。

いわゆる「ぼっち」なのだ。

ましてや彼女などいるはずもない。



「えっと…あなたは…?

それに…ここは…?」



男の頭の中はパニックになっているはずだ。

それは彼の顔を見ればわかる。

中年一人暮らしの男性が、ある日突然、清掃の行き届いた豪華な部屋の立派なベッドの上で目覚めたのだ。

しかも、その傍らにはメイド服に身を包んだ美少女。

混乱しないほうがおかしいだろう。



「まさか…とは思いますが、私のことを覚えていらっしゃらないのですか?」


「えっと…初対面ですよね?」



男の言葉を聞いた彼女は、可愛らしく頬を膨らませた後に言葉を続けた。



「あれだけ何度も何度も私の胸やおしりを撫でまわしておいて、お忘れになるだなんて…

なんてひどいご主人様なのでしょう…」


「え?!

オレが?!

…全然、記憶に無いんだけど…

本当に?」



メイド服姿の彼女は黙って頷いた。



マジで?!

もしかして眠ってる間に寝ぼけて…とか?

もしそうだとしたら、なんてヤバいことを…

てか、どうせ怒られるんだったら、なんで記憶が無いんだよ!

…じゃなくて…

とにかく謝って許してもらわないと…

機嫌を損ねて御用になるとか本当に勘弁してほしいからな…


「正直、本当にそんなことをした記憶は無いんですが…

ただ、もしかしたら、寝てる間に無意識でそうしてしまったのかもしれません。

申し訳ございません」



男が謝罪し頭を下げると、今度は彼女のほうが驚いた表情を見せる。

そして、次の瞬間、メイド姿の女性は彼に対して土下座をしていた。



「申し訳ございません!

申し訳ございません!

申し訳ございません!

ほんの少しご主人様と戯れたいと思っただけだったんです!

まさか私に対して頭を下げられるだなんて、思ってもみなかったんです!

本当に申し訳ございません!」


「いやいやいや!

ちょっと待って下さい!

とりあえず、土下座はやめて下さい!」


「…ですが…」


「いや、本当に…」



何度かのやり取りがあり、男は無事にベッドの傍らに置いてある椅子に彼女を戻し座らせることができた。



「まぁ、とりあえずは君の胸やおしりを触ってなかったみたいで安心したよ。

で、聞きたいことが結構あるんだけど…

そうだな…

まず君は誰なの?

しかも、さっきからずっとオレのことを「ご主人様」って呼んでいるけど。

もしかして、誰かと勘違いしているんじゃないのかな?」


「いえ、私がご主人様を間違えるはずはございません」



彼女は男にそう告げると、彼の前に立つ。



「ん?

急に立ち上がって…

どうかしたんですか?」


「ご主人様。

私やこのメイド服を見て、本当に何も思い出すことはできないのでしょうか?」


いや、そんなこと言われてもなぁ…

って…ん?

なんか、このメイド服…どこかで見たことがあるような無いような…

…え!

もしかして…

…いやいや!

まさか…そんなことあるはずないよな…


「あっ!

そういえば…」


「どうしたんですか?」


「私、うっかり魔法を解くのを忘れておりました」


「魔法?」


「はい」



彼女が男の問いに答え何かを呟くと、その耳に変化が生じた。



「おいおい…マジかよ…

その長い耳…

それに、そのデザインのメイド服って…」



男の独り言を耳にした彼女は、彼に対してニコっと笑う。



「アリシア…

…アリシア・ブレーデフェルト…なのか…?」


「思い出してもらえて、本当に良かったです!

ご主人様~!」



満面の笑みでそう言ったアリシアは、ベッドに腰かけていた男にダイブするのであった。

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