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 あれからひと月、俺は地上領の総合庁舎に設けた、一階の一室にあるラーメン屋、『らーめん相沢』でラーメンを作っている最中だ。


 何故なら、たった今オーダーが入ったからだ。


「そんなに物調面を拵えて食べ物を作らないでくださいよ、カイト様」


「いいだろ別に。つか、仏頂面とは何だ。真剣な顔と言って欲しいが」


 醤油背油とギョーザをオーダーしたラインハルトに突っ込まれるも、マジで仏頂面ではない。確かに面白くない事ばっかしか起こっていないけど。


「大体お前、こんな庶民のお店なんかよりも、もっと他にいい所行けばいいだろうに」


「いや、カイト様のラーメンは地上一ですからね。そもそもユピテエル地上領には殆ど飲食店はありませんし」


 嬉しい事を言ってくれるぜ。お世辞だろうが調子に乗っちゃう事請け合いだ。


 しかし、確かに、地上領のインフラ整備は始めたばかりだし、他飲食店は皆無だ。


 要するに、ユピテエル地上領中央地区では、俺のラーメンしか食べる所が無いと言う。


 そんな時、来店を知らせる鈴の軽い音。


「にゃー。いらっしゃいませ……って、ジンじゃにゃいか?ジンもここのところラーメンしか食べてないにゃ?」


 ジンも来たのか。じゃあもう昼時か。他の連中も来るんだろうな……


「いや、あの肉ワンタンメン、何度食ってもうまいし……って、ラインハルト様!」


「ここでは様付けは必要ないよジン君」


「いや、だってラインハルト様は外交官で、天界と冥界を毎日行き来する程偉くて忙しい人ですよね?」


「ははは、カイト様に比べたら、私なんて小物もいい所だよ。それよりも、君も早くオーダーした方がいい。もうすぐもっと偉い人達が沢山来る事になるよ。食事もゆっくりできなくなる」


「は、はい……ルル、醤油の肉ワンタン大盛り」


「はーい。カイトさん。オーダー入ったにゃー。醤油の肉ワンタンメンの大盛りですにゃ!」


「おーう。ルル、醤油背油とギョーザ、上がったぞ。持って行って」


「はいにゃー。ラインハルトさん、お待ちにゃ!」


 ことり、と、どんぶりがテーブルに置かれる音。ラインハルトが早速フォークを持った。


「ラインハルト様は箸使わねえのか?」


「練習しているんだが、難しくてね。君は上達したかい?」


「いや、やっぱ難しいですねあれ。お嬢様は大分上達したようですがね」


「そうか。冥王様もかなりうまくなったよ」


 麺をフォークで巻いて口に入れる。「やっぱりうまい」との呟きが聞こえた。いやいや、マジ嬉しいんだぞその一言。

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