001
あれからひと月、俺は地上領の総合庁舎に設けた、一階の一室にあるラーメン屋、『らーめん相沢』でラーメンを作っている最中だ。
何故なら、たった今オーダーが入ったからだ。
「そんなに物調面を拵えて食べ物を作らないでくださいよ、カイト様」
「いいだろ別に。つか、仏頂面とは何だ。真剣な顔と言って欲しいが」
醤油背油とギョーザをオーダーしたラインハルトに突っ込まれるも、マジで仏頂面ではない。確かに面白くない事ばっかしか起こっていないけど。
「大体お前、こんな庶民のお店なんかよりも、もっと他にいい所行けばいいだろうに」
「いや、カイト様のラーメンは地上一ですからね。そもそもユピテエル地上領には殆ど飲食店はありませんし」
嬉しい事を言ってくれるぜ。お世辞だろうが調子に乗っちゃう事請け合いだ。
しかし、確かに、地上領のインフラ整備は始めたばかりだし、他飲食店は皆無だ。
要するに、ユピテエル地上領中央地区では、俺のラーメンしか食べる所が無いと言う。
そんな時、来店を知らせる鈴の軽い音。
「にゃー。いらっしゃいませ……って、ジンじゃにゃいか?ジンもここのところラーメンしか食べてないにゃ?」
ジンも来たのか。じゃあもう昼時か。他の連中も来るんだろうな……
「いや、あの肉ワンタンメン、何度食ってもうまいし……って、ラインハルト様!」
「ここでは様付けは必要ないよジン君」
「いや、だってラインハルト様は外交官で、天界と冥界を毎日行き来する程偉くて忙しい人ですよね?」
「ははは、カイト様に比べたら、私なんて小物もいい所だよ。それよりも、君も早くオーダーした方がいい。もうすぐもっと偉い人達が沢山来る事になるよ。食事もゆっくりできなくなる」
「は、はい……ルル、醤油の肉ワンタン大盛り」
「はーい。カイトさん。オーダー入ったにゃー。醤油の肉ワンタンメンの大盛りですにゃ!」
「おーう。ルル、醤油背油とギョーザ、上がったぞ。持って行って」
「はいにゃー。ラインハルトさん、お待ちにゃ!」
ことり、と、どんぶりがテーブルに置かれる音。ラインハルトが早速フォークを持った。
「ラインハルト様は箸使わねえのか?」
「練習しているんだが、難しくてね。君は上達したかい?」
「いや、やっぱ難しいですねあれ。お嬢様は大分上達したようですがね」
「そうか。冥王様もかなりうまくなったよ」
麺をフォークで巻いて口に入れる。「やっぱりうまい」との呟きが聞こえた。いやいや、マジ嬉しいんだぞその一言。
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