第39話 決闘の儀(1)

 俺達はデルカルト達と別れた後、ルリシアさんの部屋へと戻った。


「巻き込んでしまってごめんなさい!」


 部屋に着いた早々、ルリシアさんが地面に額がつく位頭を下げてきた。


「僕が臨んだことだから。ルリシアさんのお父さんとお母さんに酷いことをしたあの人のこと、僕も許せないよ」

「ユートくん⋯⋯君は本当に良い子だよ。そのまま変わらずに育ってね」


 うっ! そんな真っ直ぐな目で褒められると困る。中身は前の世界と合わせて三十二年生きているおっさんだからな。

 もしバレたりしたら、ルリシアさんの俺に対する信頼が一気に崩れ落ちるだろう。お風呂も一緒に入っちゃったし。


「でもさっきも言ったとおり、あの二人は強いわ。私も負けるつもりはないけど、勝つための作戦考えた方がいいと思うの」

「それなら二つ考えていることがあるんだ」

「二つ?」

「大丈夫。人相手に何でもありなら、すごい実力の差がない限り、僕は負けないよ」

「その作戦を教えてくれないかな」

「いいよ。う~んとね。初めに――」


 俺は決闘の儀をすることになって、考えていたことをルリシアさんに伝える。


「そんなことが出来るの?」

「うん。だからきっと勝てるよ」

「そうね。ユートくんの作戦ならたぶん⋯⋯いえ、絶対に勝てるわ」


 デルカルトは勝てると思って、決闘の儀を申し込んできたのだろうけど、甘かったな。決闘の儀ではカードマスターの力を思う存分見せつけてやるぞ。

 こうして俺とルリシアさんは細かい打ち合わせをした後、決闘の儀を行う訓練所へと向かった。


 そして決闘の儀まで後三十分となった頃。

 俺達は訓練所の控え室で待機している。

 ここは訓練所と言われているけど、古代ローマのコロシアムのような所だ。まさに決闘の儀に相応しいと言った所か。


「ユートくん緊張してる?」

「うん」


 本当は全然緊張などしていない。緊張よりデルカルトに対しての怒りの方が勝っている。だけど俺は子供らしくルリシアさんの問いに頷く。


「私も緊張してるよ。心臓を触ってみる?」


 何を考えているのか、ルリシアさんは俺の手を取り、自分の胸に導く。

 俺は咄嗟のことで逆らうことが出来ず、ルリシアの心臓の上に手を置いてしまう。


「ほら⋯⋯ドクンドクンっていってるでしょ」

「う、うん」


 ルリシアさんの心臓の鼓動は大きくなっているかもしれないが、今の俺は胸の上に手を置いている事実で、いっぱいいっぱいになっている。


「本当なら北の森に行く予定だったのにごめんね」


 ルリシアさんから何度目かわからない謝罪を受けた。

 たぶんここで、大丈夫、気にしないで、俺も同じ気持ちだからって言っても、優しいルリシアさんの罪悪感は消えることはないだろう。


「それなら早く決闘の儀を終わらせよう。ルリシアさんにはこれからトアの病を治すためにがんばってもらうからね」

「あっ⋯⋯そうだね」


 ルリシアさんは一瞬驚いた表情をしたけど、すぐに笑顔なって頷いてくれた。

 これでいい。たぶんルリシアさんは自分が迷惑をかけた時、優しく大丈夫って言われるより、何かやることを与えた方が気にやまないタイプだと思う。

 これから決闘の儀が始まるのに、そんなに悲しそうな顔をしていたら、本来の力を出せなくなってしまう。

 だけどこれで少しは気が紛れたはず。


 後は時間が来て、決闘の儀で戦うだけだ。


 トントン


 控え室の部屋のドアがノックされたので、俺は慌ててルリシアの胸に置いた手を引っ込める。


「は、は~い。どうぞ」


 そして来客者に対して、ルリシアは中に入るよう促す。

 決闘の儀が始まるから呼びにきたのかな? でもまだ後二十五分程あるぞ。


「失礼します」


 入ってきたのは、一人の兵士だった。

 いったい何の用だ。


「ルリシア様、皇帝陛下がお呼びです。至急玉座の間に来るようにとのことです」


 こんな時に皇帝からの呼び出し? どういうことだ?


「やっぱり来ちゃったみたい」


 しかしルリシアさんは俺とは違い、皇帝の呼び出しを察知していたようだ。


「皇帝陛下はルリシアさんに何の用なの?」

「え~と⋯⋯決闘の儀は皇帝陛下が立ち合うことになっているの。このまま何事もなく、決闘の儀が始まればと思っていたけど、無理だったみたい」


 正直、皇帝陛下が決闘の儀を許してくれるとは思えない。ルリシアさんはどうするのだろう。


「少しお父様の所に行ってくるね。ユートくんはここで待ってて」

「僕も行きます。いつルリシアさんが襲われるかわからないし」

「大丈夫よ。明るいうちに城内で襲ってくることはないわ。それにユートくんが来るとお父様が⋯⋯」


 俺は皇帝陛下に嫌われているからな。余計話が拗れるような気がする。

 俺達はそのことを想像して苦笑いを浮かべた。


「それじゃあ行ってくるね。もしダメだって言われたら、無視して戻ってくるから」


 ルリシアさんはそう言い残して、部屋から出ていく。

 暇だけどとりあえずおとなしく待ってるしかないか。

 俺は頭の中で決闘の儀のシミュレーションをしていると、控え室の外から気配を感じた。しかも複数人いるようだ。


 ルリシアさんが部屋を出てからまだ五分も経ってない。

 これはもしかして⋯⋯


 俺は外にいる連中に注意を向けていると、突如控え室のドアが激しい音を立てて、開くのだった。



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