第13話 諦めることも時には必要だ

 俺達は二時間程街道を進んで行くと、遠くに街が見えてきた。


「やっと着いたぜ⋯⋯」

「意外に近かったわね⋯⋯」


 もうすぐアルニアの街なのに、二人には元気がない。

 旅の途中でも口数が少なかったし、荷物が何なのか気になって仕方ないという所か。


「タニアは街に入ってすぐの所にあるって言ってたな」

「そうね」


 俺達はアルニアに到着した足で、すぐに商家タニアへと向かう。

 東門から入って少し歩くと、すぐに商家タニアの看板を発見することが出来た。


「行くぞ」


 俺達はバッツを先頭に商家タニアへと入る。

 すると店内には様々な商品が置いてあった。

 どうやらここは、食料品や生活用品を売っている店のようだ。

 実は怪しい薬とかを売っている店だったらどうしようかと思ったけど、商品もどこにでもあるありふれた物だったので、その心配はなさそうだ。

 いや、実は真っ当な商売をしていそうな店が実は⋯⋯というパターンもあるから油断は禁物だな。


「ちょっといいか」


 そしてカウンターの所に店員にバッツが話しかける。


「なんだい? もしかしてボルゲーノさんから依頼を受けた冒険者の人達かい?」

「そうだ! これを見てくれ」


 バッツが依頼受注書を見せる。


「わかりました。それでは荷物がある場所にお連れします」

「お願いします」


 俺達は店員の人の後に着いていき、商家タニアの隣にある建物へと向かう。

 さて、鬼が出るか蛇が出るか。


「これを運んでもらえるかな」


 建物の中に入り、店員の人が指差した一画には、大量の食料や生活用品が置いてあった。

 干し肉、卵、ニンジン、ダイコン、衣類、布団、リンゴ、ミカンか。


「これか? 何だよ。普通の荷物じゃねえか」

「普通? どういうことですか?」

「あ、いや、何でもねえ」


 バッツの言うとおり、目の前にあるのは普通の荷物に見える。もしかしてこの荷物に紛れて違法な物が⋯⋯

 しかし軽く見た所、それらしき物はない。

 どうやら俺の考えは杞憂だったようだ。


「だけどこれを手で運ぶのは無理ね。大きな荷馬車を借りないと時間内に届けるのは不可能だわ」

「そこは皆様にお任せします」


 今はだいたいお昼頃の時間だ。

 依頼を達成するためには、後五時間くらいでセレノアの街に戻らなくてはならない。


「よし! 馬車を借りようぜ」

「でもそんなお金ないわよ」

「それならどうすんだよ! これじゃあ依頼を達成することが出来ねえぞ」


 三人は馬車を借りるお金を持っていないのか。それなら仕方ない。


「馬車を借りるお金なら僕が出しますよ」

「本当か! その分の金は後で必ず返す」

「ユートくんと一緒に依頼を受けて助かったわ」

「⋯⋯これで依頼を達成出来る」


 この目の前の荷物を運ぶだけなら、おそらく簡単に依頼をこなすことが出来るだろう。

 だけどそうなると、何故この依頼が金貨二枚の高額報酬なのか気になる。

 だがその疑問はこの後すぐにわかった。


「馬車は一台でいいよな? 早く行こうぜ」


 俺達は馬車を借りるため、この場を離れようとするが⋯⋯


「馬車一台で足りますか?」


 店員の人が不穏な言葉を口にする。


「どういうことだ? この荷物を運べばいいんだろ?」

「これなら馬車一台あれば足りると思うけど⋯⋯」


 店員の人が何を考えているのかわからない。

 カリンさんの言うとおり、目の前の荷物なら馬車一台で十分だろう。ん? 目の前の荷物? まさか!


「この建物にある荷物を運べってことですか?」


 店員の人はこちらを見て意味深に笑みを浮かべる。


「そのとおりです」


 そして俺の嫌な予感は当たってしまった。


「そんなの無理だろ!」

「これだけの荷物⋯⋯どれだけの馬車が必要だと思っているの」

「⋯⋯荷物を馬車に積み込むの大変」


 三人の言うことは正しい。

 馬車を用意して、荷物を積むだけでもかなり時間がかかりそうだ。


「どうしますか? 依頼をキャンセルしますか?」

「依頼をキャンセルなんてするわけねえだろ!」

「ではどうやって荷物を運びますか? 出来れば早く決断して頂けると助かります。この後、ここにある荷物を運ばなければならないので」


 この人は初めから俺達では依頼を達成出来ないと思っている。

 その言葉にイラッとくるな。

 それにしても意地悪な依頼だ。

 ボルゲーノさんは俺達が依頼を失敗する所が見たいのだろか。もしそうなら趣味がいいとは言えないぞ。


「どうしますか? 諦めても恥ずかしいことではありませんよ」

「諦めたくねえ! 俺達には金が必要なんだ! 例え金持ちの道楽で出した依頼でも金が入れば⋯⋯」

「バッツ⋯⋯」


 バッツは膝から崩れ落ち、悔しそうに地面を殴る。

 何かお金が必要な理由があるのか?

 バッツ達からは並々ならぬ思いを感じる。まるで妹を助けたい俺のように⋯⋯


「お金はそれ相応のことをした対価として頂けるものです。今回は簡単にお金は手に入らないとわかって良かったじゃないですか。これから地道にお金を稼いで下さい」


 この店員の肩を持つ訳じゃないけど、確かに一理ある。高額で楽な仕事など普通ではありえないものだ。今回はここで諦めれば被害はないけど、いつか本当に危ない仕事をやることになるかもしれない。まるで前いた世界の闇バイトだ。


「くそっ!」

「どうするの? バッツ」

「⋯⋯わかった。今回の仕事は辞める」


 そしてリーダーであるバッツは苦渋の決断出すのであった。



 商家タニアを訪れてから三時間程経った。

 俺達は依頼について報告するため、今セレノアのボルゲーノ邸の応接室にいる。


「それでは結果について聞こうか。いや、結果は明白だが⋯⋯」


 ボルゲーノさんは荷物を持っていない俺達を見て、少し落胆しているように見えた。

 てっきり嬉々として俺達を見下したり、怒鳴り付けるかと思ったがそうではないようだ。


「荷物運搬の依頼は⋯⋯」


 そしてバッツは依頼主に結果を報告するため、口を開くのであった。


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