妖猫少女、ぼっちが寂しいのでダンジョンで配信する

雪狐

第1話

「これでこのゲームも終わり…」


今日で、5年間続いていたとあるゲームが終わる。

そのゲームのタイトルは、『リアルワールド・アナザー』。


これがどういうゲームかと言うと、フルダイブ型のMMORPG。

フルダイブMMORPGについては、10年程前にフルダイブという物が開発された。

このフルダイブを使用して遊ぶMMORPGのこと。


フルダイブは、精神をゲームの中のアバターに入れ込むタイプ。

まぁ分かりやすく言うと、ゲーム内という異世界に住んでいるアバターと言う名の人間に憑依しているようなもの。


私がはまっていたのは、その中でも異質な部類で、それでいてトップクラスの人気を誇るファンタジー物。


ちなみに、このフルダイブが開発されたことで植物状態の人間の治療が出来た事例があるとかなんとか……

細かいのは知らないけど。


閑話休題。


私の凄くハマっていたゲームのタイトルはリアルワールド・アナザー。

その名の通り、もうひとつの現実の様なもの。

グラフィックが現実と区別がつかないくらい綺麗で、五感のシステムも完璧。


それこそこれが発売されたのは五年前だが、5年経った今でもこれに比肩するどころか比べ物になるレベルのグラフィックのゲームは一つも開発されていない。


そう、"一つも"だ。

なのにこれを出している会社名は初めて見るものだし、その会社の情報はほとんど無い。


そんなよく分からないゲームが大流行したキッカケは、やはりグラフィックと五感のシステムが良すぎたから。

発売されて少しの間は初めてみる名前の会社だから、皆が買うのを躊躇していた。


そんな中で、とある有名配信者が買ってプレイした動画を投稿した。

その結果、そのゲームはとてつもないグラフィックが判明し、我先にと皆が買いに行った。


何故かどんなに大勢が買っても無くならなかった為、転売狙いの五個や十個買った人は単にお金を無駄にしただけだったらしい。

そりゃあ、あるなら転売なんかより普通のやつを買う。

当時は「ざまぁwwww」という人が大量発生していたようだよ。


どんなに買われても、買い占められても無くならないゲームの存在は何人もの人が不思議に思っていたようだけど、結局は買えたならいいや、と深くは考えなかったようだ。


このゲームは、発売から五年経った今、大盛況中なのにも関わらずサービス終了するらしい。

一か月前くらいに唐突にサ終するというメールをプレイヤー全員に送られたらしく、急すぎる!や、どうして終わるの!?などと言った批判の声も沢山あがった。


いや、過去形じゃなくて、今もまだまだ沢山批判…というよりは終わらないで!という声を見る。


「…ルナ、今までありがとう、よく頑張った。」


私のゲーム内での名前はルナ。

リアルの名前は世空 月菜よぞら つきなだから、世空から夜空を連想し、月菜の名前から月をラテン語にした名前である"ルナ"にした。


私が今口にした言葉の通り、後5分もしたら"ルナ"という存在の居る場所、リアルワールド・アナザーが消える。

世界が消えるから、ルナも消える。


少し悲しいけど、ルナは今まで無茶によく頑張ってくれた。

操作してるのは私だから頑張ったのは私、と言う人もいると思うけど、それは違う。


あくまでこの世界では世空 月菜なんて言う人間は存在しない。

ここに居るのはルナだけなのだ。

だから、私は今まで世空 月菜だと思ってプレイしてないし、この世界をゲームだとも思っていない。


でも、今は、今だけ、最期だけは"世空月菜としてルナを労いたい"。

その結果がさっきの発言だ。


話を少し戻して、リアルワールド・アナザーでルナを無茶させた、と言ったけど、私はソロ専だったのだ。

でもレベルは誰よりも高い。


なぜなら、ソロなのにレベル格上のボスに対して戦いに行くから。

勿論、ソロで勝てるなら、ソロよりパーティーで挑んだ方が良くない?という意見はあると思う。


でも、私はそもそもぼっち。

これも少し悲しいけど、これは認める。

だからパーティーを組む相手がいないし、居たとしても組まないと思う。


だってこのゲームは、だからだ。


そう、キャラロスト。

つまりはリアルと同じで死に戻りなんてものは無い。

当然そんな世界だと格上に挑むよりも格下でちまちま経験値を集めた方がいい。


でも私は格上にソロで突撃して、全員正面から倒してきた。

物理攻撃が効かない相手なら、効くようにする為にエンチャントをしてから攻撃するし、魔法が効かないなら正面から物理で倒す。


当然何度も死にかけたし、なんなら体力一でギリギリ勝利、なんてものもあった。

でも、最終的には誰よりも早く、誰よりも強くなった。

つまり、レベルがカンストしたのだ。


レベルは1000でカンスト。

敵もレベルが1000より上は居なかったし、私がカンストする時に倒した相手もレベル1000の邪神だった。


ちなみに他のトップパーティーでレベル750らしい。

だから格下相手じゃ効率よくないんだよ。

格下を相手にすると、そのモンスターの経験値が10分の1になるらしく、格上に挑めと言われているような気がする。


それなのに一度死んだら終わりだから、中々理不尽だ。

そんな理不尽なところのあるゲームだけど、実は総プレイ人数が5億人くらい居るのだ。


勿論日本だけでは無い。

日本の小学生以上の人なら知らない人はいないくらいには有名だけど、これは日本以外にも外国にも販売されているのだ。


その結果、海外でも大流行して、世界で最も有名なゲームになった。

なんでこんなに人気になったかと言うと、五感を再現していると言った通り、味も感じられるのだ。


何が言いたいかわかったと思うけど、戦闘好きじゃなくても、このゲームでは楽しめるのだ。

ウィンドウショッピングをしたり、ここではいくら食べても太らないためスイーツをものすごい量食べてる人も居る。

味も完璧に再現されているし、ファンタジーならではの不思議な美味しさを感じられる食べ物も数多くある。


そんな美味しいものをリアルのお金を使わずに、いくらでも食べられるし、リアルと完全に同じアバターにしてる人同士でデートなどをしている人も居る。


このゲームで恋人ができた人も割と多いらしい。


私も今まで沢山告白されてきたけど、流石にネットの中だと恋人なんて考えられない。


ちなみに、ネカマとか無いの?という質問に答えると、無い。

そもそもアバター設定は髪や目の色を変える位しか出来ない。

体型は全くいじることが出来ないのだ。


なのでリアルで太ってるならゲーム内でも太ってるし、リアルで痩せならゲームでも痩せ。


…胸を少し大きくして身長を高くしたかったが、無理だったので髪色を銀色に変え、目を青色にしている。

所謂銀髪碧眼というものだ。


リアルの私は、勿論だけど銀髪碧眼なんかじゃない。

黒目黒髪の一般的な人間だ。


まぁリアルの話は置いておいて、ルナとしての姿は、銀髪碧眼、それに加えて猫耳と二股に別れた猫のしっぽがある。

種族としては猫人族だったけど、レベルカンストの時に勝手に進化したので、猫又になった。

身長は140cm程度で、自分で言うのもなんだがかなり小さい。

お母さんも身長がとても小さく、多分遺伝なんだと思う。


胸はぺったんこ。

特に言うことは無い。

いや、ある。

お母さんは大きいから、まだ期待はできる…はず…!


さっき言った通り、このゲームではリアルと変わる所は髪色や目の色だけ。

つまり、リアルの私も小さく胸も無い。


私は、こんな身長でも一応社会人なのだ。

仕事は…今はしていない。

過去に色々あったのだ。


しばらくはお母さんとお父さんに言って、休養させてもらっている。

二年間くらいね。

その二年間やり込んで、格上を倒しまくっていたら、つい一か月前レベルがカンストしたのだ。


そのカンストした後五分くらいで一ヶ月後にサ終と知らされて凄く悲しくなった。

カンストした直後にサ終のお知らせなんて、予想できないよ。


ちなみにこのゲーム自体は凄く安いし、課金要素なんてものもないから金を返せ!と騒ぐようなアホはまず居ない。

課金がないゲームとは少し新鮮だった。


種族については、最初は人間しか無いと思われてた。

と言うより、最初に選べるのは人間だけなのだ。

そして、レベル500になると"転生の書"という物がインベントリに勝手に入っているのだ。


このアイテムを使うと、眼前にウィンドウが出てくる。




転生の書の使用を確認しました。

転生しますか?

ステータスやレベルはそのままです。

YES/NO




こんなものが出てくるのだ。

そして、ステータスやレベルがそのままならとりあえずYESを押すのが人間だと思う。

知らないけど。


まぁそれで、このアイテムを使うと、種族が人間から変えられるのだ。

ちなみに譲渡は出来ないのでレベル500の特典だと思っている。


レベル1000で進化したし、そうなんだと思う。

他に入手方法があってレベル100とかでも転生できるのかもしれないけど、今まで聞いたことがない。


転生できるのは、エルフ族、ドワーフ族、ヴァンパイア族、猫獣人、狼獣人、狐獣人、鳥人族の七つから選べる。

私は勿論猫獣人を選んだ。


ちなみに一番人気なのは狼獣人かエルフ族、鳥人族だ。

狼獣人は見た目も女の子なら可愛くなり、男の子ならかっこよくなるし、エルフも同じ、鳥人族は空を飛びたい人が選ぶようだ。


そう言えば、噂にエルフを選んだ人はリアルでも顔が良くなったとかいう眉唾物もあった気がするな。

それはさておき、私の選んだ猫人族は選んだ人が私以外に居ないらしい。


そもそもとしてレベル500の猛者が中々居ないというのもあるけど、猫人族はデメリットとして魔防、物防がかなり低下するから、死にやすくなるんだ。


勿論普通のゲームなら死にやすくてもいいや、と選ぶ人はいると思うけど、このゲームだと死にやすい=キャラロストの危険が高まるんだよ。


だから死にやすいこの種族は選ばれにくいし、私以外にも選んだ人は居たけど、既に死んでキャラロストしている。

そのせいもあってか私以外に選んでいる人はいない。


あ、そう言えば、レベルカンストした時に運営から通知が来て、称号と二つ名を貰ったんだよね。

その時の文章が、これ。



『プレイヤー名 ルナ 様

レベルカンスト、おめでとうございます!

そのレベルカンストを祝って、効果付き称号と、二つ名を差し上げます!


称号【到達者】

二つ名【妖猫焔姫】』



その称号の効果がイマイチよく分からなかったんだよ。



称号【到達者】


あなたはこの世界の頂へと昇った。

神はそれを見て歓喜している。

故にあなたはこの称号を得るに至ったのだ。


世界が変わった時、あなたの姿が"ルナ"に変わる。



よく分からないよね。

世界が変わった時?

リアルワールド・アナザーでの姿は当たり前のようにルナのはずなんだけど…訳が分からない。


この称号を更に鑑定してみるとこれまた訳の分からないことが書いてある。



称号【到達者】


この称号を得るのはレベルカンストプレイヤーのみ。

本当は10人程カンストが出るのを待っているはずだったのだが、神が我慢できなくて一人でも出たら"計画"を実行に移すらしい。


称号の説明にも書いてあったけど、神って何?

運営の事?

それに、計画って何?

こんな事を貰った当初は思っていた。


これと同時に貰った二つ名は、二つ名であると同時にスキル名でもあるようで、物凄い強力なスキルだった。

二つ名のスキルだからネームドスキル、とでも名付けておくけど、ネームドスキルは必ず詠唱がいるようで、スキルにある詠唱破棄を使っても詠唱を破棄する事は出来ないらしい。


どんなスキルかは…まぁもうサ終だから言う必要も無いよね。


「…あ、運営からのメールだ。

そっか、もう、サ終か…」


私は悲しく思いながらそのメールのウィンドウを開いた。

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