双子の姉妹王女はお見通し〜秘密にしたってバレますがご存知で?〜

桜月もも

第1話 リッフィル王国の王女様

「ごめん、サーナ。急用が入ったんだ。街へ出かけるのはまた今度にしてくれ」

『・・・これでカルレッラ侯爵令嬢と出かけられる。サーナは適当に言っておけば許してくれるしな』

「わかりました」

王宮の門前でそう言い放ち、馬車で去っていったサーナの婚約者、ヴィアラのことをサーナは穏やかな微笑みを浮かべたまま見ていた。

しかし、心の中では全く笑っていない。

(全く、相変わらず他のご令嬢とばかり出かけて。重要な行事以外出ないつもりですの?)

「はぁ」

「サーナ様、お疲れですか?何かくつろげるものをご用意いたしましょうか?」

「あら、マイヤ。大丈夫よ」

サーナはため息をついたのを誤魔化すように、侍女のマイヤにそっと微笑みかけた。

サーナはリッフィル王国第一王女である。

すでに婚約者もいるが、婚約者であるヴィアラはサーナのことは大して気に入っていないらしく、滅多にサーナと会おうともしない。

重要行事以外の用事は、約束していてもたいてい「急用ができた」と言って断る。

でも、いつものことでサーナは特に気にしてはいなかった。

「でも、私だって何度も許すような心の広い王女ではないのよね。一回試してみようかしら」

「サーナ様?」

「あら、独り言よ、気にしないで」

「かしこまりました」

サーナは手に持っていた桃色の扇で口元を隠すと、静かに微笑んだ。



「サーナお姉様、ここにいらしたのですね」

王宮内に戻ったサーナに声をかけてきたのはミアリー。

サーナの双子の妹である。

「あら、ミアリー。どうしたの?何か用かしら」

「今日はパーティーなのをお忘れですか。私たちの誕生日ですわ」

「もうそんな時期だったかしら。もう十七歳ですって。早いわね」

「そんなまだまだ先は長いでしょう」

廊下で笑顔で会話を交わすこの双子王女姉妹。

一見普通の王女様だが、実は普通ではない。

二人には、とある秘密の力があるのだ。

サーナとミアリーは共に「相手の秘密を見る力」がある。

自分が望んだ相手の持っている秘密を知ることができるのだ。

さらに、相手の持つ秘密の絡んだ思考まで読める。

右目の金色の瞳は、その力の証だ。

サーナは左目が青色のオッドアイ。ミアリーもオッドアイではあるものの、左目はレモン色の瞳をしているためあまり差がないように見える。

だから、本人とサーナ以外はミアリーがオッドアイということには気づいていない。

「……ミアリー、また誰かの秘密を読んだのね」

「それはお姉様も同じでしょう?」

二人はそっと微笑む。二人は同じ力を持つもの同士、相手が秘密を読んだかどうか会えば知ることができる。

でも外見が変わるなどの大きな変化はない。

それで、周りの者たちにはわからないのだ。

そして、二人は誰の秘密も知ることができるが、お互いの秘密だけは読むことができない。

「まあ、とりあえず、今日がパーティーならちょうどいいでしょう。私、ちょっと収拾をつけたいことがありまして」

「収拾をつけるですか?何か揉め事でも?」

「みていればわかるわ。じゃあ、またパーティーで会いましょう」

「はい、お姉様」

そう言って、二人は別れた。

サーナの目は鋭く光っていた。


「お姉さまは何をするおつもりでしょうね」

「何かお聞きになられたのですか?」

「ええ。お姉様ってああ見えて意外と我慢強いお方なのですよ。でも、限界まで来るとしっかり区切りをつけたがるので。今日のパーティーは有事で終わりそうですね」

パーティー直前、ミアリーは侍女のカナと共にドレスを着込んでいた。

いつもは着ない桜色のすっきりとした形のドレス。

長いピンク色の髪も編み込みをつないでハーフアップの形にしている。

(お姉様は完全に戦闘体制でしょう。こういう時はきっと、紫色のドレスを着てきますね。お姉様は何かぶつかろうとする時いつもそうしますから……)




そして、日が沈もうかとしている頃、パーティーの時間になった。

たくさんの貴族たちが大広間でダンスを踊っている。

それを主役であるサーナとミアリーが玉座のそばで見守っていた。

「サーナ、ミアリー。お前たちは踊らなくていいのか?せっかく婚約者がいるんだ。サーナは特に踊った方がいいと思うぞ。蔑ろにするのは良くないからな」

「ええ、わかっていますわお父様」

父親である国王に言われても、サーナは口元を扇で隠したままその場を動こうとしない。ミアリーの予想通り、紫色のドレスを着ていた。

(やはり、何か起こす気ですわね……それにしてもなぜ誕生日パーティーの場なのです、お姉様!)

じわじわと焦りの汗を額に滲ませる妹をよそにサーナはじっとヴィアラをみている。

ヴィアラが振り向き、目が合うと、ヴィアラは優しく微笑んだ。

はたから見ると、とても仲がいい婚約者同士だ。

このパーティーに呼ばれているものは皆、二人が婚約していることも当然知っている。

サーナはヴィアラの方に向かって歩いていくと、目の前で礼をした。

「サーナ、こんばんは。挨拶が遅れてしまった。今日は格別綺麗だね」

「あら、ありがとうございます。ヴィアラも今日は綺麗な服を選んだのですね」

「そうだ。さすが、見る目があるな。これは国外から取り寄せた特別な布でできていてな……」

「で、私が話したいことを言ってもよろしくて?」

自分の服について自慢げに語り出そうとするヴィアラの言葉を遮り、サーナは話の主導権を握った。

「ああ、なんだ?」

「ヴィアラの最近の行動について振り返りたいと思って」

(お姉様、まさかこのパーティーの最中にですか〜?!)

かすかに聞こえてくるサーナの言葉を聞き取ったミアリーはサァッと青ざめた。

もちろん、そんなことは知らず、サーナは言葉を続ける。

「昨日はフィオナ公爵令嬢とお出かけなさっていましたね。そして一昨日、六日前はビルニア伯爵令嬢と。そして、今日はカルレッラ侯爵令嬢とお出かけなさったんでしょう?」

「っ!?何を言っている。俺は家の事情で急用が入った日のことばかり並べ立てて、何かと思えば令嬢たちと出かけているなど、とんだ嘘を言うなんて」

「あら?事実ではなくて?私が誘ったお出かけの日に限って急用が入るなんておかしくありませんか?」

サーナはチラチラと周りを見渡し、一番そばに立っていた一人の令嬢に声をかけた。

「ちょっといいかしら、フィオナ公爵令嬢様」

「はい、サーナ王女殿下。何でございますか?」

「あなたに聞きたいことがあるのだけれど、いいかしら」

「はい。何でもお聞きください」

「じゃあ、昨日ヴィアラと出かけたかしら?」

サーナが質問すると、さっきまでにこやかに微笑んでいたフィオナ公爵令嬢の顔が曇る。そして、気まずそうに目を逸らした。

(これで確定ね)

確信したサーナはさらに畳み掛ける。

「では、ヴィアラとどこへお出かけしたのかしら?何か物は買ってもらった?まさか愛の告白……なんて私という婚約者がいるとちゃんとわかっているヴィアラがそんなことするわけないですわよねぇ?」

最後の「そんなことするわけない」をやけに強調して、ヴィアラに強い視線を送る。

ヴィアラは何か慌てて隠していることがバレバレの様子だった。

『まずい、愛の告白だなんてバレたら終わりだぞ』

(ふん。とっくにバレてますわ)

ヴィアらの秘密を知ると、サーナは怯えたようにちぢこまるフィオナ公爵令嬢に「もういいわ。ありがとう」と声をかけた。もう質問に答えてもらう必要はない。

何せ、サーナの中でヴィアラが自分のことに興味もなく、遊んでばかりだと言うことの証拠は揃っている。

パチン、と手に持っていた扇を閉じ、ヴィアラに向き直る。

「さて、もう一度聞くわ、ヴィアラ。あなたは外でたくさんの令嬢と遊んでいて、私に興味はない。そして、愛の告白も誰かにしている。間違いない?」

「ふざけるな、俺がサーナを想わなかった日はないぞ」

「じゃあなぜ他の御令嬢と遊んでいるのかしら?私はあなたと婚約してからずっと、あなたと出かけたこともお茶をしたこともないわ。他の御令嬢とはたくさんしているのでしょうね」

サーナとヴィアラの婚約は王家とヴィアラの実家であるアルレンス公爵家の都合で決められた婚約だったと言うことは二人とも知っている。

サーナ自身もそれはよく理解していたし、だからと言って自分に興味を持ってほしい、一緒にいる時間が長く欲しいなど、そんなことは全く思っていない。

ヴィアラが他の御令嬢と話そうがお茶しようがサーナは別に気にしない。

それに、自分から関わることはあまりないものの、時々お出かけに誘うくらいだった。でも彼女にとってはヴィアラのことを少し理解するための時間だ。

ただ許せないのは、複数の御令嬢と頻繁に遊びに行っていることと、愛の言葉を囁いていることだ。

自分という婚約者がいながら、他の御令嬢に愛を囁くなど言語道断。

ヴィアラがそのような行動をしてしまえば御令嬢たちに迷惑がかかるどころか、下手をすれば王家とその御令嬢の家が揉めてしまう。

面倒ごとになるのはサーナだってごめんだ。

「……」

「あら、黙るということは図星ということで。まあいいでしょう。私も黙ってはいませんから、ご容赦くださいませ」

そう言い放つと、サーナはくるりと背をむけ、妹の元へ戻っていった。

「お姉様、流石に誕生日パーティーでやらなくても……」

「あら、会話聞こえていたの?」

「聞こえてましたよ」

小声で恐る恐る聞くミアリーに、サーナは勝ち気な笑みをうかべる。

「大丈夫。ヴィアラのことはこのパーティーが終わってからどうにかするわ」

「そうですか?」

「お話中のところ申し訳ございません。サーナ王女殿下、ミアリー王女殿下」

二人が話を終えた束の間、スラリと背の高い黒髪の一人の男性が話しかけてきた。

「私はダルベー伯爵と申します。よければ、我息子とお話ししませんか、ミアリー殿下」

(んん〜?)

ミアりーは小首を傾げてダルベー伯爵を見る。

すると、ミアリーにはダルベー伯爵の頭の上に文字が浮かんで見えた。

『一週間前令息と婚約者のいないミアリーを結婚させようと計画』

「……申し訳ございません。一週間前ご自身の令息と私を婚約させようと計画していらしたらしいのでお話しできません」

「なっ……!」

「ミアリー!」

「?」

「も、申し訳ございません。では私はこれで」

慌てた様子で去っていくダルベー伯爵をミアリーはポカンとしたまま見つめていた。

サーナが慌てて指摘する。

「ダメじゃないの!相手の秘密が見えたことそのまま言っちゃ!」

「え?」

「天然すぎるのもやめなさい、私たちは良くも悪くも人の秘密を握れてしまうのだから」

「わかってますわ、お姉様」

ミアリーはそのまま聞き流し、そばに置かれていたジュースの入ったグラスに口をつけたのだった。

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