四天王最弱である俺の俺による俺の為の生存戦略

コーラ

不良勇者様は最強です!?

「ルーカス様! 勇者が攻めてきました!! 現在四天王の破滅のカイン様が戦闘中です!!」


 俺が書類作業をしていると部下のゴブリンが慌てて部屋に入ってきた。


 勇者が攻めてきた、か。


 勇者と言うのは稀代の英雄とされ魔王を殺す者とも呼ばれている。それが何故攻めてくるのか? 答えは簡単、ここが魔王城だからだ。


「数は?」


 そして今戦闘をしているのは破滅のカイン。俺と同じ四天王だ。それも四天王の中でも最強の男で龍の末裔と呼ばれている龍人族の生き残りだ。


 一度戦ったことがあるが、同じ四天王と言えどただの魔族である俺では手も足も出なかった。


「それが、勇者1人です!」


 は? そんなことがあり得るのか? ここは魔王城だぞ。そんな事をするなんてよっぽどの自信家か馬鹿だけだ。


「分かった俺もすぐ向かう、お前はこの事を魔王様に伝えてくれ」


 だがこれは俺たちにとってはチャンスだ。1人で来たのならば、全員で囲えば負ける訳がない。


 まあ、カインを相手に俺が到着するまで立っているかも怪しいがな。




 部屋を出てカインの元へと向かっていると目の前に見知った顔がふよふよと浮かんでいた。


「リディ様何故ここに?」


 四天王が1人誘惑のリディだ。


 サキュバスだけあって綺麗で長い黒髪にツノを生やしていて、スタイルもいい。古い言い方にはなるが、ボン、キュ、ボン、と言うヤツだ。


 そして何故俺が同じ四天王に敬語を使っているのかと言うとリディは魔王の奥さんなのだ。


「ふふっ、今代の勇者を見てみたくてね」


 野次馬精神で戦場に出るのはやめてほしい。


 もしリディに何かあれば一緒にいた俺の首が文字通り飛ぶ事になってしまう。


「リディ様、失礼かもしれませんが貴方の身に何かあれば魔王様が心配するかと……」


「私の心配より自分の心配をなさい。私よりルーカスの方が弱いのだから。……それに今回に関しては戦う必要も無さそうだしね」


 うぐっ、痛いところを突かれてしまった。


 実は俺は四天王最弱なのだ。というか実力で言えば俺は話にならない普通の人間や魔族よりも強いがそこ止まりなのだ。


 ただ魔王が怖くて死ぬ気で仕事をしていたら、『忠誠のルーカス』なんて呼ばれるようになっていた。


 それはそれとして、リディも同じ事を考えていたようだ。勇者1人でカインを倒せるわけがないと。


 実力で言えば魔王と近いとまで言われている男だ。


「分かりました。ですが不足の事態が起こった場合は……」


「分かっているわ、すぐに逃げろ。でしょ?」


「はい、では行きましょうか」


 俺とリディは勇者がいる方へと向かった。



 戦場に着くと腰を曲げた老人のような緑の小人がいた。


 知略のアーロンだ。彼はゴブリン達の長であるゴブリンキングだ。


 そして肝心の戦いの方は余波で煙やら土埃やらが舞っていて勇者とカインの姿は見えない。


 しかし、ガン! ギャイン! と剣がぶつかる音だけが聞こえてくる。


「状況はどうなってるんだい?」


 リディが俺の聞きたかった事をアーロンに聞いてくれた。


「リディ様とルーカスですか、私も今しがた到着したばかりですので何が何だか分かっておりません」


 アーロンも今来たところか、しかしこれじゃあ援護しようにも援護できない。視界が悪すぎる。


「これじゃあ何も見えないわね」

 

 リディが呟く。全くその通りだ。


「そうですね、とりあえず俺達は戦闘準備をしておきましょう。戦闘部隊のオーガ達は?」


「すでに手配してある。5分ほどあれば……」


 そこでアーロンの言葉が止まった。


 何故かと言うと剣がぶつかり合う音がしなくなったからだ。おそらく決着がついたのだろう。


「カイン! 勝負はついたかい?」


 リディが声をかけるが反応がない。……まさか相打ち? ……嫌な予感がするな。


 煙がだんだんとはれてきてようやく人影のようなものが見えてきた。そしてその影は翼を展開していた。


 カインだ。カインの翼だ。


 つまりこの戦いの勝者はカインという事だ。


「カイン、勝ったのなら返事をせぬか」


「貴様、リディ様の返事を答えないなぞあってはならない事じゃぞ」


「まあまあ、何はともあれカインの勝ちなんですしいいんじゃないですか?」


 俺達3人が一安心してカインの元へと向かう為に歩き出すが、途中で全員の足が止まった。


 カインの首から上がなくなっていたからだ。


「そらっ、よっと!」


 女性の掛け声と共にカインの体はそのまま倒れた。そしてカインの後ろから片足を上げた金髪ロングで巨乳の女性が立っていた。


 女性はほとんど傷はなく、ピンピンしている。


 まさかカインが倒されるなんて、それに大したダメージも負っている様子がない。


「き、貴様は勇者か?」


 アーロンがなんとか声を絞り出した。


 カインが倒された事に俺と一緒で動揺しているようだが、なんとかと言った様子で質問をしている。


「あぁ? そうだが? アタシが勇者オリヴィアだが。お前らは……他の四天王かぁ?」


 なんというか口が悪い。まるで盗賊だ。装備も勇者の装備というにはあまりにも薄すぎるし、今浮かべている笑みは猛獣のそれだ。


「だとしたらなんじゃ?」


「ハハッ! アタシはついてるなぁ! まさか四天王全員殺せるなんてよぉ!!」


 アーロンの問いに対して笑いながら答える。


 俺達をたった1人で殺すだと?


 ……いや可能かもしれない。何しろアーロンをほぼ無傷で倒しているのだ。俺達が束になってかかったとしても勝てないだろう。


 だがここで逃げたならば、俺は魔王様に殺される。


 アーロンやリディの顔を見てみると青く染まっていた。


 この勇者に勝てないと、俺と同じ答えになったのだろう。


「フッハハッ、ハハハハ!!」


 俺はその場で嗤う。今俺が生き残る可能性がゼロに近いからだ。


 野良の魔族でいるよりも魔王軍に入った方が生き残る確率が高いよね、と思って軍に入ったがそれが原因で死にかけているなんて笑い話だ。


「なんだなんだぁ? 恐怖で頭がおかしくなったのかぁ!?」


「いやなに……勇者、貴様の余裕が面白くてな」


「余裕に決まってんだろ。四天王最強の男カインがこの程度だったんだ他の奴は大した事ねぇだろぉ?」


 どこまでも馬鹿にした笑みで語ってくる勇者に腹が立つが、奴の言っていることは事実だ。


「それが面白いと言ったのだ」


 怪訝な表情を浮かべている勇者をよそに俺は深呼吸をする。


 戦っても逃げても死ぬなら戦わずとも、逃げずとも勇者を追い返してやる。


「や、ヤツは四天王の中でも最弱ゥ!!(大嘘)本当の四天王最強はこの俺だ!!」


 勇者は表情を崩していない。


 しかしアーロンとリディは目が点になっていた。


 四天王で1番弱いヤツが何を言っているのだろう、と。


「つまんねぇ、ハッタリならやめとけよ。四天王最強は破滅のカイン。最弱は忠誠のルーカス。王国でも有名な話だぜ」


 最強が知れ渡ってるのは別にいいが、最弱まで知れ渡っているのはどう考えてもおかしいだろ!?


 はっ、いかん。冷静になれ。今ここで勇者を追い返すにはこの場の嘘だけで俺が最強だと信じさせないといけない。


「勇者よ、本当の情報を魔王軍が流すとでも?」


 俺の言葉を聞いて勇者は少し考えている素振りをみせる。


 よし、好感触だ。


「選べ、ここで俺達四天王と戦うか否かを」


 俺の問いに対して勇者は剣を握り直した。


「お前のそれは嘘クセェな……横の2人を見てみろよ、今にも吐きそうなツラしてるぜ」


 その言葉を聞き俺は無言で右手を前に向け、話しながら貯めていた魔力を勇者へと打ち出した。


 この攻撃は今の俺にできる全力だ。


「チッ! フッ!」


 だが勇者は舌打ちをしつつも聖剣を使い俺の攻撃を最も簡単に切り裂いてしまった。


 やっぱり簡単に無力化されたか……


「なかなかの威力じゃねぇか、だがアタシには届かねぇ! だがこいつはなかなか楽しめるかもなぁ!」


 勇者は吠えた。今にも攻撃してきそうだ。


 だが俺はそれを無視して倒れているカインの元へと向かう。


「おい、なんのつもりだ」


 勇者を無視してカインの死体を持ち上げる。


 全ての魔力を使い果たした俺にはキツい作業だ。


「これ以上仲間の亡骸を傷つけたくない。貴様がカインとの戦闘で消耗しているのは分かっている。

 ……俺は貴様に体制を整える時間をくれてやると言っているのだ」


 勇者は無言だ。

 

 一か八かだったが、やはり消耗はしていたのか。


 カインを相手にしたんだから当然と言えば当然か。


「好きにしろ選ばせてやる。ただし次は本気でやらせてもらうぞ」


 俺は本気での部分を強調して勇者に問う。


 あの攻撃は俺の全力ないよ、全然本気出してないですよ感を出す。じゃないと殺されてしまうからだ。


「……チッ、分かった今日は引いてやる。お前の名前は?」


 勇者は軽く舌打ちをしつつも帰ってくれるみたいだ。


 よかった〜、とりあえず生き残れたみたいだ。

 ……正直言って名前を教えたくはないが仕方ないか。


「俺は四天王最弱の男、忠誠のルーカスだ」


 俺はできるだけ強者の余裕というやつを出しながら言うが、それが出てるのかは分からない。


「ハハッ! お前がルーカスだったのか、その名前覚えたぜ! 精々夜道に気をつけるんだな!!」


 ガラ悪! 本当に勇者っていうよりも盗賊って感じだな。


 勇者は後ろを向きゆっくりと歩きながら魔王城を出て行った。


 はぁー、本当によかった……これで俺の命はなんとか繋がったな。安心してきたら意識が薄くなってきた……


 魔力を使いすぎたか。


「ルーカス!」


 俺が意識を失う前に聞いたのはリディの心配そうな声だった。



「見知った天井だ」


 目が覚めると魔王城の医務室にいた。


 仕事のしすぎで倒れた際に何度か此処へ運ばれたことはあるが、未だにこの薬品のような臭いはなれない。


「あら、ルーカス様起きたのですね」


 体を起こすとサキュバスのリムから声をかけられた。彼女は医務室の先生だ。


「ああ、俺はどれくらい此処で寝ていたんだ?」


「3日ほど経過しております。すでにカイン様の葬儀は済ませてあります。後で墓地に行ってみるといいかと……」


 なん、だと。そんなに時間が経っていたのか、それにカインの葬儀は終わってたのか。


 しかし勇者に対してカインでも歯が立たなかった。もしかしたら魔王様でも……


「それとルーカス様に伝言が、起きたら我が玉座へ来いと、魔王様が仰っていました」


 なら早速行くか、魔王様待たせると怖いし、それにすぐパワハラしてくるし。


「分かった、すぐに行こう。それと治療してくれてありがとう」


「いえ、当然の事をしただけです」


 そして俺はすぐに医務室を出て玉座へと向かった。



「魔王様、失礼します!」


 扉をノックして玉座へと入ると奥にでかい椅子に座っている角の生えた大男がいた。魔王様だ。俺は玉座の中心まで移動して魔王様へと跪く。


「おお、ルーカスか目覚めたのか」


「はっ! ご心配感謝します」


 魔王はそれを聞くとよい、表を上げよと言った。


「まずは勇者を追い返した件についてご苦労だった、褒美を授ける」


 やっぱその件だよな。本当だったら給料あげて欲しいけどそれを言ったら不敬とか言われて暴力振るわれそうだ。


「はっ! 有り難き幸せ」


 魔王様がパンパンと手を叩くと、近くにいた部下達が剣を持ってきた。


「これは……」


 この剣、ただの剣じゃないな。何か不思議な力を感じる。


「その剣は魔剣ゾーン。この世の因果をも切れるとされる魔剣だ」


 魔剣ゾーン、聞いたことがある。


 かつて魔王様が世界を絶望の淵へと追いやったときに使っていた剣。


 しかしそんな大事な物を何故俺に?


「こんな大切な物をよいのですか?」


「構わぬ、そして指令を与える。それを持って勇者を討伐してこい」


「……え?」


 は? この魔王なに言ってんだ? カインすら勝てなかったんだぞ。そんなの魔王以外に勝てるやついねぇだろ。


「これは命令である。カインの仇を討ってこい」


 魔王の顔を見ると顔がマジだ。何か特別な理由があるのか……


 もう一度魔王様の顔をよく見ると少し青ざめている。


 なんでだ? ……まさか、勇者に勝てないと悟って俺に行かせるつもりか! 冗談じゃないぞ!


「ですが魔王様! カインですら勝てなかったのですよ!」


 俺は必死に反論する。俺が行っても無駄に死ぬだけだ。


「お前は四天王最強なのだろう? なあアーロン」


 そういうと奥からアーロンが出てきた。


「はい、確かにそう聞きました」


 嘘だろ!? アーロン! 自分が生き残る為に俺を売ったな!! あそこで俺の機転がなければお前も死んでたと言うのに!


「ですが!」


「くどい。それにお前にはその魔剣がある。……コホンっ! 魔剣があったら負けんからね!」


「………………」


 ……こんな時に親父ギャグかましてんじゃねぇよ!


 笑えねぇよ! それに前の会議で魔王様の親父ギャグを笑ったら真面目な話をしているのだ。不敬。とか言われて暴力振るわれたからどっちにしても笑えねぇよ!


「笑わぬとは、不敬」


 魔王様が杖でトンと地面に叩くと何処からともなく俺の上に雲が集まってきた。


「ま、魔王様?」


 おい、嘘だろ……前回と言ってることが違うじゃないか。


「落ちろ、雷よ」


「あばあばばばばば」


 そして雷が俺へと落ちた。俺は当然意識を失ってしまうのだった。





「はっ!? 此処は……」


 辺りを見渡すとそこは森だった。そして近くには紙と魔剣ゾーンだけが落ちていた。


 そこはエメラルド森林だ。ルーカス、勇者を倒すまで魔王城へは帰ってくるな。by魔王


「ふざけんなぁ!!! 俺は四天王最弱なんだぞ!! 勝てるわけないだろ!!!!!!」


 だが魔王様からこう言われた以上帰ることもできない。


 くそぅ、やるしかないのか……俺の勇者を倒す戦いはこれからだ!


 この後、なんやかんやあって四天王最弱だった俺が勇者と付き合う事になるのだが、それは別のお話だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

四天王最弱である俺の俺による俺の為の生存戦略 コーラ @ko-ra

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ