全裸ホームレス勇者少女(呪)を拾う。~ちっちゃな自称元勇者に出会って十五秒で脅迫されて映画作りを頼まれたけれど、なんかこの人、死にそうです!!~
48話 世界を救う。そして彼女は勇者を悼む。4 (後編)
48話 世界を救う。そして彼女は勇者を悼む。4 (後編)
僕らの作戦が決行される日がやってきた。
場所は『アー・エベル河の決戦』と呼ばれる事になる戦場だ。
人間とエルフの両軍が、その浅い河を挟んで対峙していた。
人間のほうが圧倒的に多く、今にも攻撃を仕掛けるように見えた。
戦闘部隊だけでも五万人以上で、後方部隊を合わせれば倍だ。
その様子を僕は遠くの崖から光学偽装をして見守っていた。
そして人間の軍が徒歩による渡河を開始した時だ。
僕は呪文を唱えた。激高魔術のだ。
変化は一瞬で起きた。
人間の兵士たちは急にあらぬ方向を見つめ、怯えたように叫びだした。
そうして自分の隣にいた仲間を攻撃しはじめたんだ。
この頃の僕の精神魔術は三百年続けた実戦で鍛えられ、万単位の軍隊すら手玉にとれるようになっていた。
人間の軍にも精神魔術を防ぐための干渉結界が、最上級の魔術師によって展開されていたが、僕にとっては障害にならなかった。
百人、二百人を倒すだけならゾーニャの働きだけで十分だが、彼女がどれほどの量のマナが使えるか未知数で、どれくらいの時間を戦えるかわからない。
だから僕が敵の数を減らして、彼女の負担を少なくする必要がある。
それでも殲滅しきれない場合に備えて、わざわざエルフ軍の目前まで進軍するのを待って、こうして仕掛けたわけだ。
人間の軍は総崩れとなっていた。
その後方から、光学偽装をした揺らめく人影が、超音速で突っ込んできた。
ゾーニャだ。
その最初の突撃で数百人の兵士が砕け散る。
血が混じった水柱が高くあがり、空を突いた。
ゾーニャは激しい剣撃を始めるが、相変わらず剣術というものがない。
最短軌道で標的に接近し、武器を叩き付けるだけだ。
彼女の剣は十人目を吹き飛ばしたあたりで折れ、足もとに落ちていた鉄槍を拾いあげた。
それを力任せに川の中心で振り回すと渦が舞い上げられ、兵士たちの血が真赤な旋風となって、対岸のエルフたちからは見えていたはずだ。
河が赤く染まっていく。
だがエルフたちも何が起こっているのか正確には理解できていない様子。
ゾーニャが人間の軍勢の中へ紛れているせいだ。
これを好機と見たエルフ軍は突撃を慣行すると――あとは一方的だった。
人間の軍はほとんど抵抗できずに壊滅した。
しかし誰も、僕らがそこにいた事も、いつの間にか立ち去った事も、気づいていなかった。
これによって主戦力を失った人間の帝国は、エルフへ講和を申し入れるほかなく、戦争はたった一度の合戦で終結する。
最小限の犠牲で戦乱を終わらせる。
それは確かに果たされた。確かに──。
◆◇◆◇◆◇◆
僕たちは戦闘から二日後の戦場跡に戻ってきた。
川岸には人間兵士の骸が見渡すかぎり打ち捨てられたままだ。
装備品は略奪され、遺体は半裸だった。
動物に食い荒らされている物もいくつもある。
僕たちはここで死なせてしまった兵士を弔いたかった。
だから、せめて墓を一つだけ作ろうと思って来たんだ。
墓前にたむける花を探しながらゾーニャが歩いているとだ。
急に死体の一つの前で立ち止まった。
どうしたのかと、僕も木陰にあったそれを見てみると。
見覚えのある顔をした青年の亡骸だった。
そう、この前、結婚式をあげていた新郎だ。
いったい彼は、何日間、新婦と夫婦として暮らすことができたのだろう。
「これが……」
と、ゾーニャは呟いたんだ。
「これが……私のしたことだ……」
ゾーニャはしゃがみこんでしまった。
やがて、静かに泣きだした。
「ラス……私は決めた」
「保留していた話しの事……かな?」
「そうだ。私は……幸せになっていい者じゃない。だって、見て欲しい、この戦場を。あまりに多くの幸せを壊してしまったのだと思う。
なのに、自分だけはその幸せを手に入れる? 無理だ。だから、ごめんなさい。私は結婚などして人並みの幸せを手に入れる資格はない」
「……」
それはきっと、僕も、そうなのだろう。
「でも、ラス――」
これから言う言葉すら、躊躇われる、というように、ゾーニャは言った。
「――これだけは言いたい。愛している。あなたを、とても」
その涙を見て、僕は強く思った。
何があっても、ゾーニャの隣で寄り添い続けよう。
これから何があっても。
僕らがどんな未来へ、たどり着いたとしても。
「僕もだ。ゾーニャ。君を愛する。どんな君であれ。いつまでも」
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