綿棒が笑ってる
@abopopon
第1話
いつからだろう。
ケイくんにLINEを“一方的に”送り始めたのは。
大学4年の卒業間近、彼は自殺した。
彼は同じ大学の農学部工学科の同じクラスメイトだった。
大学入試の日、隣の席にやけに鋭利な目つきのシュッとした顔立ちの男の子が居たなと記憶の奥底に微かに印象が残っていたが、後に本人から「隣り合わせに一緒に座っていたよね」と教えられ、それはケイくんだったのだと後に知った
「もっと話せていたら」
と思ったけど
彼から話しかけられると何だか居心地が悪くて、口がうまく回らず、いつも一言二言しか話せないまま、お互いただの“知人”でしか無いまま大学生活は過ぎ去っていった。
彼は教授達から飲み会で「何で君こんなとこに居るの?芸能事務所に入ってる方が自然じゃない?」
と冗談で言われるくらい背が高く色白の申し分のない顔立ちの世間一般で言う”イケメン“だったから、
周りはその端正な容姿をいじらずにはいられなかったのを覚えている。
そう言うことを言われると彼は
「本当そうですね」
とキッパリ肯定して、周りをドッと笑かしていたが、もはや「いやいやそんなことないです」と否定するのも面倒くさいし面白くないからそう返答するようになった感じで、
その開き直った様子がまた面白かった。
============
-2023年12月21日のLINE-
「ケイくん元気?」
「久しぶりだね」
「今年ね、なんと公式に精神障害者として認められて色々生きてけそうです」
「今までの遡及分620万と障害厚生年金をこれから貰えることになったの」
「親にも友達にもこれから出来るかもしれない未来のパートナー(?)にも伝えないつもり」
「不思議とお国のお荷物になる罪悪感は全くないんだ」
「今まで苦しんでた分が報われたみたいで本当に嬉しい」
「600万なんて誰かの年収にも満たないかもだけど、私は苦しんでやっと年収250万(実質手取り200とか?)だったからさ」
「何だかほんと嬉しくて」
「受給者通知の書類が来たときホッとして涙出ちゃった」
「こんな一大ニュース誰1人と共有出来ないんだよね。”メンヘラで役立たずが無償でお金貰って!“って目で見られるのも嫌だしまぁこれでいいのかな」
「精神障害者ってさ、世間ではメンヘラとか馬鹿にされて恋愛でもその片鱗見せたらタブーみたいな風潮があるから
正式に手帳が貰える、認められるってことはほんと重要だし安心感あるんだ^_^」
「毎回自分のことばっかりベラベラとごめんね」
「障害者手帳はあと2ヶ月したら貰えるみたい」
「貰えたらまた連絡するね^_^」
「そうそう、私はいつ発作(と勝手に呼んでるだけだけど)が起こるか分からなくて、一応致死量のお薬用意しておくことにしたよ」
「もしいつかそれ飲んだとき、しっかりこの身体から抜け出せるようにお願いしてもいい?」
「ほんとごめんね」
「こんなこと頼んで」
「やっぱりこの地球で生きてくの大変なのかな^_^;」
「難易度的にさ、もし違う次元があったとして、包括的に地球でのこの次元での生き方って難易度どのくらいなのかな?」
「あんまり未練っていう未練ないんだよね。総合的にさ、色々体験出来てさ楽しかったなーって。
高校時代の誰とも話せなかった状態から考えると信じられないくらい頑張りましたって。
そりゃ相対評価的には底辺の底辺だけど
私の中での絶対評価的にはかなりハイレベルなこと出来たなって」
「海外行ったり転職したり恋人作ってみたり」
「結果的には思う通りじゃないかもしれないけど、体験的にはよくやったなぁって」
「自己満足の世界だけど」
「おやすみケイくん。またね^_^」
============
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます