一〇章 人脈! 再び!
「画家の
ほだかが『最強スキル・人脈!』を駆使して新たに連れてきたふたりの男性は、なんとも好対照な人物だった。
赤く染めた髪にフェイスペイント、いくつものピアスと、画家と言うよりビジュアル系バンドのヴォーカルのよう。ちょっと
一方の
スリムではあるが、
いかにも『人生踏み外してます』敵雰囲気満載の
「だから、女子校の教師にならなかったんですよ」
にこやかな笑顔とともにそんなことでも言われたら、
ともかく、
――料理人の
いやがらせか!
と、思わず叫んでしまいたくなる現実ではあった。
――しかし、ふたりとも『
「『
――と言うことは、このふたりにも親はいないのか。
ほだかを見る限り、そんなことはまったく気にしていないようだし、気にさせないほどに
「はじめまして。
そんな
一方、
「……
とだけ、呟いた。
敵意でももっているのかと勘ぐりたくなる態度だが、それがまたビジュアル系美少年の外見によく似合っているので腹も立たない。
「あ、これはご丁寧に。
そこで
「あれ? そう言えば『ほだか』に『
「よくぞ、気付いてくれました!」
ほだかが嬉しそうに両手を叩いた。なにかにつけてお日さまのような笑顔が弾けるのがなんとも目にまぶしい。
「うちの館長、登山が趣味なんです。それで、子どもたちにはみんな、山の名前をつけているんですよ」
「へえ」
「迷惑な話だけどな」
「こら。そういう言い方をするなといつも言っているだろう。館長は自分の一番、好きなものの名前をつけてくれているんだから」
ほだかがつづけた。
「それで、子どもたちもよく登山に連れて行くんです。そこで、自然の美しさに魅せられて、画家とか、カメラマンになっちゃう子が多いんですよ」
「ああ、なるほど。それじゃ、
「……『さん』付けするな。『
「あ、ああ、これは失礼」
「こら、失礼だぞ。
叩かれた
「そうそう。失礼ですが、僕たちも『
「ええ、どうぞ。かまいません」
「ありがとうございます。それと、僕たちの名前は呼び捨てにしてください。やっぱり『さん』付けされると山を思い出してしまいますからね」
とにかく、現場となる畑を見たい、と言うことなので、
「なるほど。ここが、ほだかの言うオーバーアートの舞台なわけか」
「そうです! ここから農業をかえるプロジェクトがはじまるんです!」
ほだかは両拳を握りしめ、力強い瞳に炎を燃やしながら断言した。
『プロジェクトをはじめる』ではなく『プロジェクトがはじまる』と言ったあたりに、ほだかの意思の強さが表れていた。
一方、
「……同じ色、同じ大きさ、同じ形。がっかりだな。畑の風景を芸術作品にかえるというならもっと面白い風景が見られると期待していたのに。これじゃ、魅力的な絵になんてしようがない」
その言葉に、
「プロの言葉じゃないな。どんな風景にも隠れた魅力を見つけ出し、それを絵として表するのがプロだろう。目に見えているものをただ描き写すだけなら、それは素人だ」
「……簡単に言ってくれるな」
「苦労して、成果を出すのがプロだよ」
そう言われて
「ちっ」
と、くやしそうに舌打ちしてそっぽを向いてしまった。
そのやりとりを見て
――なんだ? なんか奇妙だな、このふたり。
違和感の正体がわからず首をひねる
「ね、ね、師匠。あのふたり、いい感じだと思いません? 『ガチBL⁉』って、うちでも有名なふたりなんですよ」
「ああ、違和感の正体はそれか」
言われて、納得する
「いいですよねえ。中二病満載の年下男子と、お兄さんぶる年上男子。いっつも楽しませてもらってます」
「いや、男のおれにそんなことを言われても困るんだけど……」
ヘテロの男としてBLなどに興味はないが、基本的に男子禁制の世界であることぐらいは知っている。がっ――。
そんなことよりはるかに重大な問題が自分の身に起きていることに、
「……⁉ 胸が当たってるじゃないか! はなれろ!」
「はっ? いいじゃないですか、これぐらい。なにを騒いでるんです?」
「いいわけないだろ⁉」
「そんな童貞みたいなこと……って、えっ? 師匠ってもしかして、マジ童貞⁉」
「そういう問題じゃない!」
そんなふたりのやりとりを、今度は
「……おれたちは今日、仕事の話で呼ばれたんだと思っていたが?」
「取り引き相手と世間話するのも、大切な仕事だよ」
その微笑みはちょっと怖かった。
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