野次がれて

目取眞 智栄三

第1話 それには憧れず。だが、それに憧れて



「「ゴーゴー、サイクロンズ! ゴーゴー、サイクロンズ!」」

 大勢の赤のユニフォームを身に付けて大声援を送るサポーターの中に、私は呆然としながらいた。正直、怖い。

 どうしてここにいるかというと、友達に一緒に観戦に行こうと無理矢理連れられて今に至る。

 ……帰りたい。

 サッカーどころかスポーツのファンではない私は、ため息を出す。

 やがて試合は二対二のロスタイム……今はアディショナルタイムだっけ? どっちでもいいけどそれに突入。七分と長い数字を目にして。

 まだ続くのかと再び息を吐くが、そうしたところで終わってくれない。さらに、「これ、トーナメント大会でどっちかが勝つまで終わんないわよ? さあ、いろはももっと声出して応援して!」と、ここに誘ったゆかが口にしていた事を思い出す。もう、どっちでもいいから点入れて終わってよ……。

 そんな私の願いも虚しく、同点のまま延長戦。このまま決まらなければPKでまだここから解放されない。

「「ゴーゴー、サイクロンズ! ゴーゴー、サイクロンズ!」」

 応援が激しさを増す。相手チームも応援しているが、ここはサイクロンズ」のホーム。ほぼ真っ赤に染まった収容人数五万人を誇るこのスタジアムの圧が、相手チームとサポーターを襲う。サッカーに興味のない私がこの場にいて恐怖するほど。

 試合が動いたのは、アディショナルタイム五分過ぎ。白の相手チームがろんぐぱす? で味方にボールを渡し、受け取った選手がそのままシュートしてネットを揺らす。

 ゴール? ゴールだ。早くここから帰りたいから、このまま逃げ切って。

 この赤い集団の中に思考が読める人がいたらすごい怒られそうだけど、私は自分自身の為だけに好きでもないチームを応援。

 が、

「ふざけんなよ!」

 後ろにいた男性が苛立しげに叫ぶ。

 やばい、相手応援してるのばれた? と、一瞬怯んだけど、どうやら違った。

「オフサイドだろ!」

「VARやれよ!」

「審判、目ぇ付いてんのか? あれで付いてんなら、その目抉ってやろうか?」

 怒号、怒号、怒号。赤の罵声が、スタジアムを包む。隣を見たら、ゆかも「ブー」と親指を下に向けている。

 私はサッカーの細かいルールは知らないけど、オフサイドって単語が所々からする。多分、これに関する事で怒ってるんだろう。

 ぴっち? ぐらうんど? でもサイクロンズの選手達と監督らしきおじさんが猛抗議するけど、審判は首を横に振る。

 その抗議に痺れを切らした選手の一人が審判を突き飛ばし、審判は倒れてすぐに立ち上がって赤いカードを出した。ルールを知らなくても、そのカードの存在は知ってる。私でも、知ってるはずなのに……。

「何でレッド何だよ!」

「今のは、お前が挑発して出させたんだろ!」

 サイクロンズの怒りが、ますます大きくなる。

 前列にいたサポーター数人がペットボトルのゴミなど投げ、警備員が止めに入るが中々収まる気配もない。アナウンスで注意を受けても、赤の怒りの集団はしばらく静止せずに。



 結局試合は二対三でサイクロンズは負け、その結果に納得出来ない複数のサポーターが相手チームの横断幕を破るなど過激行為が起こる。そのことについて数日後に日本サッカー協会が処分を下す。暴れた複数のサポーターを出禁と……サイクロンズに対して何かしら罰を下したけど忘れた。

 


 

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る