チェリー・オブ・ザ・デッド

yuraaaaaaa

第1話 非日常の幕開け

 少し暑くなってきた初夏の7月、僕はいつものように学校の屋上で昼休みを過ごしていた。

 遠くを見つめながらぼーっと自分で作った弁当を頬張っていた。


 隣にはいつもようにすぐるが、僕に向かって喋りかけていた。

 「なあ、大介だいすけさっきから俺の話し聞いてるのか?」


 「聞いてるよ! どうすりゃあ女の子と緊張しないで話せるようになるかだろ?」

 「そうなんだよ! どうすれいい?」


 傑の話は決まってその話になる。

 この男傑は、極めて残念なイケメンなのである。


 身長は180センチを優に超える高身長。さらにはバスケ部のエース。

 超イケメンという感じではないが、明らかにモテる爽やかな青年だった。おまけに勉強の成績もいい。


 高校では彼女を作りたくてわざわざちょっと遠いこの高校を選び、さらにモテるように努力までして、モテるようになったのにもかかわらず、女性と2人っきりになると緊張して全く話せなくなってしまうらしい。


 そのせいでデートでは失敗続き、高校2年の7月になっても彼女が出来ないという。

 なんとも残念なイケメンだ……


 本当に僕とは全く接点がないような人間だ。

 しかし、高校一年の時に僕が屋上で弁当を食べていたら、僕の存在に気付かずに傑が隣に来て、散々愚痴をこぼしていた。


 その愚痴を最後まで聞いた僕は思わず、

 「悩み過ぎじゃない?」

 と声をかけたのがきっかけで、昼休みに話すようになった。


 以来、屋上で傑の話を聞く関係になった。

 高校2年生に上がると同じクラスになって、さらに話す機会が増えた。


 身長も普通、勉強も普通、部活もしていないし運動神経も普通で、性格は暗く超がつく程のモブである僕に何故か傑は気にかけてくれて優しかった。

 僕にとっては唯一の友達といってよかった。


 一度傑に聞いたことがあった。

 「なんで僕とそんな仲良くするの?」


 「この学校に入ってキャラ設定をミスった。素の自分でいることが出来るのが学校では大介の前だけだから。それにお前は口が堅いから信用してる」


 と傑は答えた。

 僕はふーんとそっけない返答をした。


 それに僕と話していると誰も話しかけて来ないからいいらしい。


 「それで何かいい作戦はないのか?」

 「もう荒療治しかないんじゃない?」


 「どういう事?」

 「夏休み近いから、夏休みにひたすら女の子とデートしてみたら? そのぐらいしないと慣れないんじゃない? もう高2の夏だよ? まさに作るなら今しかないよ?」


 「た、確かにそうなんだけどさー……」

 「キーンコーンカーンコーン」


 「とりあえず教室戻ろうぜ」

 「ああ」


 屋上から階段を降りて、自分達の教室へと歩みを進める。


 「わりぃちょっとトイレ!」

 「先行くよ?」

 「ちょっと待っててよ」

 「早くしてよ」


 僕はトイレの入口の隣の壁に背中を預けて腕組みをしながら傑を待った。


 「あの〜」

 声が聞こえた方へ顔を向けると、下級生と思われる女の子が僕の目の前に二人立っていた。


 「傑さんと仲がいい大介さんですよね?」

 「仲がいいのかな? どうだろ? まあでも僕は大介だよ」

 「これ傑さんに渡して貰えませんか?」


 そう言って渡されたのは丁寧に折られたノートの切れ端だった。

 「私の連絡先が書いてあります。1年2組の須藤すどう かえでって言います」

 「自分で直接――」


 「ごめん大介、待った?」

 丁度そのタイミングでトイレから傑が出てきた。

 女の子の二人はそそくさと早足で逃げていってしまった。


 「あれ? もしかして俺のタイミング悪かった?」

 「いや大丈夫! てかホラお前宛の連絡先だよ」

 僕は渡された紙を雑に放り投げた。


 「えっ? 俺に?」

 「傑と仲良くしてからってこういうの本当に多いんだよね。なんで僕がわざわざ傑に渡さないといけないんだよ」

 「なんかごめん」

 「まあいいけどさ」


 そんな話をしながら教室に到着した僕達は、午後の授業を受ける為に椅子に座った。

 

 (午後の授業ってのはなんでこんなに眠くなるんだろうなぁ……)

 そんな事を考えている時だった。


 「緊急連絡です! 校内に不審者が侵入してきたので教室から出ないようにして下さい!」

 校内放送が流れた。


 「おい! 席につけ! 騒ぐな!」

 教室がざわつき始めた。


 皆が窓の方に集まり校庭の方を見ていた。

 中にはスマホで動画を撮ってるやつもいた。


 僕も校庭の方に目をやると不審者らしき人が、教員の何人かがさすまたを持って対応しているのが見えた。

 

 でも何かがちょっとおかしい……


 僕の勘が告げている。

 (ここにいないほうがいい)


 僕は自分のバッグを持って傑の腕を掴んだ。


 「大介どうした??」

 「傑こっちに来い!」

 傑を無理矢理引っ張って廊下に連れ出す。


 「おい! どうしたんだって!」

 「わからないけど、とにかく何かヤバい気がする……」

 「屋上にとにかく行こう」

 とにかく傑を引っ張って屋上へと向かった。

 「大介! 手離せって! どうしたんだよ本当に」


 「いや……悪い」

 強く掴んだ手を僕は離す。


 「お前意外に握力あるんだな。痛かったわマジで」

 「ごめん傑」


 「それで? 急にどうしたんだよ。後で先生に怒られるぞ俺達」

 「何かがおかしいんだよ」


 「おかしいってなんだよ」

 「……」


 「まあ不審者が入ってくるなんて一生に一度あるかないかだよな。初めてだぜこんなの」

 「このままサボっちまうか?」

 傑が笑いながら僕にそう話していると、


 「ギャーーー」

 校内の方から悲鳴が聞こえた。


 「え? どうしたんだ?」

 悲鳴が聞こえた僕達は、屋上から校庭と校内の様子をうかがえる場所まで近づいていき、手すりに捕まりながら身を乗り出して様子を窺った。


 「おい大介なんだコレ!」

 「……分からない」

 校庭に見えたのはさっきの不審者と対応していた教員の姿だったが、明らかに様子がおかしい。

 おかしい様子の人達が、学校の中へと目指していた。

 校内で悲鳴が聞こえ、生徒達が逃げていく様子も同時に見えた。


 学校から外に駆け出していく生徒達が大勢出てきた。

 その生徒達に急に襲いかかっていく様子のおかしい人間。

 覆いかぶさって首元を噛みちぎっていた。


 生徒の断末魔と共に血が吹き荒れて、動かなくなっていた。

 (一体何が起こっているんだ)


 「おいおい。俺達は夢でも見てんのか??」

 「なんだよさっきから、うるさくて眠れねぇよ」


 屋上にある貯水タンクの影から人間の影が。

 「あれ? 大介と傑じゃねえか」

 そういってあくびをしながら影から出てきたのは同じクラスの圭佑だった。


 「圭佑……? こんな所で何してんだよ」

 「何って授業をサボってただけだよ」


 そういってオレンジに染まった髪をクシャクシャと掻いて眠そうにしていた。

 オレンジの髪に学ランの下は赤のTシャツに、現代にはそぐわない短ランを着ている圭佑。

 

 1年の入学式から不良だと思われている圭佑。しかし、入学の時から主席を他の人に譲ったことがない程、超頭が良かった。

 入学式の挨拶をオレンジ色の髪した奴がやっていた時は度肝を抜かれた。


 それ以降は問題児扱いされていたが、頭がぶっちぎりでいいからか、先生達も扱いに困っていた。


 「それより午後の授業始まってるんじゃねえの? お前らももしかしてサボり?」

 「いや! 俺達は……とにかく……」 

 「なんだよハッキリしないなぁ」


 そう言いながら僕達に近づいてきた。

 圭佑は校庭の方を見て顔をしかめた。


 「あれ? 今日って7月だよね? いつからうちの学校って渋谷のハロウィーンみたいな学校になったの?」

 圭佑はそう言いながら校庭を指差した。


 校庭を見るとそこには、さながらゾンビの集団が出来上がっていた。

 誰がどう見てもあれは映画なんかに出てくるゾンビだった。


 「わからないんだよ! 学校に不審者が入ってきたって放送があって俺と大介は屋上に来て話してたらお前が起きてきて、いまこうなってるんだよ! 何が起きてるかこっちだって聞きたいよ」

 「えっ!? じゃああれって何!? マジでゾンビ!?」

 圭佑は急に膝をガクガクブルブルさせながら、表情を強張せていた。


 「本当に分からない……」

 「でもゾンビ……みたいなあいつらが人を襲って噛みちぎってる瞬間を僕は見た」

 「いや、それってゾンビじゃん」


 確かに圭佑のお言う通り、まさにゾンビだった。

 だけど本当に俗に言うゾンビなのかは定かではなかった。


 「おいあれみろよ大介!! さっき食われた奴が起き上がってるぞ!!」

 首元を噛みちぎられていたさっきの生徒が起き上がっていたのだ。

 「ゾンビか……」

 僕はそう一言漏らした。


 「大ちゃん〜、傑く〜ん」

 「ナニコレ! ナニコレ! 現実なの!? 俺無理だよ〜」

 急に泣き出して僕に抱きついてきた圭佑。その体はブルブル震えていた。


 「お前そんな見た目してるのにどうしたんだよ」

 「見た目で判断するなよ傑く〜ん」


 「この格好だってしたくてしてる訳じゃないんだよ〜。姉ちゃん……アネキが脳筋馬鹿でさぁ。この時代にレディースを復活させるとか言って、暴走族作ってレディースやってるような頭おかしいアネキのせいでこの学校に入れられて、しかもオレンジの髪で短ランとかにさせられちゃって……」


 「学校で浮いちゃってボッチなだけなんだよ〜!! 進学校行こうとしたのに、アネキが勝手にこの学校行けって! 学校で番長になってテッペン獲ってこいとか訳分からない事言うような脳筋のせいで俺の人生めちゃくちゃなんだよーーーーー」


 「俺は勉強しか出来ないんだよ〜〜」

 「それになんだよ今の状況、急にゾンビって! 俺の人生めちゃくちゃだよ〜〜」

 豪快に泣きながら、鼻水で僕の学ランがベチャベチャになっていた。


 「夢なら早く覚めてくれよぉ〜」

 力なく吐き捨てるように圭佑は言葉を漏らした。


 「なんか可哀想だな圭佑……」

 「ってそんなことより今の状況どうすんだよ!!」

 傑の一言で我に返る。


 「言っとくけど、不良じゃないから俺一度も喧嘩とかしたことないからな!」

 「俺も戦うとか出来ないよ? どうやってここから脱出する?」


 「ゾンビと戦うとかホントに無理だから大ちゃん。傑くん! マジで非暴力、ガンジー助けてって感じだから〜」

 「圭佑テンパりすぎて何言ってるか分んねえよ!」


 「僕にいい考えとまではいかないけど、逃げる方法があるよ……」

 「何それ大介! 早く逃げようぜ」

 「逃げようよ〜」

 僕らは、学校の屋上から脱出する為に動き出した。




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