悪いわたし

 いじめ。わたしにとって、それほど恐るべき響きは他に存在しなかった。


 学友のはずなのに、友とは言えないような同級生たちからの苛烈な嫌がらせがわたしを一歩一歩追い込む。


 時に持ち物を隠され。


 時に足を引っかけられ。


 時に皆の前で嘲笑され。


 時にあだ名をつけられ。


 例に挙げきれないような嫌がらせの数々、それら一つ一つは大したことがなくても、積み重なって、いつまで続くかわからなくて、恐怖と不安で追い詰められた。


 辛くて辛くて、一日学校を休んだ。


 次の日学校に行ってもなにも変わらなくて、でも休んでも解決しないって知ってて、しばらく学校に行った。


 だけどずっと行き続けるのはやっぱり辛くて、また一日休んだ。


 次第に学校を休む間隔は短くなり、二日連続、三日連続と学校を休む期間も長くなる。


 いつしかわたしは、家から出るのを拒んで、カーテンを常に閉め切った薄暗い部屋の中に籠るようになってしまった。


 母は、そんなわたしを心配して、でも焦らなくていいって言ってくれる。


 父も、特になにを言うでもなく、たまにわたしに文庫本を買い与えてくれる。


 しかし、わたしは両親の優しさに応えられないわたし自身の弱さが憎くなって、部屋から出る頻度も下がっていく。部屋から出られないわたしはやっぱりわたし自身のことが嫌いで、また活動範囲が狭まって――


 気づけばわたしは、どうやっても抜け出せない悪循環に陥っていた。


 変わりたい。でも変われない。


 日が経つごとに悪くなっていく現状が怖い。


 なにもできないわたしが、まだ世界と接しているのが怖い。


 自殺を考えたこともあった。でも家の中で死ぬことはできなくて、家から出ることもできなくて、八方塞がりだった。


 わたしは、自殺すら満足にできない。


 わたしは考え得るすべての手段を検討して、わたしの人生は終わりだという結論を出していた。


 きっとなにも変わらずに年が経つだけ。年齢だけ上がっていって、皆が人生を謳歌している間、わたしはきっとずっとこの部屋の中。


 不安と恐怖は、大きすぎる諦観によって塗り替えられ、わたしの心は、その諦観と時たまわたしを襲う焦燥だけで支配されている。


 ただ、諦観と焦燥の中で、一つだけ。


「……嫌だ」


 わたしが予見して、変えることを諦めた未来が、そのまま現実になってしまうのが、嫌だった。


 嫌だといっても、さんざん考えたうえで結論が出た。だからきっと変えられない。


 そんな諦観と、嫌がる気持ちとが時にぶつかりあう。


 そして自然と涙が零れる。


 未来はないんだ。嫌だと思いながら結局なにも変わらず日々は過ぎていくんだ。


 髪が乱れるのも気にせず、顔を布団に擦り付ける。辛い。苦しい。


 なにやってるんだろ、と身体を転がし仰向けになる。

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