第3話 着付け

「もうー」


高原美笑子はベッドに腰掛け、椅子の背もたれから流れ落ちる2着のイブニングドレスの方へ見た。


「どれか、私...全然わからない。」


なぜ一日中着ていた着物はだめなの?今夜の夕食ってそれほど特別なもの?


それに、フォスターズ氏は今夜お邪魔するからと言っても、痒くて汗ばむ拷問器具に着替えないといけない理由は!?


「あんたの教師として、前の女に比べたら天才だ。

夕食に誘ってあげることは、私たちがせめてお礼でできること。」


美笑子は父親の理論に目を丸くした。ベッドに横になったら、両腕をつやつやの黒髪の上に広げた。


私たちがせめてこれできるって?


チェ


一般人が想像出来ないほど週給と3倍の残業手当で、あいつは毎晩クロマグロを食べることができるんじゃ!


しかし、オハロラン先生が夢にも見えなかった給料を持ち帰っても、あの男にとっては物足りない。


眉をひそめ、白い天井を見つめた。


オハロラン先生…


お父さんが夕食に招待するのはあいつじゃなくて、彼女であるべきだ。


次の手紙にオハロラン先生が首になったことを司馬に報告しようと思ったが、結局、帰宅するまで待てばいいことに決めた。


司馬…


耐えられないほど長い長い3年を経て、ようやく親友との再会を祝う日が見えて来た。この思いを心に込めることだけで、今日の憂鬱な夕食会を何とか乗り越えられると美笑子は決断した。


体を立て直し、椅子に置いたまま2着の方へ目を向いて、ため息を出した。


青か緑か、青か緑か...。


もう一回ため息をついた。


この着物を着るのに1時間もかかった!

せっかく着付けを一人でできるようになったのに!

お祝いとして一日中着ようと期待したのに…!


あのカナダやつは本当にどうみても邪魔だ!


部屋の下から突然、大きな足音が鳴り響き、 美笑子は今晩の暗い現実に引き戻された。


もう時間だ…早く降りないと。

フォスターズ氏の前でお父さんに更に尋問を受けることにならないように。


しぶしぶ椅子の横から落ちそうな青いシルクワンピースの上に手を置いた。


まあね、ドレスがあれば、帯なしで別腹できるんじゃ!

彼女は帯を解きながら、昔の夕食でいつも司馬にからかわれたことを懐かしく思い出した。


「チビなのに熊のように食欲が止まらない!」

って


彼なしで、今夜を乗り越えること。


「美笑子!降りておいで、いいかい?」


もう一晩だけなら、なんとか大丈夫。


あと一晩、彼なしで。

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