第16話 みんな、仲良くSITEEE!
とってもやさしいいいにおいのするヒナが近づいてくる。
ナイスバディ―なのに妖艶なにおいじゃないふしぎだなあ、ごめを。
「いつ魔物が出るか分からないし治療しておきましょう。さ、顔を出して」
「ヒナ、それなら俺の回復薬を」
「いえ、そんなに魔力使うものではないですし、トレスさんの回復薬は戦闘にとっておくべきです。私が治療しましょう」
トレスがコピースキルで増やした回復薬を出そうとするのをヒナが遠慮する。
ていうか今思うと魔力がある限りいくらでも回復薬でもなんでも物作り出せちゃうって完全に経済破壊出来ちゃうよな、トレスのスキル。極悪錬金術じゃん。
そんなことを考えていると、気づけばヒナの手が俺の頬に。
「いやいやいや! ヒナ! こんなのすぐなお……!」
その時、目に入ったのはヒナの悲しそうな笑み。
俺は思わず口をつぐむ。
「私には、これくらいしか出来ませんから」
そう呟いて、俺に回復魔法をかけ始めるヒナ。痛々しい張り付いた笑顔に何も言えなくなる。
パーティーとは助け合うものだ。楽してー、めんどくさくなりたくねーと思うような奴でない限り、何もしない状況でいるだけなんて辛い。
前世にもいたな。
上司に嫌われたせいで、最終的に掃除と買い出しだけさせられやりがいのある仕事なんて一つも与えられなかった奴。真面目でその状況に耐えきれず辞めた。
ヒナも真面目だ。自分がパーティーの役に立ってない事が耐えられないんだろう。
「…………」
俺は黙ってヒナの回復を受け入れる。
これで少しでもヒナが自分の必要性を感じてくれるならそれでいい。
それがきっとパーティーって奴だ。必要とされ必要とし、時には必要を作ることだって必要だ。
俺の頬の腫れと痛みが引いていくとヒナの顔も少し優しくなったように見えた。
「ありがとうな、ヒナの回復魔法はやっぱ効くなあ! 気持ちが籠っているせいか元気も出てくるぜ!」
「……まあ、よかった」
ヒナが一瞬目を見開き、口元に手を当てて笑う。
少しでも元気になったならなにより。それに笑うとより美人だ。
だが、これは俺の物語ではない。だから、
「あと、すっごくいい匂いがしました!」
茶化す! ゴメスは茶化す! それがゴメスイズム!
さっきの数倍目を見開いたヒナが顔を真っ赤にして両手で頬を挟む。
「ゴメスさん! そういう事を言ってはいけません! め、です!」
セクハラ万歳だこのやろー!
これで俺とは距離を取りながらもヒナの元気も出て、一石二鳥。俺、天才では!?
「ちょっと、ゴメス! アアアアアアアンタ! アタシだけじゃなくてヒナにもそんな事いって! スケベ! スケベつるつる頭! アタシだって、優しい回復魔法くらいすぐ使えるようになるんだから!」
うん、嘘。俺なんて所詮ゴメス。ゴメスの浅知恵でした。
キアラが目を吊り上げてこっちに来る。っていうか、そんなとこに対抗心燃やさないでくれるかなあ!
なんだ自分以外が褒められると対抗心燃やすタイプか!? 燃やすタイプだなー! キアラは!
「ま、待て! キアラ! そういう問題じゃないだろ!」
「じゃあ、どういう問題よ! このすけべツルツル!」
すけべツルツル!? ←New! だな、このやろー!
「あらあら、キアラ、ムキになって」
「なってないもん!」
ヒナ、楽しそうに煽らないで! キアラ乗っからないで!
言い合いしないで! ゴメスの為に争わないでー!
これ以上、ややこしい状況にしないでくれ! もう少し待ってたら幽霊屋敷の魔物が襲い掛かってくるんだから! おい! もう早く来いよ! ちょっと前倒しでもいいよ!
「トレス、敵だよ!」
はい、キタァアアアアア!
流石原作の強制力、キアラが発見したはずの魔物、それをシロが発見して物語を修正している!
なら、俺がやるべきことはこれだ!
「なあああああああああああああ!? アレは、ヘルゴースト!? ゴーストタイプの最上級モンスターじゃねえか! 俺じゃ一匹倒すことも難しい強力なモンスターがなんでこんなところに!」
原作に忠実な台詞回し! 練習通り完璧だ! ゴメスは原作に忠実です!
「ああ! ゴーストがトレスのところに! ……そして、なぜか俺達のところにも!」
なのに、ゴースト如きが原作壊すんじゃねえよぉおおお!
なんでだ、キアラとヒナがこっちにいるせいで魔力にでも反応したのか!?
「お、おい! ヒナ、キアラ、逃げろ!」
「ゴメス! ちょっと今ヒナと話してるから静かにして! 〈メガファイア〉!」
ぼぼぼぼぼぼぼぼおおんん!
ぼぼぼぼぼぼぼぼおおんん!
「なああああああああああああああ!? 一撃でヘルゴーストを!? トレスすげぇえええええええ! そして、キアラ、すげええええええ!」
……って、違うんですけど!? キアラとトレスがそれぞれメガファイアで倒すなんて原作にないんですけど!?
ここ、トレスの、謎のスキルアップでコピーしたものを拡大強化出来るようになってキアラの〈ファイア〉を拡大強化コピーした〈コピー・メガファイア〉の出番だけのはずだったんですけど!?
キアラ、メガファイアを努力で覚えたのか……? マジですげえ。
俺が驚愕の表情でキアラを見ると、キアラはなぜか俺の方を見ていた。
そして、時間差でふふんと鼻を鳴らして自慢げに笑う。
「そうでしょそうでしょ! アタシは凄いのよ! も、もっと褒めていいのよ?」
嬉しそうなキアラ、かわいい。だが、手放しでキアラだけを褒めたらマズい。
あっちでもトレスが〈コピー・メガファイア〉で倒しているんだから、ゴメスはそっちも褒めないと!
「ああ、確かにキアラすげえ! そして、同じレベルの魔法をぶちかましたトレスもすげええ!」
俺はトレスAGEの男! しかも、キアラが努力で覚えた魔法をコピーしたんだ!
ちょっと腹立つがすげえのはすげえ!
「やれやれ……そんなに強いモンスターじゃなかったよ。だって、オレの外れスキルで倒せたくらいだし、ゴメスは大げさだなあ」
おぃ、主人公……。原作に忠実やりすぎてんじゃねえよぉ……。
そんなこと言ったら、キアラの努力馬鹿にしてるみたいじゃぁん。
もうちょっと周りの空気読んで原作改変しろよぉ……。
あと、やれやれため息やめろ。
「……………」
ほら、キアラちゃん、めちゃくちゃ不服そうな顔じゃん!
キアラ、背中に阿修羅背負ってんのかい!
もうみんな原作と仲良くしてぇえええ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます