第3話 その作品、俺TUEEE!
『外れスキル〈コピー〉で無能扱いされ追放された俺、実は最強のスキルの持ち主らしいんですが、いやいやそんなはずないだろ?』
これは俺が前世で読んでいた作品であり、現ゴメスがいる世界が舞台の物語。
通称、はずコピ。
貴族だった少年が、スキルの儀式で〈コピー〉という前代未聞のスキルだったせいで、実家から追放され前パーティーからも追放されるんだけど、実はその〈コピー〉が凄すぎて俺TUEEEしちゃう話だ。
まあ、そのスキルがヤバすぎるったらもう。
「お、お前、トレス! 今、何をした!?」
黒竜を倒したトレスをかっぴろげた目で見ながら鼻水垂らして質問する。それが、俺、ゴメス。
「何をって、ただの外れスキルだよ。〈コピー〉で、黒竜のブレスをコピー、相殺して、その後に〈サンダ〉のコピーをぶつけただけだけど?」
「いや、お前SUGEEE!」
まず、このスキル、なんでもコピーできるのがヤバすぎる。
物は勿論コピーできるのは勿論だが、生物も出来る。確か、後半はヒロインハーレムで平等に愛する為にとかいって、自分をコピーしていた。それに、この作品のポイントとなる魔法のコピーだ。一度記憶すればなんでもコピーできるのだ。
「そういや、さっき魔法を無詠唱で撃ってなかったか?」
「ああ、なんか俺の外れスキルでコピーした魔法って無詠唱で発動できるんだ」
「お前SUGEEE!」
コピーしたものは一瞬で生み出せるというチートを活かし、無詠唱で放てちゃう。
「それになんだよあの数とあの〈サンダ〉とは思えない威力は」
「ああ、俺、魔力が無限なんだけど、え? みんな無限じゃないのか? 威力がすごいって……すごい弱いって意味か?」
「お前SUGEEE!」
そして、何故か主人公は魔力がすごくあって、いくらでもコピースキルが使える上に、すごい魔力のおかげでコピーした魔法がすごくなる。とにかくすごいのだ。
何言ってるか分からねーと思うがありのままに話している。
俺もよく分かってねー。イッツご都合。
前世の俺は深く疑問に思う事もなくそういうもんだと思って読んでいた。
『なーんかまあ理由はよくわかんないけどすごいんだなー』と。
そんな事考えるよりぼかーんどかーんとなんか倒していく様子が爽快でたのしー! という感じが社畜で脳が死んでいた俺には必要だったのだ。
こっちの世界に来てもそれについて俺は、考えることをやめた。
だって、そういうもんだから。
そうなっちゃってるものは仕方ない。
そもそも俺はゴメスであり、神のルールを壊すとか物理を無視するとか世界の法則を変えるなんてことが出来ちゃう主人公ではないのだ。
『魔力無限!? SUGEEE!』
『コピーされた魔法なのに威力はケタ違い!? SUGEEE!』
『世界をコピーしたああ!? SUGEEE!』
ただただ凄さを褒め称える事を神(もしくは、作者)から使命として与えられたのが俺、ゴメスなのだ。
ちなみに、一度だけ、物語を歪めて無自覚系主人公であるトレスに凄さを伝えようとしたことはある。その結果、
「いや、お前本当にSUGEEE!」
「いやいや、俺なんて大したことないよ」
「いやいや、お前SUGEEEんだって!」
「いやいやいや、すげえ弱いって意味だよな?」
「いやいやいや、お前SUGEEEんだって!!」
「いやいやいやいや、俺が外れスキルだから励ましてくれているのか? ありがとう」
「いやいやいやいや、外れスキルじゃなくて本当にお前SUGEEEんだって!」
「いやいやいやいやいや」
「いやいやいやいやいや!」
「いやいやいやいやいやいや、自分の事は自分が一番よくわかってるって」
「いやいやいやいやいやいや、SUGEEE分かってねえって」
「いやいやいやいやいやいやいや」
「いやいやいやいやいやいやいや!」
「え? なんだって?」
SUGEEE怖かった。
もう頑なに分かってくれなかった。
あれは神の強制力か何かなのかもしれない。絶対に自覚させないという大いなる意思。
それに周りも褒める癖に、
『トレスすごいわね!』
『え? すごい弱いってことだよな』
『なんでよ!』
(オレのスキルなんて外れスキルだからすごい強いはずなんてないんだけどなあ)
『………』
SUGEEE怖かった。
なんかトレスが一人考えに耽ると秒で諦める周りの人間。
あんだけあった熱量何処!?
なので、これは神のご都合だ。
馬鹿は余計な事考えなくていい。
だから、俺は諦めた。
それに、俺は不思議といやな気持ではなかった。
ゴメスは人の良いおじさんでヘイトは少ないキャラ、『はずコピのヤム●ャ』と呼ばれ解説キャラで愛されている。それに、はずコピの主人公トレス君はさっきみたいに都合悪い事は聞こえないし、優しいと評価される割にはめっちゃ失礼だし、『んんん?』と感じることはあったが、とにかくとにかくとにかくヒロイン達がかわいいのだ!
勿論、ちょっとスケベで毎回女湯突撃撃退され役ゴメスになびくことはないが、それでもかわいい女の子たちを見ることが出来るのは眼福。
今も、黒竜を撃退したトレスの下に走ってくる三人の美少女達は俺など見えていないかのように通り過ぎていく。とってもいい匂いがしました!
「ちょっとトレス! アンタ、また一人で無茶して! 心配するこっちの身にもなりなさいよ! って、ち、ちがう! し、心配なんてアタシ全然してないんだからね! な、なに笑ってるのよ、ヒナ!」
「うふふ~、キアラったら、照れちゃってかわいいですね~。トレスさん、貴方は私達の希望の星勇者なんですから、怪我一つもしちゃダメですよ。お姉さんに見せてください。さあ、服を脱いで~。さあ、シロも手伝って」
「はいはーい、ボクにおまかせーって、いひ! なあに、勇者様が顔を赤くしてんのさ! トレス!」
「や、やめてくれー。俺なんて大したことないんだって、勇者じゃないって何度言ったら分かってくれるんだよー。た、たすけてくれー、ゴメスー」
いや、お前のスキルなら絶対助けんでええやろ。
そんな言葉を飲み込み、3人、いや、これから4人になるんだけど、かわいいヒロイン達に迫られるモテ男に嫉妬し主人公のモテっぷりをAGEする男、それがゴメスだった。
全然、悔しくなんてないですよ、全然……。
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