闘え、駐在さん! 悪人同盟編

ハジノトモジ

第1話 六人の殺し屋

 暗闇の中でこそ光は輝く――。




 烈日。無慈悲な陽光が降り注ぎ、無情な風が吹きすさぶ。

 ごつごつとした岩はあたかも、この荒野に倒れていった者たちの墓標のようだ。

 果てしない荒野。果てしない道のり。


 その男は、荒野を越えて、やって来た。


 精悍な男である。薄いブルーのシャツに濃紺色のスラックスという制服に身を包み、濃紺色の制帽をかぶっている。制帽には太陽のエンブレムが金色に輝き、腰にはガンベルト、右に拳銃、左に警棒を吊っている。

 その目はただ前だけを見据え、決して歩みを止めようとしない。

 彼は自転車を押しながら歩いている。

 銀色の光を放つその自転車は、荒野の悪路を行くにはお荷物とさえ思われるかもしれないが、しかし、その内側にすさまじい力を秘めている――その持ち主と同様に。

 ジュンサー・小林ジャンゴは、今日も一人、自転車を押しながら荒野を歩いていた。

 それは、新世界警察機構の戦闘員である彼らジュンサーの間で、『パトロール』と呼ばれる過酷な旅の一幕だった。

 今日もどこかで、誰かが悪によってしいたげられている。

 ジュンサーはそれを決して許しはしない。

 ふと、ジュンサーは足を止めた。自転車の車輪が回る音が止まり、あとには吹きすさぶ風音だけが残される。

 無人の荒野。

 だが、ジュンサーはひとつため息をつくと、誰もいない荒野に向かってこう言った。

「隠れているのはわかっている。そろそろ出て来たらどうだ?」

 返事はない。荒野の風が吹きすさぶばかり……。

 だが、しかし、

「くっくっくっ……よくぞ見破った、小林ジャンゴ」

 ジュンサーの前方、人の背丈ほどある岩の陰から声が聞こえた。

 そいつがゆっくりと姿を現す。帽子をかぶりトレンチコートを着た怪しい男が、ジュンサー・小林ジャンゴの前に立ちはだかった。

「さすがはジュンサーといったところか。完全に気配を絶っていたつもりだったのだが……おい、兄弟! 隠れんぼは終わりだ! みんな出て来い!」

 その声に呼応して、五つの岩の陰から、五人の男が現れた。どいつもそろいの帽子をかぶり、そろいのトレンチコートを着ている。全員が同じ背丈、同じ顔つきをしている。六人はジュンサーを包囲するように立っていた。

 最初の男が名乗る。

「悪人同盟所属、怪人番号五番、アサシン・太郎!」

 二人目の男が名乗る。

「悪人同盟所属、怪人番号六番、アサシン・次郎!」

 三人目の男が名乗る。

「悪人同盟所属、怪人番号七番、アサシン・三郎!」

 四人目が名乗る。

「悪人同盟所属、怪人番号八番、アサシン・四郎!」

 五人目が名乗る。

「悪人同盟所属、怪人番号九番、アサシン・五郎!」

 六人目が名乗る。

「悪人同盟所属、怪人番号十番、アサシン・六郎!」

 アサシン太郎がニヤリと笑う。

「シックス・アサシン・ブラザーズとは俺たちのことだ」

 アサシン太郎は、冷たく無感情な目をしたジュンサーを見据えながら続けた。

「お前はやりすぎたんだ、小林ジャンゴ」

 殺し屋の兄弟たちがゆっくりと動き出す。

「今までに何人殺してきた?」

 ジュンサーを中心に輪を描くように動いている。

「この世界を悪で覆い尽くすという、われらが首領の野望にとって、貴様は邪魔というわけだ」

 話しながら、殺し屋たちの足運びがしだいに速くなる。段々と速くなり、いまや全速力で駆けている。

「死んでもらうぞ、小林ジャンゴ。われら六兄弟のシックス・アサシン・トルネードを受けてみよ」

 隙をうかがうようにして、六対の目を殺気でギラつかせながら、六人のトレンチコートの殺し屋たちがぐるぐると動いている。殺意の渦――その中心にはジュンサーがいた。自転車を支えながら。

 その場の緊張が頂点まで高まったとき、ガチャリ! ジュンサーは自転車のスタンドを立てた。

 あるいはそれが合図となったのか、六人の殺し屋が六方向から一斉に襲いかかった。

「死ねえええっ! ジュンサー、小林ジャンゴ!」

 そして――



「破砕拳銃ローリング・サンダー!」

 荒野の晴天に六発の銃声が響き渡った。

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