アイリスの教育①
再婚以降より一層私を無視するようになった父に、首を傾げる。
『まさか、さっきの会話を聞かれていた……?』と危機感を抱く中、彼は手に持った書類を投げつけてきた。
「アイリスの家庭教師はもういい」
「えっ?」
「あの子はどうせ、我が家から出ないんだ。必要ない」
『その分、優秀な婿を見つければいい』と主張し、父は家庭教師を全員解雇する旨の書類に目をやる。
そこにはしっかり当主の押印がされており、覆すことは不可能だった。
決定事項って訳ね。アイリスがお父様に泣きついたのかしら?
もう勉強はやりたくないって。
「……それでも、テーブルマナーとダンスくらいは教えるべきかと思いますが」
家庭教師から上がる報告に全て目を通しているため、アイリスの教養の具合は知っている。
だからこそ、今ここで勉強を中止させるのは危険だと判断した。
婿となった男性に全ての仕事を丸投げ出来たとしても、貴族である以上最低限の教養は必要になる。
今のレベルでは、社交界の笑い者にしかならない。
『それは本人も嫌だろう』と思案していると、勢いよく胸ぐらを掴まれた。
「この私に意見するか?お前はつくつぐ、気に食わないやつだ。忌まわしいシエラにそっくりだな」
汚物でも見るかのような目でこちらを見下ろし、父は苛立ちを露わにする。
周囲の使用人が、慌てて止めに入ろうとするものの……
「お前達の主は私だ!私に逆らうつもりか!」
と、怒号を上げた。
珍しく感情的になる父の前で、使用人達は萎縮してしまう。
それでも何とか助けようと勇気を振り絞る彼らに、私は小さく首を横に振った。
『さっき、言ったことを思い出して』と言うように。
私は大丈夫だから……気にしないで。
半分自分に言い聞かせるようにして『大丈夫』と繰り返し、私は平静を保つ。
「出過ぎた真似をしました。申し訳ございません。お父様の意見に従います」
『自分が間違っていた』と主張すれば、父はゆっくりと手を離した。
大きく息を吐いて落ち着き、いつものように冷めた目でこちらを見下ろす。
「分かればいい」
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