再婚③

「私なら、大丈夫よ。だから、無茶はしないで。私にとって、貴方達は家族同然なんだから。お父様達の機嫌を損ねて何かあったらと思うと、胸が張り裂けそうだわ」


 使用人達の手を順番に握り、私は『落ち着いて』と宥める。

母だけでなく、彼らまで失ったら……私は本当に壊れてしまうから。

これまで父達の行いに耐えて来れたのは、偏に使用人達のおかげ。

再婚に最後まで反発して、私を守ってくれた彼らが居なければ、自分の人生に絶望していたかもしれない。

『あと、ヴィンセントも味方になってくれたし』と頬を緩めていると、彼らはちょっと涙ぐむ。


「お、お嬢様……私達のことをそんな風に……」


「嬉しいです……!一生、お嬢様について行きます!」


「私も……!」


「ふふふっ。ありがとう。あと────」


 そこで一度言葉を切ると、私は少しばかり声のトーンを落とす。


「────お継母様とアイリスのことは、ちゃんと『奥様』『お嬢様』って呼ばないとダメよ。お父様に聞かれたら、大目玉だわ」


 恐らく、使用人達は最後の意地として呼び方を変えているのだろう。

『公爵家の一員とは認めない』という意思表示のために。

でも、ちょっとあからさま過ぎた。

まあ、当の本人達は気づいていないようだが。

一応、敬称で呼ばれているからだろうか?


「お願いよ、皆。私のためを思うなら、ずっと傍に居て。追い出されるような真似はしないで」


「お嬢様……」


「お継母様とアイリスの存在をなかなか受け入れないのは、分かる。貴方達は私のお母様のことを凄く慕っていたからね。でも、そこは何とか割り切ってほしいの」


 難しいことなのは百も承知で頼み込むと、使用人達は顔を見合わせた。

そして、誰からともなく頷き合う。


「分かりました。言われた通りにします」


「お嬢様のことを思うあまり、暴走してしまったようです。申し訳ございません」


「これからは仕事とプライベートを分けて、考えますね」


「私達だって、セシリアお嬢様の傍にずっと居たいので」


 『不平不満は一旦呑み込む』と宣言した彼らに、私は柔らかな笑みを浮かべた。


「ありがとう。大好きよ、皆」


 『貴方達が居てくれて良かった』と本音を漏らすと、彼らは照れたように頬を赤くする。

────と、ここでノックもなく扉を開け放たれた。


「お前達、一体何をしているんだ?さっさと仕事しろ」


 『油を売っている場合か』と文句を言い、中へ入ってきたのは父だった。

慌てて頭を下げる使用人達の前で、彼は真っ直ぐこちらへ向かってくる。


 お父様が私の部屋を訪れるなんて、珍しいわね。

普段は絶対、近寄らないのに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る