寄り道
@tsumugi289
陰心 前編
鞭を取り、蛇のように鋭い目で監視する人間。粗末な服を着せられ人間の奴隷として過酷に労働させられる私達、
人間という種族は、私達心恵人が静かに暮らしていたところに突如として現れ、明確な敵意をもち私達を征服し、ちょっとした体の構造の違いというだけでまるで出来損ないを扱うように差別する。
私達はただ静かに暮らしていただけだった。誰も傷つけたことなどなかった。なのに、人間は明らかな敵意を持っていた。それは、私達の存在が憎いからなのだろうか。それとも、ただそこに邪魔な存在がいたから支配しただけなのだろうか。いずれにせよ…
「起きろ。長く寝ている暇などない。ただでさえ力が弱い腰抜けだ。生きているだけありがたいと思え。」
「…はい」
私は目を覚ました。自己紹介をしたいけど、なんでか名前は思い出せない。もともと、なかったのかもしれないけど。
私は、ここに来る前は人間と必死に戦っていた、そんな記憶がある。でも、鮮明には思い出せない。かすかな記憶として残っている仲間の記憶、シルエットは出ても姿はわからない、霧にまかれたように、思い出すことができない。
起きたら私はここにいた。心恵人を無差別に集めてここに収容し、過酷に労働させるそんな場所。力の弱い女の子や子供はすぐに殺されちゃうけど、私は何ヵ月も生き残っている。
だからといって余裕がある訳じゃない。出てくるごはんは少ないし、綺麗な場所って訳じゃない。流石に上半身まで隠してくれる服は用意されてるみたいだけど、そろそろ壊れそう。正直、生と死の境を彷徨っている。
重荷を運び、石を積み、鉱石を掘り、工場で働かされ。毎日様々な仕事を十数時間こなす。正直、今にでもやめたいし、死ねたら楽なのはわかってる。反抗したらすぐに殺されるから、そうすれば無理にでも死ねるけど、何故か体は生きようとする。自分は絶対に生きるんだという意思があるかのように。死のうとしても体が動かない。…何をやっても無駄だったから、仕方なく働いているけど、心身ともにボロボロで、体が死のうとしないせいでずっと生きないといけないっていう精神的にかなり最悪な状況にある。
でも、しっかり働かないと叩かれどなられ、もっとつらくなるのはわかっている。今日も、たった数時間の寝る時間をモチベに頑張らないといけない。
「今日の仕事は貨物の運搬だ。木箱を全てここまで運んでこい。」
「…はい」
疲労でまともに動かない足をなんとか動かし、木箱のところまでたどり着く。目の前にあるのは大量の木箱。今回は4人仲間がいるから、寝る時間は確保できるかな…?
「動かないと、鞭で叩かれるぞ。家に帰れる日が来るまで、なんとか生きるんだ…」
「…はい」
ぼーっとしちゃってたみたいで、仲間の一人が私にそう言った。
…運ばなきゃ、全部。そうじゃなきゃ、帰れる希望すら消え失せる。おうちがどこかすらわからないけれど、でもいつか…かえるおうちはあると信じて頑張る。
数時間木箱を運んで往復していると、当然疲れてくる。でもまだお昼も遠いから、休憩はまだまだ先かな…そう思っていたとき、突然体の制御が効かなくなり、世界が反転した。
…転んだ。でも、よくあることだ。だって、ここは道が整備されていなくて足場が悪い。毎日誰かが転んでいるのを見るくらいだ。さっさと仕事に戻らないと、また怒られる。痛いのは流石にもういやだ。
だけど、体が動かない。倒れたまま動かない。それどころか、どんどん意識が遠のいていく。体はますます言うことを聞かなくなる。
…死ぬ、殺される。頑張ってきたのに、耐えてきたのに、ここで終わる。なんとか立ち上がりたくても、意識を保つことができない。だめだ、ここで私は…終わりなんだ…
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