貧乏でも美味い飯

深川我無

第1皿 鹿肉のステーキ


 大皿の上には、重量感溢れる肉塊が、確かな存在感を放っている。


 ああ…

 肉だ…


 私はその香りを鼻腔いっぱいに吸い込み、思わず大きな溜息を付いた。


 散らかった部屋が高級フレンチ店の綺羅びやか内装へと姿を変え、切れかかった電球は薄暗く落ち着きのある明かりへと変貌を遂げる。


 腿肉の塊に均等に入れられた切れ目はフライパンの上で豊かに花開き、野生肉には禁忌であるを防いでくれている。


 本来、鹿肉ならばレアでもいいだろう。


 だが、今日は違う。


 思う存分肉を味わいたいのだ。


 それならばミディアム以上に仕上げたステーキを、惜しげもなく頬張るのが、真の紳士の取るべき態度といえる。


 私は再び大皿へと視線を落とした。


 素晴らしい…


 つい先ほど畑で取ってきた田舎では全く売れないカーリーノケールが、ここでは舞い踊っているではないか?


 それだけではない。


 蒸し上げた秋じゃがを生クリームでペースト状になるまで潰したマッシュポテトの、クリーミーで芳醇な香りのなんたるや…!


 そして特筆すべきは、フレンチレストランでは絶対に再現不可能な禁断のライス…


 肉汁とソースが絡んだライス…!!


 ああ…メルヴェイユ素晴らしい…!!



 私はそう言って天を仰ぐと、分厚い肉にナイフを入れた。


 確かな手応えを感じながら、切り進むと、肉の断面は美しい桜色を覗かせる。


 思わず笑みがこぼれるが、ここで焦ってはならない…


 まずはソース。


 バルサミコと隠し味の醤油。


 そして大量のガーリックと香辛料がオリーブオイルと肉汁に完璧な調和ハーモニーを産み出しているソース!!


 これを絡める。


 まだだ…


 まだ焦るな…!!


 フォークの背があるではないか!?


 フォークの背は何のためにある!?


 そう。


 マッシュポテトを乗せるためにある…!!


 私はナイフですくい取ったマッシュポテトをフォークの背に乗せると、大ぶりに切った鹿のステーキにかぶりついた。



 ファンタァっすティっっく…(´;ω;`)


 さあ。野郎ども。


 包丁を取れ…!!


 まな板を忘れるな!!


 心に火を灯せ…!!




 それが火加減だ。


コレが貧乏人の鹿肉のステーキだ!!


↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓


https://kakuyomu.jp/users/mumusha/news/ 16818023212565462808


↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る