視力0.01の転生重弩使い 『なんも見えんけど多分味方じゃないからヨシッ!』

ふつうのにーちゃん

プロローグ 重弩使いの少年

・カマのみぞ知る世界 - 国税庁さん、コイツです -

 初めに神はこうおっしゃられた。


「あらヤダッ、お兄さんいらっしゃぁぁーぃ♪ さ、座って? お酒はお好き? 水割りでいいわよね? もーやだわぁー、こんなに早く逝ってくれるなんてアタシ思わなかったものぉー!」


 その神は大変恰幅がよろしく、雄々しい青髭の下に、きらびやかな振り袖を召されていた。


「ヤダ嬉しぃー、アタシずぅっとアアタを待ってたのよぉーっ!」


 俺の倍はある太い腕がアイスピックを掴み、暴力的に氷を砕く。

 またたく間に神はウィスキーの水割りをカウンター席にお出ししてくれた。


「え……おっさん、誰?」


 ただ、その存在は到底神になど見えなかった。


「やっだぁっ♪ アアタ……次それ言ったら、地獄までサッカーボールにして、ぶち転がすわよ……」


 ときに神がドスの利いた声をお出しするとも、この時の俺は知らなかった。


「アタシはね……アタシはなーんとっ、神様なのよぉぉーっっ!!」

「はあ、そうなんですね」


 何このおっさん、なんかヤバい……。

 それが神への第一印象だった。


「ところでここは……」

「うちの店よ。開店前で散らかってるけど、気にしないでんねぇーっ」


 辺りを見回すと、そこは田舎風の寂れたスナックのように見えた。

 カウンター席越しのおっさんの背後にはネオン式の看板が飾られていて、そこには『Wrlrus』と記されている。


「ああそれ? うちの店のお名前よ。日本語で、セイウチって意味なのー♪ キャワイイでしょっ?」

「え……ああ……強そうでいいと思う」


「よく言われるわぁーっ、オホホホッッ!!」


 しかし、この状況はなんなんだ……?

 なぜ俺はこんなところで、自称神の変なオカマさんに、酒なんて飲まされているのだろう。


 なんだか記憶があやふやだ。

 俺はいつどうやってここに来て、それ以前は、どこで何をしていたのだろう……。


 後者の疑問の答えは、ほどなくして己の記憶が答えてくれた。


 ああ……俺は、あの時――


「そう。死んだのよ、アアタ」


 死んだ……?

 俺が……?

 なら、ここは……。


 天国にはとても見えないな。地獄か?

 オカマバーは地獄か?

 まあどっちかというと、地獄寄りの何かだよな?


「何で俺、死んだのにオカマの姐さんに酒飲まされてるんだ?」

「それはね、アアタがお客様だからよ」


「状況が全くわからない……。本当にアンタ神様なのか……?」

「だからそう言ってるじゃなーい!? アアタだって、自分が死んだのはわかってるんでしょう!?」


「まあ……」

「なら神が出てきても別に変じゃないじゃなーい!?」


「初対面の人間にこう言うのもどうかと思うが……。1番変なのは、アンタじゃ……」

「オホホホホホッ、あらヤダ言うわねぇっ!」


「なんなんだこの人……」


 記憶によると俺の間接的な死因は長風呂だった。

 それでのぼせて、洗い場で石鹸に足を滑らせて、風呂釜に後頭部をぶつけた。


 全体重がかかったクリティカルヒットだった。


「思い出した?」

「ああ……」


「アアタはそのまま死んじゃったの」

「なんてマヌケな死に方をしたんだ、俺は……」


 享年23歳。

 大学を卒業して地元スーパーに就職し、パートのお局様に振り回される人生だった。

 俺はこの先、どうなってしまうのだろう……。


「オホホホッ、もう笑っちゃったわよぉーっ、こっちわぁーっ!」

「はぁっ?!」


 オカマさん特有の包容力で、やさしく慰めてもらえるかと少し期待していた。

 しかしその神は、巨大なセイウチのごとくカウンター席をバンバン叩いて大爆笑しやがった!


「アタシ死ぬとこ見てたの! 笑いが止まらなくて大変だったわぁっ!」

「おいっ、趣味悪過ぎだろアンタッ!? こっちは死んだんだぞ、少しは哀れめよっ!?」


「だってだってっ、いきなり死ぬなんて面白過ぎるじゃなぁいっ!? 普通あそこで死ぬなんて、誰も思わないものぉーっ!」

「俺の人生はシュールギャグじゃねーよーっ!!」


 あの時、トンカチで叩き付けられるような痛みが意識を失うまで続いた。

 あれでは生きているはずがない。

 もし生きていても、死んでいた方がマシな状態だろう。


「うふふっ、そんなゴミを見るような目でアタシを見ないで……? 神よ? 神ちゃんよ、アタシ?」

「人の死を笑うヤツを蔑むなと言われても、そりゃ相手が神でも無理だ」


「ごめんなさいね、うふふ」


 神様は素直に謝って下さった。

 本当にこの人は神様なのだろうか……。

 銀座五丁目の神様とか、そういう比喩的な表現であってほしい……。


「……ああ、それでね、死に方が面白かったから、特別にこの中から転生特典を選ばせてあげるわ。芸術点っ、満点だったわよっ!」


 そう言うと神は、カウンター席に3つのカクテルを生み出した。

 色は赤、青、緑。合成着色料を彷彿とさせるどぎつい色だ。


 コレが神とは限らないとせよ、カマの御手には無から酒を生み出す力があった。


 国税庁さん、コイツです。

 密造の現場を今、確かに見ました。

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