・カマのみぞ知る世界 - ジゴロ or 学者 or 重弩使い -

「この赤ぁいお酒は【ジゴロ】の才能。これを飲めばぁ……来世で女の子にモッテモテッ!」

「モテモテ……? へぇっ、それはいいな……っ」


 というか、来世?

 来世って普通にあるものなんだな……。


 そしてモテモテの人生か……。

 最高じゃないか。

 男であろうと女であろうと、これに惹かれないやつはいない。


 希望あるモテモテの来世!

 ここは騙されたと思って、ありがたくこの才能を飲み干そう!


「あら……っ。でもアアタがこれを飲むと……あっ、あらぁぁぁぁ……?」

「え、なんだよ、急に……?」


「これ……最期は、12人の女性と1人のオカマに四肢を刺されて、その後生きたまま追い剥ぎに服を脱がされて死ぬようねぇ……」


 嫌じゃ。

 そんな惨めな死に方は絶対に嫌じゃ。

 俺は考えをあらためた。


「なら別ので」

「そぅ……? こっちの青いお酒は【学者】の才能よ」


「おお……」


 学生時代はそれなりに賢いつもりでいたけど、世間には俺より遙かに頭のいいやつらでいっぱいだった。

 何より【学者】の才能があれば、就職活動に悩まないで済みそうだ!


「これを飲んだアアタは、学閥の頂点に君臨するようね」

「出世間違いなしの人生かっ!」


「そうね。そしてアアタは、探求の果てに世界の真理を我が物に――あ、あらぁっ?」


 ところが神は青いカクテルをのぞき込んだまま、太い首を傾げた。


「いや、今度はなんだよ……」

「最期は拷問死になるみたいだけど、まっ、100過ぎまで生きるみたいだしっ、別にいいわよねぇー?」


「はぁっっ?!」

「これにしましょ、他のはかたしておくわ。世界の真理、波瀾万丈の人生、そして惨死……いいわねぇっ、ンドラマチックッッ!!」


「いやよくねーよっっ?! 俺の人生にドラマとかいらねーよっ!?」


 俺がそう叫ぶと神はケタケタと笑った。

 さっきから冗談で言っているようには聞こえないところが、怖かった……。


「大丈夫よぉーっ! 100歳になったら、自分の手で死ねばいいだけのことじゃなーい?」

「正気で出来るかんなことっ!! そいつもチェンジで!!」


「そぉおー? 後はこの緑の、つまんない【重弩使い】の才能しかわよぉー?」

「重弩……? ヘビーボウガンか?」


「止めときなさい。どこかで見たような無双展開が続くだけの凡庸な人生よ。上り調子の毎日がずぅぅーーっと続くだけ……」


 え、それいいじゃん。

 転落知らずの成功人生とか最高じゃん。


「最期は家族に見守られながら、老衰なんかで死ぬのもよくないわ」


 いやそれ、人生におけるベストエンドだろ。


「これなら拷問の果ての惨殺の方がマシねぇ……。人の最期は無惨でおぞましくあるべきよ。生きたい、生きたいという命の叫びがたまらないの……っっ」


 何、言ってんだ、コイツ……?

 感性の根本的な違いに薄ら寒いものを感じながら、俺は一番良い才能をもたらす緑のグラスを取った。


「ふんぬっっ!」

「あっ、こらっ!?」


 すると神の全てを包み込む太い腕が、俺の手首をガッチリとロックした。

 こいつ、神は神でも、悪神だろ……。


「アタシ、赤の人生がいいと思うわぁ……。女をキャンキャン泣かせてきてちょうだいっ!」

「お前が見たいだけだろこのド腐れ神がっっ!!」


「えぇぇ……? でもでもぉ、アアタたちだってぇー、映画やゲームの世界でぇ、登場人物たちに同じようなことさせてるじゃなぁーぃ……」

「山中鹿之助じゃあるまいし、好き好んで七難八苦を選ぶバカがいるわけねーだろ……っ」


「それが結構多いのよぉー? だ、か、ら……あっ、ああんっ!?」

「俺の人生に! 試練とかドラマとか! そういうのはいらねーからっ!!」


 俺は神に封印されし腕から緑の酒、【重弩使い】の才能を身を屈めてすすり飲んだ。

 すると――


「あら……っ? あ、あーー…………」

「いや、なんだよっ、今度はなんなんだよ、その反応っ!?」


 神はニッコリと微笑まれた。

 神様満足度ナンバーワンの気味が悪いほどにいい笑顔だった。


「いいわ。まあまあ面白そうだから、まあその人生でもいいんじゃないかしらぁっ! オホホッ、オホホホホッ!!」

「ちょっと待て、これから俺の来世で何が起きるんだよっ!?」


「大丈夫、楽しい人生よ。とぉぉーーっても……んふっ♪」

「嘘吐けっ、なんかあるやつだろ、そのこえー笑顔っ!」


「うふふ、うふ、うふふのふ……っ」


 ぜってーこれ、悪神だ。

 神様っていうか、悪魔様っていうか、これ、カマ様だ……!


 コイツは断じて神じゃねぇ!

 こんなの俺は神と認めねぇ!

 神様はもっと、人間にやさしくあるべきなんだよっ!


「それじゃ、生きてるうちはもう2度会うこともないだろうけど、がんばってらっしゃいねぇ!」

「いや思わせぶりなことばっか言ってねーで、ちゃんと説明し――!?」


 ここでおしまい。そうカマ様が手を振ると、まるでブレーカーが落ちたテレビ画面のように、俺の意識はそこで途絶えた。

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