032_ガラクと作業場所(その4)
パリスの叔父であるルッサに状況を話すと、現状を把握するためにも作業部屋に一緒に来てくれると提案してくれたため、急ぎ2人で作業部屋に向かうこととした。
部屋の前までくると店員と設置のための作業員と思われる者が3人で待ち構えており、ガラクとルッサの姿を確認するや否やこちらに向けて歩み寄りながら声をかけてきた。
「あ、お客様!お待ちしておりました」
話を聞くと清掃用ボットをふんだくった挙句、作業部屋も施錠してしまって中に入れない状況になってしまっているとのこと。
部屋の入り口前まで行って判明したがどうやらわざわざ解錠設定まで変更してガラクが中に入れないようにしていなくなったようだ。
「これは・・・普通に犯罪だね」
ルッサはそう呟くと頭を抱えてしまった。
「部局が違うのでは?」
そこからしばらく垂れ流された愚痴をようやくすると、あの人の自分勝手で意味不明な行動の尻拭いは今回だけではなく、何かあるたびに他部局にも火消し作業が回ってくることになり、ルッサさんの部局も都度迷惑を被っているとのこと。
「結局、最後はロードが尻拭いすることになるんだけどねぇ・・・」
今回はビッグマンとガラク個人しか関係者がいないためかなり事を収めやすいものの、ビッグマンと他の組織間のいざこざに発展するとかなり面倒なことになるらしい。
「どうにかするから訴えるとかしないでくれると助かるんだけどね。どうかな?」
今回の件についてガラクの購入した物品はもちろんガラクに所有権がある上に、「契約」により作業部屋に入れるのはガラクとビッグマンビルの所有者であるロードが許可した者のみでフアヌク氏に入室の権利が無いことから、訴えられると本人の瑕疵に加えてビッグマンビル側の管理責任が問われることになりかねないとのこと。
「ビッグマンを相手どって訴えを起こしても、ガラク君が裁判に勝てるかと言われると無理だなんだけど、お互いに面倒ごとが増えることに変わりはないからね」
この衛星はあくまで法を根幹として成り立っているためどんな市民も支配者層を相手どって裁判を起こすことはできる。
ただし、法を作るのは支配者層のため自分たちに都合の悪い方は整備しないし、裁判相手が支配者そうだとわかると大抵の弁護人が仕事を受けてくれないため、支配者層側に明確な瑕疵があるにも関わらず敗訴してしまうし、それは一般的には当たり前のこととして受け入れられている。
支配者層もそれを認識しているため基本的に高い倫理観を有した者が他の支配者層複数名の推薦を受けて法整備の職に就くことになる。
それ以外の要職につても同様となるため、基本的にフアヌク氏のようなタイプはいかに親の権力が強くてもそういった職に就くことはできない社会構造となっている。
そういった倫理観の高い支配者層がそうではない者の起こした問題をフォローすることで一般市民はことなきを得るわけだが、支配者層に太い伝手でもない場合は基本的に泣き寝入りすることとなる。
「とりあえず今回の件はロードに報告してガラク君に無駄になった時間も含めて、金銭的なものになるけど保証してもらうことになるから安心して」
一時的にはビッグマンがフアヌク氏が所属している組織が管理責任として保証金の支払いを行い、最終的には本人の給与や財産を差し押さえて今回の件の組織の損失を補填することになる。
そのため、フアヌク氏からの逆恨みによる嫌がらせの可能性を考えるとこのまま作業部屋を使用するのもお勧めできないので、代替の場所が見つかったら早々に拠点を移すことを勧められた。
ガラクとしてはようやく端末やソフトウェアが揃って素体の設計が始められそうなタイミングでこの事件だ。
現状、端末やソフトを購入することでようやく着手できる状態になったアイアンゴーレムの設計作業が先延ばしとなったことによって無駄になる時間は金銭よりもはるかに貴重なのが正直な心情だ。
しかし、自分の父親と言ってもおかしくないような年上の人が頭を下げてきていることを無碍にすることもできない上に、フアヌク氏の逆恨みなどに時間を取られるのも避けたいので頷く以外の選択肢がなかった。
部屋が使用できないのであればすでに搬入した物品類を運び出しをしたいと提案してすると、フアヌク氏の管理権限が強いためロードに話を通した上で上位権限者によってロックを解除しなければならないため、今日すぐに部屋を開放して中身を回収するのは無理なのだそうだ。
「部屋の資材類は部屋のロックが解除され次第まとめておくから、部屋に運び込んだもので無くなってるものがあれば言ってくれたまえ。最終的な金の出所はフアヌク氏になるから多少盛っても構わないよ」
結局、搬入が完了した後にゴーレム設計の方向性程度は決めてから帰宅しようと思っていたガラクだったが、今日の作業が不可能になくなってしまった。
端末とソフトがあれば自宅でも設計の作業は可能なので当面は自宅で進めれられる作業を行うとして、今日のところは終業時間にR/R社に顔を出して今後の作業場所の確保も含めてクロスタとパリスの2人に相談してみることにし、ルッサとは今後のやり取りをするための連絡先の交換をした上で別れてビッグマンビルを後にした。
今日の食後にやろうと思っていた予定が全て飛んでしまったため、午後いっぱい時間が余ってしまったガラクは、最近はヴィークルモドキでさっさと移動していたが、久しぶりにのんびりと考え事をしながら徒歩でR/R社に向かって歩き始めた。
道すがら、最初にロードが作業部屋について話していたことから想像するに、ビッグマンビル自体がかなり高いセキュリティを誇っている中、ガラクが借りた部屋はその中でも群を抜いて高いセキュリティ性能を誇っているものと思われる。
恐らく一般人が使用できるレベルとしては支配者層と伝手があってもそれだけ高いセキュリティの場所を確保するのは困難であることは想像に難くない。
しかし、今回の件によってそんなセキュリティーも身内に契約を無視してまで入り込もうという人間がいた場合にはガードが難しいことも判明した。
ガラクのやりたいことを実現するにあたり、多数の人が関わっている組織の建屋を借りるのは情報漏洩のリスクがそれだけ上がることを意味するため、あまり好ましくないとうい事実に気がつかされたいた。
今回のフアヌク氏に関する組織側の管理責任に関する賠償、とまでは言わながなんらかの手助けをお願いすることはできるのではないかと考えついた。
例えばであるが、ガラクの自宅からアクセスのいい範囲に空きビルか、空いている土地を入手する手伝いをしてもらえば、ガラクが自らセキュリティーの高い建物を所有するくらいの用心が必要なのかもしれない。
何せ当面の間どれだお金を使っても全く困らない程度の資産を現金で所持している上に、収納魔法に格納されてある資材も日々ガラクとパリスで会社に納品してしているが総量としてはほとんど目減りしていない。
今回の件で最も重要だと知ったセキュリティについては、タブレットでそれに見合った魔法をいくつか見繕えば対応可能なのではないかと思われる。
この場合、魔法陣作成のための時間を短縮するために作成するゴーレムの完成が先か、そのゴーレム作成のための場所確保が先か迷うところではある。
それから、以前、納税や福利厚生のための雑多な手続きなどの面倒を避けるためにはR/R社に従業員として所属していた方が都合が良いと判断していた。
ただ、今回のことを踏まえると、ガラクの個人経営の会社の立ち上げた上でビルなどを法人として購入し、税務などの手続きに詳しい従業員、それこそそれらの知識に関するチップの使用者か資格を持っている人を会社として一般的な給与に色をつけた額で雇用して、全て任せてしまった方がガラクがやりたい事に則しているのかもしれない。
取り止めもない考え事をしているうちに会社近くまで近づいたため、クロスタには魔力操作の後に別途相談事があるからよろしくねと連絡を入れた。
パリスの仕事が終わるのと、クロスタが学校を終えて合流する時間まで待つために、近くの販売機で3人分の飲料を購入してから従業員用の待機室に向かい、相談内容を纏めながら時間を潰すことにした。
終業時間になって続々と移動用のヴィークルが戻ってきたので、パリスの乗ったヴィークルを見つけたので近寄り、降りてきたパリスに話しかけた。
「お疲れ様。今日は仕事の手伝いをしてあげられなくてごめんね。今日はどうだった?」
パリスに向かって用意しておいた飲料を放り投げ、雑談がてらそう問いかけた。
「いつもより少ないっすけどどうにか集めたっす。兄貴の搬入は完了したっすか?」
「それなんだけどさ・・・」
先程までいたビッグマンでおこったことを簡単に説明した。
「だから、ちょっと今後のことについてクロスタにも相談したいって声かけてあるから、この後ちょっと家に集まってもらえないかなぁ。あ、食事はだすよ」
「時間は大丈夫っす。ビッグマンの件は申し訳ないっす。叔父にはちゃんとするように俺からも声かけとくっす」
責任感の強いパリスが自分の非と考えて謝ってくるが、今回のようなことは予想できるわけがない。
「パリスが悪いんじゃないから謝る必要はないから。ルッサさんもいいようにしてくれるって言ってるから、ひとまずそっちはパリスの叔父さんに任せておこう」
少なくともあの感じであれば、金銭的にはマイナスになることはないだろう。
パリスと話をしているとクロスタがすごいスピードで歩いて待機室に入ってきた。
「クロスタ、授業中に連絡しちゃってごめんね。来てくれてありがとう」
若干息を切らせているクロスタは平気を装いながら返事を返してきた。
「急に連絡なんかしてきて、用事がなかったからいいけど、予定が入ってたらどうするつもりだったの?」(声をかけてくれてありがとう。友達との約束があっても絶対に断ってくるから大丈夫よ。の意)
クロスタにも改めて今日の経緯を話した上で、先程とりまとめた相談内容をデータで2人に送り、それをもとに今後のことについて相談する。
① 今後の作業場所の確保について
・建屋を建築するための土地の購入
・中古の建屋をの購入
・建屋のセキュリティ(物理・情報)についてはロードに相談して専門の業者を紹介してもらう
② 新会社もしくは組織を設立について
・今回のことを踏まえて他の組織に作業場所を依存、または所属している場合に発生するセキュリティ的な問題を回避する観点から
・関係者は選定して絞る
・魔法に関しない雑多な事務をこなしてもらうための従業員を雇用
・新会社の業態について
③ その他
・①と②完了までの間の作業場所について
2人にデータを送った際に、ガラクの心情としては③がどうにかなればば①と②はそれほど急がなくても問題はないと考えている旨も申し添えることは忘れない。
「ここから先の話は自宅に帰ってからにしよう。クロスタは副社長に帰宅が少し遅くなるって伝えておいてね」
そういってから3人でヴィークルモドキに乗って自宅へ向かった。
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