030_ガラクとみんなでお買い物(当日、その3)
撮影機材の店舗から出て歩き出したあたりで、クロスタからよく行くスイーツのある喫茶店がこの界隈にあるから行かないかと提案を受け、昼食からそれなりに時間が経過して小腹も空いていたためガラクとスクラは諸手を上げて了解した。
パリスは若干気後れした様子だったため、ガラクから今日の食事代は自分持ちだから金銭的なことは気にしないように声をかけたものの、渋々とではあるが了承して件の店に向かった。
クロスタが慣れた様子で店舗に入っり、それに続いて入ろうとした残りの三人の入店を店員が塞いできた。
「失礼ですが御三方はこの店のお客様として相応しくないかと」
行くてを塞いだ人物を見上げると、身なりの良いお仕着せを着た大柄なウサギの獣相を持った男性の店員がこちらを睨みつけてきた。
どういうことなのか自体に追いつけていないガラクに対し、パリスがそっと
「兄貴、今着てる服っす」
と耳打ちをしてくる。
そう言われて自分の今の服装を見ると、いかにも労働者然とした少しよれたシャツと擦り切れたズボンを身にまとっており、パリスもおよそ似たようなもので、スクラの着ている外出用のスーツも頑丈な素材とはいえかなり使用感の溢れた装いとなっていた。
そのまま入店を阻害されなかったクロスタの服装に視線を移して見比べれ見て、確かに自分の服装はクロスタと比較するとかなり見窄らしいカッコをしていることに気がつく。
今までこういったエリアの店舗でお茶をするという経験をしたことのなかったガラクはそういうモノなのだろうと思い、すでに入店しているクロスタに行動の選択を任せる意味で視線を送った。
「そう。では私だけ入っても意味はないわね。テイクアウトするから人気のスイーツ4個と飲料をボトルで今すぐ用意して」
畏まりましたという声と共に商品が準備され、そのままクロスタに手渡される。
自分が会計をしするために進み出ようとしたガラクを手で止め、自ら会計を済ませたクロスタは店外に出てくると少ししょげた表情で3人に謝ってきた。
「ごめんなさい。そういうことまでは考えてなかったの。このスイーツは私からのお詫びだから、このままイートインまで行って食べましょ」
「自分ももう少し強く止めればよかったっす。申し訳ないっす」
別に2人が悪いわけではないのに謝ってくるため、買い物がうまく進んでいたのにあの店員に水を刺されたような気分になったが
「せっかく全員新しい服を買ったんだから、そこで着替えておけばよかったね」
などと少しおどけたように良いイートインのエリアに入って行った。
昼食時を過ぎているためか空いている席はすぐに見つかり、早速スイーツを頬張る4人は、さすがクロスタがお勧めするだけあって非常に美味だったことで嫌な気分も払拭され、スクラが耐熱の魔法を覚えておしゃれして外出できるようになったら今日買った服を着て4人であの店にリベンジしようというガラクの提案にみんなで頷き、スクラはそのためにも頑張ると気持ちを新たにしていた。
スイーツを食べている間に工具類の店舗から商品が揃ったのでいつでもお越しくださいとの連絡が来ていたため、スイーツとドリンクで一休みした4人はクロスタによる美味しいスーツ店情報にそんなにあったら一日じゃ回りきれないなどと雑談をしながらのんびり歩いて店舗に向かって歩き始めた。
店舗に到着し、入り口付近にいた店員に先ほど対応してくれたフロアリーダーのビーバーを呼んで貰うようお願いすると、声を掛けた店員が店内連絡用のインターフェイスで該当の店員を呼び出しを行うと、少し待つと店の奥から急いそとこちらに向かってきた。
「大変お待たせしました。こちらのお二方もお連れ様でしょうか?」
店員の問いかけに頷いて応じると、こちらの部屋になりますと案内をしながら、インターフェイスに向けて飲料を2名分追加と小さな声で指示するのが聞こえた。
商品が用意してある部屋に到着すると店員はクロスタに向かって話しかけてきた。
「本日は当店でお買い上げいただき誠にありがとうございます。これだけ工作機械類をお買い上げとなると何か事業でも立ち上げられるのでしょうか?」
ガラクとしては魔法の解析や研究、これから行うゴーレム作成に必要な什器類は自分たちに合わせて使えるものを選択しているとはいえ、それ自体が利益を生み出すわけではない上に、工作機械類は用途はあるもののビッグマンに対するダミーの意味合いも強いため事業と言われるとピンとこない部分があった。
とはいえ、今回購入した物品は一般的に扱われるものよりはるかに専門性の高い工作機械をまとめて購入しているため、それらを持って店側としてそのように判断したものと思われる。
まぁそうですねと曖昧に回答したガラクに対して店員は一瞬怪訝な顔をした後、今度はクロスタに対して営業トークを開始した。
「初期の設備としてこれだけのものを設置されるとなると、作成されるものはそれなりに大型になると思われるのですが、屋内用のクレーンの類はすでに設置隅でしょうか?」
それ以外にも色々と設備や工作機械について営業トークを重ね、中には参考になる話も多々あったものの、話を重ねるたびにクロスタの周りの気温が少しずつ下がってきているような雰囲気に等の店員は気が付いてなかった。
「ガラク、本当にこの店で買うの?」
「うーん、でも次の公休日まで回すと時間がもったいないし、今日買った分はこの店でもいいと思うけど・・・」
え?という表情を見せてクロスタとガラクを見比べる店員。
「わかってないようだけど、私は頼まれた付き添いで購入するのは彼よ?机とかのお金払ったのも彼でしょ?」
でも格好が・・・などとブツブツ言ってる
「格好は関係ないわ。誰が買ってお金を払うかでしょ」
はっとなったビーバーはガラクに対して平誤りをしてきたところにクロスタが横から新たな要求をしてくる。
「貴方、そこそこ大口の取引になると思ってたんでしょ?ガラクはできるだけ早く納品されるのと割引させるのでどっちがいい?」
ビーバーがクロスタに対して頷いたのをみつつ、ガラクは当座のお金には困っていないため早めの納品が助かると回答した。
「では、明日の早朝までに納品と設置まで完了するなら消耗品や新規購入の取引をこの店に絞ってあげるわ。ただし、この後、予定があるから什器設置位置の指示は明日の朝にガラクからするわ。どうするの?」
ビーバーは少し苦い顔をしつつも少々お待ちくださいと少し席を離れ、インターフェイスに配送状況の確認や人の手配の連絡を行い、明日の早朝までの納品・設置は可能ですと回答してきた。
「よろしい。言っておくけど、キャッシュだけでいえば彼の方がお金持ちよ」
最後の一言にガラクを見る目が若干変わったように見える店員を眺めつつ、クロスタの家の資産ではなく現状の彼女本人の所持金ということであれば間違えではないなと思ったのであえて訂正する必要はないと判断した。
ただし、収納魔法に格納されている膨大な量の資源などは含まないのが前提だが。
「納品の部分についても契約書を取り交わすのよ。今後の取引はとりあえず継続されるのだから営業はまた別の機会にしておきなさい」
そう言われたビーバーの店員は今日商談を行うことは諦めたのか、今後何か入用があった際には是非ご連絡をと自身の連絡先をガラクに渡すことを申し出た。
ガラクは取引相手を変える度に必要な消耗品の説明などを行うより、今後もこの店舗と取引を行う方が手間を減らせるから受け取っておきなさいとクロスタに耳打ちされたてめ、それに従って素直に受け取ったことによりその場は丸く治った。
「明日は仕事を休んで納品の受け取りなさい」(ママにはガラクは明日はお休みって言っておいてあげるから、お仕事はお休みして今日買ったものの納品や設置に専念してはどうかしら?の意)
もちろんガラクとしてもどこかで納品物の受け取り等を行う必要があるとは考えていたため、配送日に合わせて休暇申請をする予定でいたため作業部屋のセッティングが早く完了する分には問題はなかったのでその方向で副社長に連絡してもらうようお願いした。
契約の締結時に什器類の設置指示は明日の一般的な会社の始業時刻に行うこととして、購入した物品の納品はそれ以前に完了することで合意し、4人が店を後にした頃にはそろそろ日も沈もうかという時間になっていた。
「ちょっと遅い時間になっちゃったね。せっかくだからどこかで晩御飯も食べて帰ろうよ」
実のところ、ガラクは買い物ですっかり疲れてしまい家に帰ってから食事の準備等をする気力が残っていなかったため、クロスタとパリスに奢ることを盾に食事を済ませて帰りたかっただけだが。
「お母様に確認するからちょっと待ってて」
クロスタはそう言いつつ少し離れたところで母親に連絡をし始め、漏れ聞こえる範囲では「せっかくガラクが!」とか「ママ!お願いだから!」とか色々と話をして、数分して戻ってきた。
「お母様の了解は得てきたから大丈夫よ。どこへ行くの?」
そう聞かれて、クロスタが普段外食に使っている店はガラク達が入店できないことを思い出し、R/R社の従業員が帰りによく寄っている、酒類も出る定食屋といった店がありそこが美味しいと聞いているのでそこではどうかと提案してみた。
ガラクは経済状況やスクラの夕食の準備などもありその店に入ったことがなかったし、クロスタにしてみればそういう大衆店的な店で外食をした経験がないので興味津々で了解してきた。
なお、パリスは夕食を一緒に摂ることは即答で了解しているし、スクラは皆んなで夕食は楽しそうだと嫌がっていない。
話がついたところで大型商店に入ってきた時の停車場で人目のつかない位置に移動してヴィークルモドキを取り出すと、今日購入した衣類や撮影機材類を後部の収納部分にしまってから店に向けて移動を開始した。
R/R社近くまで近づいたあたりでクロスタが母親に許可をとっているからと社屋の停車場にヴィークルモドキを入れるように指示してきた。
社屋の敷地内を経由してそのまま地下の停車場にヴィークルモドキを入れて降車し、後部にしまった今日の荷物も含めて全て収納魔法に格納し、社屋の階段を使用して屋外に出てそのまま徒歩で話に聞いた食事処に向かう。
R/R社の従業員から聞いた範囲の話となるが、この店は高級店のように食材を材料で購入してきてこの場で調理しているものの、この界隈の住人の経済状況でもたまの贅沢程度の料金に料理の値段を抑えている。
そのため、通常の食事処よりメニューが多い上にメニューからどんな料理か想像できないものも多いが、何を食べても美味いと言うのがもっぱらの噂だ。
普段のこの時間帯は仕事後の人たちが食事や酒を求めて常に満席状態だが、入店して見ると公休日のためか客は数組の家族連れが疎に座っているのみで閑散としている。
「ヘイラッシェッ!」
聞き慣れない言葉が大声で聞こえてきて、4人で一斉にビクッとなり入り口で止まってしまう。
周りの客がその様子を微笑ましげに見ているがガラク達は誰も気が付かない。
大きな声を上げたのはカウンターの中で調理を行っている黒い猿の獣相の男性で、おそらくこの店の主人と思われる。
「今日は空いてんでお好きな席にどうぞ!」
とにかく声がでかくちょっとビクビクしながらも近場の空いている4人席に腰を下ろす。
すると黄金色の被毛が美しいこちらも猿の獣相の女性店員がすかさず飲料のボトルを4人分席に運んできた。
「いや、たのでないですけど・・・」
「このボトルはサービスですから気にせず飲んでください。ご注文はお決まりですか?」
飲食店で飲料をサービスするとはなかなか剛気な話だが、せっかくなのでいただくことにする。
「あの・・・初めてきたので何かお勧めはありますか?」
「でしたら、この肉煮込みをライスに乗せた牛丼か肉を卵とじにした親子丼がおすすめですよ」
話を聞いてもどんな食べ物か想像がつかない4人は、それぞれの料理を2つずつ頼んで取り皿でシェアすることにし、ツケ合わせてサラダを注文することにした。
少し待って出てきた料理は大きな深い器に料理が山盛りになっており、片方は明らかに肉と何らかの野菜が煮込まれたもの、もう一つは黄色い何かに包まれた肉といった感じだ。
それぞれ匙でとりわけして早速食べてみると、牛丼は甘塩っぱいタレに肉の風味がしっかりとしており、親子丼は似たような甘塩っぱいタレなのに黄色いものが濃厚なコクを出していて、どちらも似たような料理なのに全く違う味わいをしていた。
「ちょっとサラダは合わなかったかもしれないわね」
そう言いながらもすでに自分の分は完食している。
と言うよりも全員がすでに完食していた。
ガラク本人はすでに満腹だが自分より体が大きく食事量も多いスクラが足りているとは思えないし、それよりも上背のあるクロスタももしかしたらたりてないのではと心配したガラクが声をかける。
「スクラ、足りてないだろ?追加で何か頼もう。追加するから2人も食べてみたい料理頼んでもいいよ?」
そうこえをかけた瞬間にクロスタがてを上げて店員を呼び、スクラは料理の内容がわからないにも関わらずテーブルに備え付けのメニュー表を取り出して睨めっこを開始した。
「自分はちょっと味見だけさせてもらえると嬉しいっす」
体格の小さなパリスはガラク同様にすでに満腹のようだ。
パリスと話している横でスクラとクロスタは店員を捕まえてどの料理がどういうものなのか一つずつ説明させ、その中から何種類かの料理を注文した。
出てきた料理は肉と野菜を炒めたものや何かの切り身をこんがり焼いたもの、黄金色の衣がついた肉の塊や汁の中に大量の具材が煮えているものがテーブルに並んでいく。
料理が出てくるたびにスクラは両方のほっぺたがパンパンになるまで詰め込んでからもぐもぐし、クロスタは綺麗なテーブルマナーと見せかけてものすごいスピードで手が動き、そのたびにテーブルの料理がごっそり口の中に消えていく。
その横からガラクとパリスはちょっとずつ御相伴に預かり味を確認していくのだが、どの料理も非常に美味で食事時に常に満席になっているのがわかる味だった。
食事を終えて会計を済ませると、それなりの金額となったもののこのクオリティーならむしろコストパフォーマンスが良すぎるといっても過言ではない。
会計の間に店の前で待たせていた3人にガラクが合流すると
「今度、家族を連れてくるわ」
クロスタの父親である社長なんかは、会社を立ちる前は同業の仕事で金を稼いでいた時期があるのでこの店を知っていそうな気もするが、この味なら誰を連れてきても問題ないだろう。
その横でパリスは次の給料日までまだ何日もあってしばらく食べに来れないと絶望している。
「お兄ちゃん、美味しかった!また今度の公休日に連れてきて!」
ガラクとしても大変美味しかったので連れてくるのは全く問題ないが、この勢いだと公休日のたびにここに連れて来させられる未来が見えるため
「次は最初の魔法が覚えられたら、そのご褒美に連れてきてあげるね」
と釘を刺すことを忘れなかった。
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