017_ガラクと作業場所(その1)
スクラに詰め倒された2日後、詰め倒された翌朝にパリスに対して終業後に作業場所の条件に合致する場所の確認ができる日を告げた日の次の日。
つまりは作業場所候補を確認する当日、魔力結晶は初日よりはちょっと大きくなったような気もするが実用に耐えるサイズにはなっていないのを確認した後に出勤し、ガラクに歩み寄ってくるパリスと挨拶を交わしてからヴィークルに乗り込み、仕事をしたふりをしてから同じヴィークルに乗車して帰社し、受け取り担当に収穫を担当者に手渡し、ロッカールームで着替えるところまではいつもどおりだった。
終業後、約束どおりパリスの案内で目的地に向けて移動を開始した。
「兄貴、これから行く場所は別に秘密ってわけじゃないんすが、あんまり大っぴらな組織じゃないす」
「そこって何か犯罪とかに関わってるわけ?」
「いや・・・俺みたいに小柄な体格の人間のおたすけ会みたいな感じっすかね?」
そこで疑問系で聞かれても行ったことのない場所なのでガラクにもよくわからない。
「別に悪いことしてるところじゃないから警戒しなくても大丈夫す」
そう言われながら公共交通機関を利用してしばらく移動し、隔壁沿いの駅で降りてさらにそこからしばらく歩いたところに大きめのビルがあり入り口にはそれほど大きくない看板に『ビッグマン・本部』と記載してあった。
ビッグマンという単語に少し聞き覚えがあり、記憶を掘り起こしてみると、小型の獣相が発現した人たちがお互いに色々な理不尽から自分達を守るための互助組織と言ったイメージの組織だ。
代表者はかなりの資産家らしく、その人の経営する複数の企業からの寄付と言う形でビッグマンの運営資金を提供したり、集会所として使用できるビル、おそらく今入ろうとしているこのビルを準備したりして、かなり大きなコミュニティを形成している。
なぜこんな話を知っているのかと言えば、以前、ニュースに出演してインタビューを受けているのを見たことがあるからだ。
組織の代表がそういったインタビューを受けるていることだし、確かに何か後ろ暗いことをしているわけではないのだろう。
「最初はここの運営してる知り合いに会って欲しいす」
よく考えなくても自分より若く歩合をガラクに頼っているパリスがスペースを準備したのではなく、それができそうな知り合いに相談をしたと言うことなは想像に難くない。
パリスの指示に従い入り口の受付に座っているおそらく何かサル系の獣相と思われるクリっとした目が印象的な女性に話しかけて来訪者登録を行い、エレベーターホールから乗り込んだエレベーターでパリスが最上階の1フロア下の階をタッチし動き始めた。
エレベーターの押しボタンの位置が普段何気なく使用しているものよりはるかに低く、この高さならガラクでも苦も無く操作できるなと眺めていると。
「兄貴、今から会う人はちょっと変わってるす。何か聞かれたら疑問があってもすぐに答えてほしいす」
ガラクが無言で頷いて間も無く到着したフロアでパリスは迷うことなく奥に進んでいき、一つの扉の前に立つとホロムービーでしか見たことのないアンティークの様な金属製のノッカーを2度操作して室内に対して来訪の合図をした。
内側から入室の許可の声がかかり、パリスは躊躇なく中に入っていったためガラクもそれについて入室した。
「君。身長体重は?」
「・・・153cm、52kg」
「ふむ。ギリギリだが要件は満たしていると言える。氏名と年齢は?」
「ガラク、16才」
問いを重ねてくる相手は見る角度によって緑や金色の金属っぽい光沢の鱗が生えた、おそらくトカゲと思われる獣相の男性だった。
ついさっき思い出したビッグマンに関するニュースで、代表と紹介されてインタビューを受けていた人物だったはずだ。
確か名前は・・・
「失礼。質問ばかりで自己紹介がまだだった。ビッグマン・ロード・グランザム。知ってるかも知れんがね」
確かに知っていた。
ただ、一般に知られている程度の知識で、グランザムはこの衛星の富裕階級で本星の支配階級と同じように爵位を持っている程度のことだけだ。
基本的に本人のIDと名前で個人の識別が可能なこの衛星で、家名があるだけで珍しい。
相手の名前を確認したところで、ガラクは急に緊張してきた。
「君は自分の状況がどれほど悪くても、例えばそれほど遠くない未来に君の家庭の経済が破綻する様な差し迫った状況下において、助けを求める弱き者を前に無視も足蹴にもせず、躊躇せずに差し伸べる手を持った者のようだ。滅多にお目にかかれ無い存在ということだ」
ガラクはベタ褒めされてチョット照れたものの、あの時はたまたま状況が好転していたし、手元、収納魔法に格納した中にパリスに渡しても全く微動だにしないほどの資源がある状況で、金銭的には今後の不安が無いどころかかなり余裕のあった状況だった。
そう言った内容で言われたことを否定しようとしたが、ビッグマンの話は続いており、こんな偉い人の話を途中で遮っていいのかの判断もつかず、結果として話を聞き続けるしかなかった。
「それは組織内においても教育と規則で厳格に徹底しないと成し得ない。その精神性は美徳ではあるが、他人に付け入る隙を与える弱点でもある。非常に残念なことだがね」
「君の様な若い人物にとって僕の話は否定したいものかもしれないし、君の中での何か別の損得勘定が働いたのかもしれない。だが、結果としてパリスは君に助けられ、君はパリスの信頼と言う得難いものを獲得し、その信頼こそがパリス自身の行動を促し、結果として君が望む要件を満たした場所を用意できる私との邂逅を果たした。これほどシンプルに美しく誰が聞いても素晴らしい結論はなかなかお目にかかれるものではないと思うがね」
「この世で重要なのは行動だ。経緯や言動がいかに素晴らしかろうと行動に移さなければ意味はないし、行動がなければ結果も無い」
「逆に心の中にどんな損得勘定や打算があろうと、他人は君のことを行動でしか評価しない。身近な例えで言えばパリスを見れば分かるがね」
「さて、僕の持論などと言うくだらないもので君の時間を費やすのも行動としては良くないことかもしれない。君は場所が必要だと聞いている。案内をつけるから確認をし、その場所を使うかどうか判断をしたまえ。僕としては使ってくれると用意した甲斐があるがね」
「これは僕なりに君の精神性に対して若干の敬意とそれなり打算があっての行動だ。だが、おそらく君は僕に感謝してくれるだろう。それがどう言うことか君には分かっているだろうがね」
「念の為に聞くが、君はビッグマンに所属する気はあるかい?まぁ、所属するかしないかに関わらず、今後は君のことをガラクと呼び捨てにさせてもらうので気にしないように。ガラクは僕をロードと呼んで構わない」
「最後にガラク、君は今の精神性を大切に抱えて大人になりたまえ。多分、難しいとは思うがね」
「それから、秘密についてはガラクの良いタイミングで構わない。いつか君から教えてくれたまえ。では、僕はガラクとの出会いによって齎された、まるでシトラスの霧に全身を包まれたかのような濃密な清々しさを満喫したいので退室したまえ」
結局、一方的に話をされてそのまま退室した。
部屋の外には大きな耳を備えたイヌ科と思われる獣相のガラクから見ても小柄な男性が一人待機しており、セパスヤンと名乗るとそのまま付いてくるよう促されたため、ガラクとパリスはその男性に付いてエレベーターに乗り込んだ。
「パリス、あんな偉い人と直接話せるの?」
「自分は運営事務局の知り合いにそういう場所が用意できないか相談しただで、代表がいる部屋に行くように言われたのは昨日す」
なぜパリスは元よりガラクの状況すら把握していたのかはよくわからないなと思いつつ、案内の男性に促されてエレベーターを地下一階で降り、そのまま男性に付いて移動して一室の扉の前に案内された。
「こちらの部屋になります。室内の確認をお願いします」
そう言うと、案内の男性は扉を開いて中に立ち入ると部屋の明かりをつけ、二人の入室が完了するのを内側から扉を押さえて待機した。
それを見たガラクは何かに追い立てられるようにイソイソと室内に入り、ぱっと見で広さ的には作業用コンテナが出せるので問題ないな、などと思いを巡らせながら部屋の中を見渡しているとセパスヤンが今いる部屋について説明を開始した。
「この部屋は外部からの盗聴・盗撮などに可能な限り対策がなされておりますし、組織内のネットワークからも隔離されておりますから、情報セキュリティという意味では富裕層区画でもこれと同等の環境を準備するのはなかなかに難しいことかと存じます」
それこそ人に見られない場所であれば廃棄物の上で良かったガラクにとって、想定してものより遥かに高度な設備にガラクは唖然としてし声も無い。
「一言申しますと、
そう言いながらセパスヤンはガラクの方を向き直る。
「こちらの設備、ガラク様の御心にかないますでしょうか?」
ガラクはガクガクと首を縦に振ることしかできなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます