016_ガラクと魔力操作(その1)

 ようやく魔力操作を教えるのに必要な魔法陣が完成した翌朝は普段より1時間ほど早く起床して部屋の片隅に仮設した魔力結晶化の魔法陣の様子を見る。

 それほど時間が経っているわけではないのでほとんど変化がないことを確認してからスクラを起こし、登校前に魔力操作のための準備として完成した魔法陣を使用して休眠状態の魔力を活性化させて魔力を認識できるところまで魔法に関する勉強を進めることにした。

「前にも言ったけど、魔力操作の練習は絶対に1人でやっちゃダメだからね?もしやったらもう魔法は教えないから」

 ガラクは起こしたスクラを自室に招き入れると、魔法陣を準備しながら以前魔法を教えると言う話をした時にした約束の念押しをした。

 この魔法陣は手を翳して発動させる通常の魔法陣とは使用方法が異なるため、スクラには魔力操作を教えるための手順と合わせて説明した。

 説明した内容を端的に表すと、

① 魔力操作を覚える者(以下、「対象者」と言う)を魔法陣上の規定の位置に座らせる。

② 魔力操作を教えることがができる者(以下、「教導者」と言う)が規定位置に座っている対象者の頭頂部に左手を翳す

③ 教導者は②の状態から対象者に内在している魔力を経由して魔法陣を発動する(その際、休眠状態でも問題ない)

④ ③により起動した魔法陣に対し、教導者は対象者の魔力を魔法陣側に押し出すように魔法陣に流し込む

⑤ 対象者は④により押し出された魔力が魔法陣を作動させているフィードバックにより魔力の存在を知覚

⑥ ⑤の状態から自身に内在している魔力知覚し、それを自ら魔法陣に流し込んで魔法陣のフィードバックを受けられるようになる

 ⑥までの手順を完了することによって魔力操作の第一初歩を覚えることができる仕組みとなっており、最初の内は魔法陣の起動を教導者が実施するが、慣れてくれば自身の魔力で魔法陣が起動できるようになるようだ。

 初歩を覚えた後も魔法の練習と並行して魔法陣を使用することで、魔力操作の練度が上がるので、この魔法陣の使用頻度はかなり高いと言える。

 なお、ガラクについては魔力操作の方法をデータとして保有している上に、廃棄物の中から脱出した際の大量の魔法使用を背景にデータが魔力操作の練度を後押ししたような状態となっているため、既に魔法陣による魔力操作の練度向上が必要なレベルは遥かに超えているため必要ない。

 ガラクの指示を受けて魔法陣の所定位置に座ったスクラは、座った後もモゾモゾしているところを見るにかなり期待が膨らんでいるでおり、魔法について話をされてから準備期間に魔法の発動に関する勉強を先に進めていることも期待感を更に強める要因の一つとなっている。

 座っているスクラでも頭を真上から抑えるには若干ガラクの身長が足りないため、部屋にあった適当な箱を踏み台としてスクラの前に置き、上に乗ってようやくスクラの頭の真上に手を置くことができ、魔法陣の発動を開始する。

 教導する側としても普段は手を直接魔法陣に接触させて発動させているところ、間にある休眠状態の魔力を巻き込みながらその向こうにある魔法陣を起動するのは失敗は無いとはいえ、自分とは違う魔力を操作するため神経を使う作業となる。

 魔力は特に魔力を蓄える臓器のようなものがあるわけではなく、主に脳と背骨を中心とした神経細胞等に内在している。

 かといって、魔力を動かすことによって神経が傷ついたりしないので、どう言う状態で蓄えられているのかは実はよくわからないし、タブレットにもそういった部分に内包されているものの詳細は不明となっていた。

 とは言え、他人の神経細胞に関わる部分に自身の魔力を使って干渉する作業は慎重に行うに越したことはない。

 自身の左手から魔力を少しずつ放出し、スクラの頭部から背骨などの人体における重要器官内に内包されている休眠状態の魔力を僅かに絡め取りながら魔法陣における発動スイッチに当たる部分に魔力を流し込んでいく。

 一度、魔法陣が魔力を受け取り魔法陣が起動を開始すると、特に意識することなくガラクの魔力を吸い込み始め、その魔力に影響されながらスクラの魔力も魔法陣へ吸い取られていく。

 スクラは黙って座っているが、魔力を魔法陣に流すこと自体に苦痛はないものの、今までに無い感覚に違和感を覚えているようだ。

 しばらくすると魔法陣が完全に発動し、魔法陣に流れ込んだ魔力の元の保有者が魔力を内包している場所に魔力を戻しながら、休眠状態にある魔力を活性化させていく。

 10分もやっているとスクラが疲れ始めたので、最初の魔法陣の使用による魔力の活性化を一度中断、その後、休憩を挟みつつ2回ほど魔法陣を発動するころには、多少、スクラの魔力も休眠状態を脱し始めていた。

 登校前に1時間早く起床した上で初めての魔力操作の連取となるため、この後学校へ登校することを考えるとあまり無茶をさせるわけにもいか無い。

 タブレットに記載のあったとおりであれば、学校から戻ってきたころにはまた休眠状態に少し戻っていると思われるが、魔法陣の発動による刺激をなん度も繰り返していると完全に魔力が活性化し休眠状態へ戻ることがなくなる。

 その後、さらに自身で魔力を動かす練習として1人で魔法陣の発動までできるようになって、初めて魔法の使用の準備が完了となる。

 魔力操作の練習を終了した2人は家を出る前に急いで食事を済ませ、いつもどおりスクラを送り出してからガラクも会社へ出勤した。


「兄貴、うぃっす」

「おはよう」

 ここ最近は出勤するとパリスが寄ってきて兄貴と挨拶をしてくるのにも慣れてきて返事を返すことができる様になってきた。

 今までガラクは特に誰かとつるんで仕事をすることも少なかったが、会社に雇われているシーカーは1人で行動する者と複数人で徒党を組んで作業をする者のふた通りに分かれる。

 ガラクは基本的に無口で積極的に他者とコミュニケーションを取るタイプではないし、良く言えば慎重な、悪く言えばかなり臆病な性格をしているために学生時代も心のどこかで常に他人を警戒して親しい相手はかなり数が少なかったし、R/R社に入社後は以前と加えて自分より年上の人間に利用されることを警戒してできるだけ関係を持たないようにしていた。

 徒党を組んで作業する作業員達の基本方針ももちろん安全第一だが、複数人でできる限り安全を確保しつつ作業をするし、何か事態が発生した時に仲間内の者はできるだけ救助する努力をするという暗黙の了解の元作業を行っており、実際に何か不測の事態が発生した時に本当に助けてもらえるかどうかはわからない頼りない口約束とは言え、それを心の支えに集団で作業を行右ことになる。

 会社側にグループとして登録しておくことで、複数人で作業を行った場合の歩合の分割と言う報酬の支給方法を選択することもできるため、自信に収穫がなくても基本給以上の手取りとなる可能性が高くなるため、収入は比較的安定すると言える。

 徒党を組むことについて、従業員の中には他人のアガリを掠めることしか考えていないような狡い作業員も一定の割合で存在するなど、徒党を組むことによって発生する人間関係を元にしたトラブルが発生することが少なくないなど、デメリットが少なからずある。

 しかし、会社側としては会社の収支は大きく変動しない中、複数人で安全を確保しながら作業するためグループに所属している人員の事故率の減少など、長期的な視点で考えた場合に会社側としてのメリットも多いため、歩合の分割やそのための事前登録など給与に関する制度化などにより暗に推奨しているのは想像に難くない。

 現に、R/R社に雇用されることとなった際に、社長や副社長からは安全確保のためにすでにある徒党に所属することを勧められたが、ガラクはその性格やコミュニケーション能力などを理由に従業員による現場での作業指導が終了した段階で所属の必要なしと判断して徒党へは所属しない旨社長と副社長に宣言したという経緯がある。

 ただ、最近のパリスの態度について、以前の様に警戒をあまり抱かないことやパリス自身を別に嫌いでは無いため、今朝はガラクからパリスにグループを組む提案をしてみた。

 すると、パリスは自身の端末のホロを見せ、すでに申請に必要な項目は入力済みのため、今、この場で事務局に申請を送付していいか聞いてきた。

 ガラクは自分から提案したことでもあるためそのまま申請を出しても問題ないと回答しつつ、なぜ既に入力が完了した様式をデータで持っていたのか確認したところ、どこかのタイミングでパリスからお願いするつもりでおり、勢いで押し切るための小道具として準備していたと正直に話した。

 他にも何か企んでないか聞いてみたものの、兄貴の収穫を一定量確保する方法がわかるまでは方針も決められないので、現在のところはないと回答があった。

 将来的には何か企むつもりがある言いっぷりに、にいつもであれば警戒心を抱いてもおかしくない内容であるにも関わらず、なぜか嫌な感じがしなかったことに気がつき、思わず苦笑がこぼれてしまった。

 その苦笑を了解と解釈したパリスは、ガラクの気が変わるのを恐れるかのうように急いで申請書のデータを事務所に送付した。

 グループ申請が完了したため、ガラクに対しグループ名を何か考えた方が対外的にも良いと提案したところ、そういったことにあまり興味の無いガラクは自分でも考えてみるがパリスにも何か案を考えて欲しいと話をした。

 パリスは書類の準備はしていたものの、グループ名についてはそんな返しがあるとは想定しておらず、事前にグループ名を考えて準備してはいなかった。

 そのため、ガラクにグループ名は今日中に決める必要があるわけでは無いこので、しばらくじっくり考えて良さげな名前を出しあいましょうと言ってその場はお茶を濁した。

 その後はいつも通りシーカーポイントへ向かい、ガラクがパリスの視線すら遮った場所で2人の袋に資源をある程度詰め、帰社まではスクラに魔法操作を教えるための手順について考えたり、魔法陣を起動する際のより効率的にスクラに魔力操作を覚えさせるための方法などを取り止めもなく考えていた。

 その日の受け取り担当への資源の提出についてはパリスからの申し出もあり、2人分をパリスから受け取り担当に提出し、その際受付からに給与支給の際に加算される歩合について、2人の間における支給割合について問われた。

 ガラクがそういえばパリスとその辺りの取り決めについて話し合いをしていないなと考えてと横合いから

「ガラクの兄貴が7で、おいらパリスが3で処理して欲しいす」

 とさっさと告げた。

 あんまり歩合に差があると側から見た際にガラクがパリスを搾取している様に見えないかと反論したが、グループのリーダーはガラクで登録してあり、グループリーダーとそのグループへの所属した従業員間における歩合の差は他の少人数グループを参考にしているので問題ないと言うパリスの言い分にに言いくるめらるてしまい、2人が言い争い(?)をしている間に事務手続はパリスが告げた割合で受理したことを担当者が告げた。

 割合に納得でずにブツブツ言っているガラクに対し、

「兄貴が何をしているかはわからないすが、何やら忙しい様すよね。世話になってるんで雑事はこっちに任せて欲しいす」

 とガラクに告げた。

 確かに日中はスクラの魔力操作の練習のための手順に沿って準備できることがないか考えたり、その先の耐熱の魔法の教え方について考えたりと、資源の回収という危険な作業を行いながらでは考えることが多いと感じていたため、その申し出は正直ありがたかった。

 本人にも原因がわからないがガラクのパリスに対する信用度はかなり高く、今までのガラクの人生においてこれほど短い時間で人を信頼したことは記憶にないほどで、その信頼は学生時代から現在の仕事に就業するまでの間、一貫してガラクと仲良く接してくれたクロスタを超えはしないもののかなり近いものとなっている。

 手続きが完了してロッカールームで着替えをしていると、パリスから思いがけない申し出があった。

「この前探してた場所について、該当しそうな場所が2箇所ほど見つかったんすが、確認してもらう時間って取れますか?」

 この話をパリスにしてからまだ2日しか経過していないためガラクは目を見張った。

 正直、直近絶対に必要な魔法陣2面については作成が完了しているものの、今後も魔法陣を作成したりする機会は多いと思われるし、今回自宅で作成した魔法陣はギリギリガラクの自室で作成できる程度の大きさだったため問題なかったが、魔力結晶を作成する魔法陣の方のサイズは比較するとかなり大きいく、タブレットにある魔法陣にはそれ以上のサイズのものがいくつも存在していて、それらを作成することとなった場合に作業用コンテナを展開しての作業は必須とな利、そのスペースが確保できることは正直ありがたい。

「普段は従姉妹の世話があるし公休日も予定がある。従姉妹と話をしておけば平日の終業後に多少の時間は確保できると思う」

「じゃ、兄貴の都合のいい日に声かけてもらえれば案内するんでそれでいいすか?」

「・・・助かる。本当にあてが?」

「兄貴に嘘はつかないす」

 その話が本当であればガラクにとって非常にありがたい話なので、信用した上でスクラに晩御飯を1人で食べてもらう日を決めることにして帰宅した。

 

 帰宅後、夕食後にガラクの自室で朝と同じように魔法陣を使用した魔力操作の練習を行った。

 やはり朝、最後に魔法陣を使用した直後よりは休眠状態に近寄っていたものの、思っていたより活性状態を維持できていたし、その後はシャワーを浴びて就寝するだけなので多少疲れても問題ないと判断して朝より練習の回数をこなした。

 練習をしながら、このペースで練習が進めばガラクが想定していたより早く魔力操作を習得できるのではないかとスクラに考えを話しておいた。

 練習を修了した後にパリスからの話について説明した上で、今週のどこか一日、夕飯を一人で摂って欲しいと話をしたところ、壁に追い詰められた上に物凄い圧をかけられつつその日の練習はどうするのか問い詰められた。

 結局は明後日に夕食を1人で食べるが、当日も可及的速やかに帰宅の上で練習時間を可能な限り確保しますと約束をさせられ、ほとほと疲れてながらも魔法陣の上の魔力結晶のサイズ確認だけは忘れずにしてから就寝した。

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