002_ガラクとスクラ

 スクラは1年前に亡くなった叔母であるスクルが残したホッキョクグマの獣相が色こく現れた少女で、ガラクの知る限り唯一の血縁者となる従姉妹である。

 叔母の死因は廃棄物落下災害。

 居住区は元コンテナ受け取り用の軌道エレベーターを中心に広がっている。

 比較的廃棄物落下災害の少ない地域に作られているとはいえ、数年に一回程度は居住区付近に廃棄物コンテナが落下するため、比較的ありふれた災害として認識されている。

 落下地点にもよるが居住区には防壁もあるため、居住区外に落下すればそれほど大きい被害は出ないが、居住区内に落ちるとかなりの死者が出る。

 昨年の廃棄物落下災害は廃棄物がそれほど大きなものではなく居住区外に落ちたため比較的災害範囲は狭かったものの、その災害範囲に叔母の勤める教育機関が入っており、多数の年若い生徒を含めた大量の人が亡くなると言う痛ましい事件となった。

 災害現場は凄惨を極め、被害範囲内は廃棄物の落下による衝撃波で建物すらもすり鉢状にスリ潰されており、遺体は戻ってこなかった。

 それからガラクの生活は一変した。

 叔母スクルは女手一つとは言え、教職という職に就いており家計は裕福ではないものの休日に行楽を楽しむ程度の余裕があるだけの収入があった。

 それは亡き兄の一粒種であるガラクを引き取り、生活の面倒を見たり学校に通わせた上での話である。

 彼女は教職に相応しいと言っていいのか、非常に公平な人格をしていた。

 そして生来の面倒見の良さからか、スクラとガラクを実子と養い子で区別せず分け隔てなく養育ていた。

 そんな彼女がガラクに常日頃から学校を卒業する頃には就業に困らないイエローチップの使用権利を購入するから、どんな職に就きたいかよく考えておくように言っていた。

 ガラクもかなりの出費となるその申し出を申し訳なく思いつつ、その恩はこの過酷な環境の衛星に暮らすかぎり将来にあまり選択肢の無いスクラがせめてお互いを支え合える相手が見つかるまでは支え続けようと心に決めていた。

 そのためにも職業の選択を左右するイエローチップの購入権は必要なことだと思っていた。

 お互いにお互いを思い合う幸せな家庭は廃棄物落下災害により壊れてしまった。

 話は少し変わるが、この灼熱の衛星で極寒の極圏を生息域とする獣相が発現することは、生きていくだけでも過酷な環境に身を晒し続けることを意味する。

 不幸中の幸いと言っていいのか、今まで住んでいた住居はスクラが生きていくために必要なカスタマイズがされており、それらは特段の問題なくスクラが相続したためいきなりホームレスとなることは避けられた。

 叔母スクルがガラクを養子として籍に入れてくれていたおかげで、ガラクも幾ばくかの現金を相続したがイエローチップ購入にはとても足りなかった。

 また、叔母がスクラのために施した家のカスタマイズは、簡単にいうと一つの部屋を丸々冷蔵庫にしたような改造と、スクルが外出するときに着用するクーラースーツのチャージと補修を行うための設備一式を収めた部屋があり、それらの光熱費だけでもバカにならない出費があり、すぐにでも働き始めないと相続したお金もすぐに底をついてしまう。

 今まで自身の収入で暮らしたことがないながらも、マメな叔母がつけていた家計のデータを必死に読み解きその結論に至ったガラクは、叔母スクルが亡くなって一月後には今まで通っていた学校を休学し、当面の生活費を稼ぐための職探しをし、現在就業しているリソース/リペア社にシーカーとして就職した。

 基本給はリスクを考えばそれほど高くないものの、経験・所有チップデータ不問かつガラクの年齢で就職できる中では最も賃金がよく、基本給だけでギリギリとは言え最低限の生活費と家の維持費が賄える計算だった。

 シーカーを初めてみると、発現している獣相による生来の臆病な性格により、研修期間を過ぎても擦り傷以上の怪我もせずに幾つかのイエローチップを探り当てており、リソース/リペア社所属のシーカーの中でも期待の新人と評判になっていた。

 また、シーカーとなる者の殆どは就学経験が無い中、現在は休学しているとは言え学校で基礎学習以上の教養を身につけていたガラクは簡単な事務仕事の手伝いもできたため、シーカーの仕事がない日は本社で別手当の支給を条件にそちらの業務も行なっていた。

 それらの収入と役所からの若干の援助金や家屋の所有が未成年となったための税金控除により、叔母から相続したお金を少しずつ切り崩せば、日々の生活費・光熱費に加えスクラを学校に通わせ続けられる状況を整えることができた。

 叔母スクルが亡くなった後、一月ほどはスクラも泣き腫らし部屋から出てこなかったが、ガラクの前向きな行動を見て自分から学校に通うようになった。

 シーカーの仕事中に発掘したイエローチップは残念ながらロボット工学と機械工作と言う、この衛星で職を探すには殆ど役に立たないハズレチップだったが、それでも頑張れば生活を続けられ、スクラに学校を卒業させられる見通しが立ったことは、叔母スクルが亡くなった後、沈みがちだったガラクとスクラの2人にとって明るい話だった。

 そんな生活を1年弱ほど、ほとんど休む間もなく働き続け、今日もいつも通りに廃棄物に潜り込み、運よくチップが見つかれば晩御飯のオカズに一品追加できるかな等と、今までと変わらない日常が過ぎていくと信じていたが、ルール無用で仕事をする悪徳業者の横暴により、その日常が今絶たれようとしていた。

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