第5話 ハロウィン

 莉菜と私が外で会っているということまでは知られていないと思うけど、学校で、莉菜が私をえこひいきしていると校長先生に投書があったらしい。


 莉菜から後で聞いたけど、校長先生に呼び出され、弁明を求められたんだって。そして、私の評価とかも見せながら、別に他の生徒と比べて優遇しているわけではないし、授業中、具体的にどのような問題の態度が自分にあったのかと、逆に詰め寄ったらしい。


 もちろん、授業中にそんな態度があったなんて事実はないから、証言できる人なんていないし、私の英語の評価も普通だから、結果として問題にはならなかった。英語はもう少し、頑張らないとだけど。


 どうして、精神的に弱っている莉菜を更にいじめるんだろう。そんなことをしても、した人に何にも得がないのに。


 でも、そんなことがあり、また、莉菜は自分の部屋で塞ぎ込むことが多くなってしまい、私に連絡してくれることも少なくなった。


 だから、ちょうど今日はハロウィンだし、仮装して莉菜の家に行ってみることにしたの。渋谷のあたりだと、そんな人いっぱいいるんだろうけど、さすがに品川のあたりだといなくて恥ずかしい。


 だから、莉菜の家の前の公園のトイレで、黒と紫のドレスに着替えて、三角帽をかぶって、杖を持って、莉菜の部屋のベルを鳴らした。


「あら、聖奈さん、かわい~い。今日は、そういえばハロウィンだったわね。少し、散らかっているけど、入って。でも、よく、家、わかったわね。」

「住所は、前回、聞いていたんで、来ちゃいました。でも、こんな格好で来るの恥ずかしかったんですけど、似合ってます? じゃあ、お邪魔します。」

「かわいいわよ。小悪魔って感じね。やっぱり、若いって、いいわね。でも、私と一緒に渋谷に行くとかじゃないわよね。女子高生と一緒に仮装して歩く勇気はないわよ。」

「いえ、今日は、莉菜さんとずっと一緒にいようと思って。そして、せっかくハロウィンだから、仮装してきたの。莉菜さんの部屋、ハロウィンの飾り物持ってきたから飾ってもいいですか?」

「え、そうなの。重い荷物持ってきてもらって、ごめんなさいね。でも、嬉しいわね。部屋が明るくなる。」

「莉菜さん、風船を膨らますのと、紙テープで輪飾り作るの手伝ってくれる。」

「わかった。」


 部屋がゴミとかで雑然としていたのは、莉菜がずっと暗く過ごしていたからだと思う。すぐに片付けて、1時間ぐらい、部屋を飾りつけた。


 そして、少し寒い感じもしたけど、窓を開けて換気をしたら、暗かった部屋がとても爽やかになったわ。莉菜には、気持ちのいい部屋で過ごしてもらいたい。


 そして、ハロウィンって英語の文字の風船をリビングの壁につけて、オレンジ色の輪飾りをした。そして、莉菜は、部屋のどこからか探してきたハロウィンのBGMを流して、この部屋だけは、ハロウィンの世界となったの。


 パンプキンのお化けが周りを飛び跳ねているみたい。オレンジ色が部屋を明るく染め、オレンジ色の夕日も部屋を照らしていて、何か神秘的で、楽しそうな未来がすぐそこに来ているみたい。


 もっと大勢だと楽しいパーティーという感じなんだろうけど、二人だから、アットホームに相手の気持ちに寄り添える。そんな暖かい時間が心地よかった。


「聖奈さんがきて、なんか気分が明るくなったわ。ありがとう。」

「実は、莉菜さんにも、仮装のドレス持ってきたんだけど、着てみませんか。」

「え、私も。でも、せっかくだから着てみようかしら。どんな感じなの。」

「紫色で肩とかはレースで透けておしゃれになっていて、大人らしくて莉菜さんに似合うと思う。」

「ありがとう。着てみるわね。ベットルームで着替えるから、少し待っていて。」


 そして、10分ぐらいして着替えてきた莉菜は、舞踏会のドレスを着たお姫様のように、華やかだった。ハロウィンのBGMは、莉菜が社交ダンスをするために音楽を奏でているみたい。そう、莉菜は、本当は、こんなに華やかなのよね。


 そして、クッキング部で作った、ハンバーグにパンプキンの絵柄のチーズを載せた料理とか作って、莉菜はワイン、私は、オレンジジュースで乾杯した。そして、夕日を見ながら、笑い声いっぱいの時間を過ごした。


 莉菜には笑顔が似合っている。夕日に照らされた、莉菜の笑顔は懐かしい。そう、一緒に付き合っている頃は、莉菜は私の前でいつも笑っていた。でも、最近は、塞ぎ込む時間が多い。


 もちろん、学校でのいじめのような投書も原因だとは思うけど、一番の原因は、私。私が死んだことが、莉菜を苦しめている。本当に、ごめんね。


 だから、少しでも、莉菜を明るくしたい。毎日でも、ここに来て、莉菜を笑顔にしたい。


「聖奈さん、私の顔に何か付いてる? そんなに、ずっと顔を見られると恥ずかしいじゃないの。」

「ごめんなさい。そんな気はないんですけど、莉菜さんには、ずっと楽しくしていて欲しいなって思ってたの。そういえば、校長先生に投書があった件、あんな嫌がらせを気にしゃちゃダメですよ。本当にくだらない人が多いんだから。」

「大丈夫。世の中には、いろいろな人がいて、私が嫌いな人もいるのよ。だから、そんなことは気にしても仕方がないし、そんな人を責める気もない。私は、私らしく生きていくしかないし、聖奈さんがいることで、元気をもらっているわ。」

「莉菜さんは、やっぱり立派ね。」

「そんなことないわよ。」


 でも、お酒を飲むと、笑顔なのに、目からは雫が流れている。私の前だから、無理して笑っている? そんなことしなくていいの。私は、そっと立って、莉菜の顔をハンカチで拭いた。


「あれ、私、泣いていた? どうしてかしら。今日も遅いから、もう帰った方がいいわね。親御さんも心配するから。」

「いつの間にか9時になっちゃいましたね。じゃあ、今日は帰ります。でも、これからも、時々、お邪魔しますので、入れてくださいね。」

「もちろんよ。」


 私は、莉菜のベットルームで着替えさせてもらって、部屋を出た。そして、LINEに今日のお礼のメッセージを送ったけど、ずっと既読にならない。多分、一人でまた泣いてるんだと思う。

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