第8章 優しくさようなら

第1話 発砲事件

 池袋でピストルの乾いた音が響いた。暴力団どうしの発砲だった。


 組長が車を降りた時に、対抗する組の組員が拳銃で殺害、それを契機に、15分ほどの撃ち合いとなった。これは暴力団どうしの闘争に留まらず、周りの一般市民も巻き込み、13名の死者を出す大惨事となった。


 病院では、すでに死亡した人への対処は何もできず、最後に僕の死亡を見届ける状態だった。僕は、もう死ぬみたいだ。思い残しはいくつかあるが、この段になったら、どうしょうもない。


 医者も、さっき、僕は昏睡状態で、これ以上の治療はできない、あと15分も持たないだろうと言っているのが聞こえた。


 その時だった。見知らぬおじさんが、僕の横に佇んでいた。


「普通は、私の部屋にお呼びして、人生をやり直すかどうかを判断してもらい、進めるんですが、あなたは、もう、そうする力も命も残っていない。そこで、私がここにきて、あなたが、人生をやり直すかお聞きにあがりました。どうでしょうか。」

「やり直せる方法があるのなら、やり直させてくれ。」

「わかりました。では、この赤い薬をお飲みください。」


 僕は半信半疑であったが、この提案にのるしか手段は残されておらず、赤い薬を飲むことにした。そして、この薬のせいかは不明だが、意識は遠のいていった。


 そして、目を覚ますと、白衣を着た女性が私の顔を心配そうに見ていた。


「大丈夫?」

「ここはどこですか?」

「学校の保健室よ。あなた、体育の時間に貧血で倒れたのよ。でも、大丈夫そうね。」

「え、死ぬんじゃ?」

「何言ってるの。貧血じゃ、死なないから安心しなさい。まだ、1時間ぐらい寝てなさい。後で、もう一度、来るから、私が落ち着いていたのを確認した後に、今日は家に帰りなさい。」


 どういうことだろうか。さっきから、私が話している声は女性のもの。少しだけ体を起こしたら、私の姿は女子高生だった。


 記憶を辿ってみると、そういえば、見知らぬおじさんから、人生をやり直すか聞かれ、やり直すと答えた。それが、これだったのだろう。でも、女性になることだとは考えてもみなかった。


 私は、少し休んだあと、保健の先生がいいというので家に帰ることにした。そして、食欲もなかったので、母親らしき人に、今日は食欲ないから部屋で寝てると一言いい、部屋のベットで寝ることにした。


 翌日から、昨日の女子高生に通う日々を過ごすことになったんだ。これまで、男性が多い中で生活してきたから、結構、馴染むまでに戸惑いもあった。女性の言葉も学んだ。そして、江本 聖奈という女子高生として人生をやり直すことになった。


 ところで、池袋の事件の頃、プロポーズをして結婚を控えていた彼女がいたんだ。彼女のことはとても気になったが、今更、こんな女子高生として目の前に現れても、混乱するだけだろうって思った。


 私は、自分が、あの事件でどうなったのか、調べてみたら、時間は、今と同時刻で刻んでいて、私はあの事件で死んでることになっていた。


 だから、彼女には、私は、あの事件で亡くなったと通知されたんだと思う。仮に、私が元カレと莉菜に伝えても、誰って感じだと思うし、年だけじゃなくて性別も違う。


 彼女に会いたい気持ちを抑え込み、彼女も含めて、昔の知り合いには会わないことにし、自分の過去を封印することにした。

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