第7章 幸せとは?
第1話 サラリーマン人生
僕は、入社1年目の冬に、地方の営業所で経理業務をしていて、勤務地の周辺はビルとかは多いけど、そこから10分ぐらい在来線に乗ると田園風景という感じとなり、30分にもなると山中となる。
そんな中で、突然、本社から呼び出されたんだ。何かと思ったら、僕が会社のお金を横領したから、今日を持って解雇、警察に告発すると言われたんだ。
僕は何もやっていない。そう訴えたけど、証拠があるから間違いないって会社は言うだけだった。警察が来るから、それまで自宅待機だって。
僕は、頭が真っ白になり、何をやればいいのか全くわからず、本社を出て夜道を歩いていた。その時に、知らないおじさんから声をかけられ、人生、やり直さないかって。そして、薬を飲んだら、いつの間にか寝ていた。
カーテンを開けたままにしていたのか、朝、強い日差しが、顔を照らした。あ、いつの間にか家に帰ってる。昨日は、どうしたっけ。あ、横領だって責められ、自宅待機を言われたんだった。僕の人生は、もうこれで終わりだ。
そうは言っても、いつまでもベットで寝てられないので、ベットから起き上がり、シャワーを浴びた時に違和感に気づいた。髪の毛は長いし、胸が大きい。
「あれ、何かついている? いや、これって女の胸じゃないか? あれ、下もなくなっている。どういうことだ?」
昨晩のことを忘れていたが、そういえば、おじさんに、人生をやり直せると言われて、薬を飲んだんだった。でも、どうすれば元に戻れるんだ。元に戻れないと言われたような。
シャワールームから部屋に戻ると、壁のハンガーにかけられているのは、女物のブラウス、スカートで、鞄も女のものだった。鞄の中を見ると、宮下 乙葉という運転免許証と、僕が勤めている会社の社員証が出てきた。
社員証にも、宮下 乙葉と書かれ、女の顔写真がプリントされていた。名字は同じだが、下の名前が違う。そんなことを考えてると、スマホが鳴った。
「宮下さん、もう出勤時間は過ぎてるけど、今日は休みなのかい。」
「いえ、今、起きたところで、すみません。」
「じゃあ、急いで来てよ。遅刻にはなるけど。」
「はい、わかりました。」
どういうことだ。よく分からないけど、会社に行かなければいけない。こんな姿で行っても大丈夫かな。でも社員証は女性のものだし、よく分からない。
椅子に無造作に投げられていたブラとパンツを履き、メイクはよく分からなかったけど、過去の経験だと、女性なら少なくてもリップぐらいはするだろうと思い、鞄の中のポーチに入っていたリップだけをつけて家を飛び出し、会社に向かった。
会社に着いたのは、10時半ぐらいで、同僚はみんな席に座ってたけど、女性の姿で入るには勇気がいた。その時、後ろから声をかけられた。
「宮下さん、おはよう。早く入りなよ。あれ、昨日と同じ服装じゃん。ということは昨晩はお泊まり? いやいや、そんなことを言ったらセクハラだ。忘れてね。急いだ方がいいよ。」
そう言われて、いつもの自分の席に座った。そうすると、周りは全く不自然なことなく、接してきた。
「宮下さん、木下建設への請求書、出しておいて。」
なんで、女の姿なのに、昨日と変わらずに接してくるんだ。不思議いっぱいだったが、仕事をするしかなかった。そうこうしているうちに、課長から呼び出され、会議室で話すことになった。
「宮下さん、異動だ。9月1日から東京本社の営業部に行ってもらう。これまで、ここで活躍してくれて、ありがとう。明るく、いつも正確な仕事で助かったよ。ここでは事務が中心だったから、東京での営業業務は苦労するかもしれない。でも、宮下さんだったら大丈夫だから、がんばってね。」
「わかりました。まだ、1ヶ月ぐらいありますが、引き続き、よろしくお願いいたします。」
おじさんの言う通り、人生をやり直せるんだろうか。横領なんてことも、ないことになってる。変わったのは、僕は女性として生きてること。
でも、顔は女優並みに可愛いし、バストもかなりあり、鏡でみてもスタイルは抜群だ。これだけの容姿だったら、どの男性も一目置いて、幸せに暮らせるだろう。間違いない。これはラッキーじゃないか。
仕事が終わり、自分のワンルームマンションに戻ったが、そこにある服とかは女物しかなく、どこにも男性としての痕跡は残ってなかった。翌日は土曜日だったので、女性の服を着て周りを歩いてみたが、みんなから見つめられているようで、落ち着かなかった。
何もわからず、自分の部屋に戻るしかなかった。仕事はこれまでと全く同じだったので、生理とかびっくりしたことはあったけど、日々はなんとか順調に過ごすことができた。東京で暮らすワンルームマンションも契約が終わって、来週の月曜日から東京に行くことになった。
そういえば、今更、気づいたんだけど、住民票を動かすときに戸籍も見たんだけど、男性としての証跡は残っていなかった。両親は、男性の時の記憶通り、大学2年生の時に、交通事故で二人とも亡くなったと記録され、自分以外は全く変わっていない。自分が女性だったということだけが変わっていた。
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