第3話 中国へ
悪事を懲らしめるってやつ、もう1人見つけた。都市開発を仕切っているフィクサーだ。こいつは、人間関係を武器に、いろいろな人からお金を吸い上げている。こいつから金を巻き上げて、追放してやろう。
このフィクサー、計画を実行するために、あと30億円が必要らしくて、これを餌に、詐欺を仕掛けるというシナリオを練ってみた。今回は、暴力団のオーナーにお願いして、一緒に仕掛ける男性2人を雇うことにした。もちろん、稼いだお金の1割は渡すっていう約束で。
まず、投資コンサルとしてバリバリのキャリアウーマンに変装して、まず、事業計画書をこのフィクサーに持ち込むことにした。
「初めまして。今日は、耳寄りの投資話しがあって、ご説明にあがりました。」
「本当に儲かるの?」
「まず、お聞きください。最近、闇バイトがニュースを騒がしていますが、闇バイトを運営しているボスが何人もいます。この1人が、他のビジネスをしたいものの、人手が足りないので、この闇バイトの運営を誰かに売りたいということなんです。もちろん、ニュースで言っているように、元締めが明らかにはならない仕組みで、捕まるのは売り子たちだけですし、ニュースではあまり明らかになっていませんが、相当の金額を獲得できています。その額はこのグラフの通りです。」
「俺も、投資する以上、確実なリターンを約束してほしいわけ。どれだけだと思えばいいの?」
「このビジネスは旬もあるので、2年間で撤退することを前提に収支計画を作っていますが、10億投資いただいて、50億円のリターンとなっています。その具体的なパイプラインは、狙う老人宅とか具体名はマスキングしていますが、この表の通りで、かなり現実味のある数字となっています。」
「結局、10億円が2年で50億円か。」
「今日は、顔は見せられませんが、その元締めがPCでお話しさせていただきます。」
そして、俺は、リモート会議を立ち上げ、闇バイトのボスを演じてる男性とフィクサーが会話できるようにした。
「こんにちは。あなたの名前は、ときどき耳にするので、あなたを信用しての、良い話しと思っていますが、どうですか?」
「まあ、悪くないな。疑うわけじゃないけど、こちらの筋からも、あなたの組織を調べさせてもらうよ。話しはそれからだ。」
それから1週間ぐらい経って、そのフィクサーから呼び出しの連絡があった。
「お嬢さん、調べたんだけど、先日、聞いた組織はなかったって。俺を騙そうとしたんだな。」
そういうと、暴力団風の男性5人がドアから入ってきて、俺を囲んだ。
「意味がわかりません。私は、嘘はつきませんし、意味のある提案しかしません。嘘であれば、何をされても結構ですが、そんなこと言われるのは、本当に心外です。謝ってください。」
「わかった、わかった。そこまで言い切るなら、本当なんだな。調べたけど、それらしき組織の実態はあったものの、それ以上はわからなかった。でも、お嬢さんが、ビビらずにそこまでいうなら、信用してやろう。いつ、金を渡せば、その組織を引き渡してくれるんだ?」
「信用していただき、ありがとうございます。では、今週の金曜日の17時に帝都ホテルの305号室で、お待ちしています。こちらは、先日、お話しした元締めと、組織を渡した後に事業をリードする筆頭リーダー、私の3人でお伺いします。お金は10億、現金でお願いします。こちらからは、筆頭リーダーをご紹介して、組織図、ターゲット、それぞれの金額、実行計画をお伝えし、今後のビジネスの進め方をすり合わせさせていただきます。それでいいでしょうか。」
「もちろんだ。ただ、騙したら、一生かかっても探して殺すからな。」
「ご心配に及びません。」
全く不安げな様子を示すことなく、俺は、堂々と返事をした。予定の日に、俺は同席したが、男性2人が全て対応し、10億円を獲得できた。すごいじゃないか。
その後、そんな闇バイト組織はないことがわかり、フィクサーは詐欺で10億も奪われ、金の切れ目が縁の切れ目という言葉通り、業界からそっぽを向かれ、力を全て失った。それでも、恨みで、3人を探し続けた。
男性陣はどうするかわからないけど、俺は、全く顔が変わってしまうように、ばっちりメークしたし、胸パットとか、お尻も厚みを出すもの履いてスタイルを全く変えたし、声色も変えたから、今後もバレないはずだ。俺の変身力、侮らないでくれよ。でも、これって、快感だな。悪い人を懲らしめてやった。
ところで、あのカフェで出会った歯医者との関係は深まっており、部屋を行き来しながら過ごしているうちに、結婚しようという話しになっていった。そこで、俺は、俊夫さんと一緒に、彼の両親にご挨拶にいってみたんだ。
「素敵なお嬢さんね。今は俊夫と一緒のマンションに住んでいると聞いたけど、ご出身はどちらなの?」
「両親が海外で仕事していて、いろんな国にいたんです。でも、ある国で、両親が事故で亡くなってしまい、しばらくそこで保護されていたんですが、数年前に日本にきました。」
「それは話したくないこと聞いちゃったね。ご両親のご冥福を祈るよ。じゃあ、日本の学校は出てないんだね。」
「そうですね。でも、海外でITの勉強して、今は、IT会社で働いています。」
「どの会社?」
「おそらく、ご存知ないくらい小さい会社です。名前を言うのもお恥ずかしい。」
「結婚したら、お仕事はお辞めになるの?」
「今後のことはわかりませんが、当面は、続けようと思っています。」
「そうなんだ。でも、とっても素敵なお嬢さんだ。俊夫のこと、よろしくお願いするね。」
そんな会話で盛り上がり、俺たちは俊夫さんの実家から帰っていったけど、実家では俊夫さんの両親が話していた。
「なあ、結局、美奈さんのこと、具体的なことは何も分からなかったな。俊夫はベタ惚れのようだし、いいかな。」
「そうね。念の為、身辺調査だけしてみましょうよ。」
「そうだな。念の為、念の為。」
その後、その調査で俺と暴力団との関係が分かってしまい、俊夫さんの親は結婚に大反対になった。
「申し訳ないが、別れてほしい。お金なんて興味ないと思うけど、今回は君のことが原因なので、慰謝料は払わないよ。でも、君が暴力団と関係があったなんて、まだ信じられない。」
「頼る人が誰もいない日本に、海外から来て暮らすには、それ以外方法がなかったのよ。でも、言い訳しても仕方がないわね。わかったわ。じゃあ、さようなら。」
親がなんと言っても別れないと言うと思ったけど、やっぱり、外見を気にするような、大した人じゃないんだな。逆に、早く分かって、別れてよかった。その晩、部屋に戻って、1人でワインで乾杯をした。
まあ、よかったんじゃね。あいつのこと、好きだったかというと、よくわからないし。なんとなくの流れで結婚とかになったけど、どうせ、この仕事をしている限り、どこかで破綻しただろうし。
これからもお金いっぱい使って、楽しく過ごそう。紙幣をこうやって、ばーって投げるのって、気持ちいい。お金、お金。仮想通貨でも、ハッキングして、データを改竄してボロ儲け中だし、明るい未来しか見えないな。
今の生活に関心がなくなった俺は、マンションを売り払い、海外でハッカーとして活動することにした。
ちょうど、中国政府が募集しているという情報が入り、すごい金額の報酬が提示されたことと、プール付きの広い一軒家とか、破格の条件が提示されたので、今度は、中国で活動することを決めた。
なんか、中国人として登録して、共産党員にするとか言っていたけど、メリットは何があるのか分からない。
日本にとって、いいことか分からないけど、日本に恩義はないし、世の中は金だもんな。日本では、銀行口座を作れなかったのも困っていたんだ。さあ、世界のマーケットでもっと儲けるぞ。
その2日後、暴力団事務所に、俺がいなくなったとの情報が入ってきた。
「なんだって。美奈のやつ、部屋にいないって。あいつ、裏切ったな。どこに行ったんだ?」
「中国のようです。」
「そうか、じゃ、探してもダメだな。中国は、俺たちなんて太刀打ちできないブラックなハッカー組織がいくつかあって、政府とつるんでやがる。そんな奴らと戦争しても消耗戦になるだけだからな。これまで十分に稼がせてもらったから、よしとするか。次のカモを探そう。」
その会話がされている時、俺は、中国の北京空港に到着し、入口では政府官僚が美奈を待っていた。
「你是美奈吗?」
「是的,我是美奈。你好。」
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